第4話 (13)


「捨てられた子供なんでしょ」

「早く出てってもらいたいわ。こんな変な病気持つ子なんて……」


 誰もが私を胡散臭げに見る。

 誰もがそうやって言う。


「お前の分の肉なんてねーよ!俺のとーちゃんが捕ってきたもんだ!」

「「帰れ!帰れ!」」


 大人数の声が響く。…私が…私が何を…。


「私が何をしたって言うのよ!」


 あのときそう叫んでたら…なんて返ってきたんだろう…。

 少しは鬱憤が晴れただろうか。


「これからは自分で生活しなさい。十五歳になったら成人だ、子供じゃないんだ」


 ペラリと薄い膜みたいな温かい目を被せている。

 村長がその奥に「ようやく」って安堵してる目を見せる。

 見せつける。


「これください」

「あぁ、200リルだ」

「はぁ?値札には100リルって書いてますよね?」

「たった今値上げしたんだ。別に売らなくても良いんだぞ?」

「……っ……」

「あら、お久しぶり。これいただけるかしら」


 気取った女が私と同じ商品を手に取る。


「おう!100リルだが得意さんだし美人だってことで2割引の80リルでいいぜ」

「あら口が上手いわね~ま、感謝するわ」


 この女のどこがいいんだろう…。正直香水の付けすぎで臭くて鼻が曲がりそうなだけなのに…。


「商売の邪魔だ。買うなら買え、買わないならさっさと出てけ!それとも冷やかしか?」

「……」


 思考を頭の中に巡らせる。今この男をぐちゃぐちゃになるまで叩き潰したらどれだけすっきりするんだろう。

 いや、簡単に殺すなんて駄目。体の末端から切り落とす。そしたら苦しんで私に許しを請い…。

 それを嘲笑いたい。裏切りたい。絶望する、苦しむ顔を見たい。


「……かいます……」


 硬貨を渡す。そして受け取るときにまだ私は触ってないのに床に落ちて、ガラスの容器が割れて…中身が零れ出る。


「おぉっと……。手が滑ったぁ…まぁ今渡したときにそっちが落としたんだよな。店が汚れちまった。清掃費出せよ」

「…………」


 馬鹿らしくなってきた。毎回同じ事を繰り返す。同じ文句をいって同じ文言で追い払われる。


 もう私は我慢できなくなった。だから……夢に描くようにその村を……私をこんなふうにする根本原因の力で…ぶっ壊した。


「はぁはぁはぁはぁ……」


 また悪夢……。絶叫が耳に残る。自分のじゃないような高笑いが聞こえてくる。


「…リュート………」


 なにをしようとしているんだろう…。

 学院の階段でただ知り合っただけの男と一緒の部屋で寝るとか…。

 あぁ…そうか。私は……何も知らないヤツとただ平穏に暮らしたいだけなのか…。

 …怖い。自分が…声が…私を知っているヤツが…。怖い。


「リュート……」

「あっ!あぁぁぁああああっ!止めろよ!なんで俺に!出来るわけ!」

「リュート……」


 リュートが叫んで体を寝たまま震わせる。昨日は…リュートが一緒にいてくれたから…今日は私が……。

 リュートと同じ布団に忍び込む。


「きゃっ……リュート?」


 同時に強く抱きしめられた。

 リュート顔はぐしゃぐしゃに涙で濡れている。でも起きない。

 そんなリュートを見て、そんなリュートなのに、私の心臓は空気を読まず鼓動が速めた。

 リュートの背中に手を回し……あやすように背中を優しく叩いた。

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