第4話 (37)

 宿に戻る。その足は凄い重かった。

 宿に帰ったら…この繋いでる手を離さなきゃいけない…。

 今は恥ずかしいと思わない。でも…宿に帰ったらチキンな俺に戻ってしまうかもしれない…。と思うと…怖かった。

 だから宿の前で立ち止まった。

 満天の星空…ではなく生憎曇りで何も見えなかった。


「なぁ…レイラ…」

「……すぅぅっ………はぁぁぁぁ………。なぁに?リュート」


 顔が引きつりながらも満面の笑みを浮かべるレイラ。それを見て…涙が零れた。


「…俺さ…」


 声がくぐもる。言いたいことが喉に突っかかる。


「レイラのことが………」


 でも堰が切れたように言葉が…震えながらも出て行った。

 言える。確信したけど…。

 怯えるように俺の手を離して、頭を抱えるレイラを見て。

 震えて怖がって怯えて泣いて目をギュッと瞑って…そんな事をしながらも笑おうとするレイラを見て。

 飲み込んだ。


「……」


 改まって言われそうになると…頭が真っ白になる。今まで言われたときは私がパニックになっててリュートが口を滑らせていただけだから。

 なんとも思わなかった。でも今は…怖い。


 リュートがアイツと重なって…。

 おかしなはなしだ。アイツは強かったしリュートより格好良かったし頼りがいあったし優しかったし。

 リュートよりいいところが一杯あって…どうしてもリュートがその下位互換にも見えてしまう。

 私が好きなのは…リュートじゃなくてアイツなのかも知れない。

 そうなんだ。だから…リュートは好きじゃないから。


 クズだ…。リュートをちゃんと見てなかった。リュートにアイツの着ぐるみを着せていた。



 分かってた。寝てるとき。寝言で…俺じゃない名前を呼んで、俺の手を握って…嬉しそうに笑っていた。

 よくレイラに付き合ってこれたと思う。今までならきっと…すぐに突き放してた。


 好きで好きで好きで。その男が嫌いで憎くて腹が立って。

 レイラを青い血だからと嫌ったそいつを馬鹿にして。

 でもきっと俺に余命宣告が無かったら。死ぬと決めてなかったら怯えてただろう俺にも腹が立って。

 結局一緒でレイラを傷付ける可能性があったことがイヤで。


 こんなにも好きなのに。……俺は自分が…そいつが…。













「レイラが嫌いだよ」


 時間が止まる。周りのざわめきが耳に入らない。レイラだけを見て…そう言った。


 そいつの…俺はお前の目を…しっかりと見て…逸らさずに…言ってやる。

 嫌いだ。俺は…。


「お前が嫌いだ」


 宿に入って最高級の部屋とそこから一番離れた部屋を確保して…数分経ってもその場に立ち尽くすレイラの前に立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る