第4話 (10)



「りゅーとぉ…んくっ……」


 自然とレイラの頭に手が伸びた。そしてそのまま撫でる。


「全部…無くなっちまえば良いのに……」

「…ね……」

「おねーちゃん泣いてるの?」

「え?わ、私?え、あ…ううん、大丈夫よ」


 9歳ぐらい…の子供が手にチュロスを数本持ってレイラに向かって笑っていた。


「えっと……う~ん……。これ!あげる!」

「え?…いいわ…ありがとう……」

「ううん!おかーさんに泣いてる人がいたら慰めなさいって言われたもん。僕のだけどあげる!」


 …いい人もいるもんだな……。


「えっと……あ、ありがとう……。じゃあこれ……交換にしましょ」


 レイラが首からペンダントを外して、その子供に渡す。

 って……それまさか…。


「わぁ……」

「はい、交換。ありがとうね」

「え…あ、うん!ありがと!あとおにーさん!」

「えっ、あ俺?」

「ちゃんとおねーさんのこと幸せにするんだぞ!」


 気恥ずかしそうにそう言った子供は残りのチュロスとペンダントを大事そうに持って離れた。


「……幸せか?」


 ペンダントのことが気になるがそれ以上に気になった…。


「何馬鹿なこと言ってんのよ。幸せに決まってるわ。いただきま~す」

「…よかった……。あとさっき渡したペンダントって……」

「えぇ、不壊の石よ。それよりチュロス食べちゃいましょ」


 さらっと高額な石の名前が出てきたけど……。


「そ、そうだな…」

「治療費の為に稼いでたお金で買ったの。死んで死体漁りに取られるよりもああいう子供にあげたいし。

 は、はい」

「ありがと…うめぇなこれ」


 何も考えずチュロスにかぶりつく。チュロスを返したときにレイラの顔が赤かった。


「ん?どうした?顔赤いぞ?」


ーーーー


「ん?どうした?顔赤いぞ?」


 …気付いてない?まさかこいつ…。

 返されたチュロスを見る。断面はリュートの歯形がある。


「な、なんでもないわ。夕焼けのせいじゃないかしら?」


 勝負に出ようかしら…。迷う…。じ、自爆してもいいわ…。


「ど、どうだったかしら?私の食べかけのチュロスは」

「え……うわーーー!あっ………{もっと味わえば…}って変態じゃないか!

 ちょっ……ここにいて!」


 …凄い焦りよう……。ん~やっぱりチュロス美味しい……って!

 そう言えば…これ……リュートの食べかけ…。


「あ………あわぁぁぁっっっ!{リュートの食べかけ…もっと味わえば……}馬鹿っ!ちょっ!あぁぁっっっ!」


 顔が真っ赤になる…。


ーーーー


 お…俺は…なんて事を…。

 わ、私は…なんて……。


 俺は…私は…なんて…勿体ないことをぉぉおおお!って変態じゃん!


 落ち着け…。平常心だぞ、俺。俺、リュートは…。

 落ち着きなさい。いつも通よ、私。私、レイラは……。


 あれ?自分の名前間違えた。


ーーーー


「…はい……」

「はい……頂きます……」


 さっきから何回このやりとりを繰り返しただろう。十回以上やってる…。

 けどチュロスはまだ半分も残ってる…。


 さっきからチュロスを少しずつ囓ってるのは…長く楽しみたいからだよな…。その…アレを…。レイラも…そうなのかな…。

 はぁ……間接キスってだけで頭がクラクラしてきた…。

 レイラの顔が赤いのはほんとに夕焼けだけの所為なのか?

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