第4話 (09)

「ん~楽しかった!凄かったわね!」

「そうだな~。凄い綺麗だったな」


 正直劇の内容はあんまり覚えてないがな…。


「じゃあ次あのゴンドラ行きましょ!」

「あ~そんな手を引かなくてもいいから。大丈夫だって」


 はぁ…喜怒哀楽の激しいレイラは可愛かった…。感情移入しすぎな点もあったけどな


「私今人生で一番楽しいかもしれない!」

「……ありがとな……」


 『俺もだ』って開き掛けた口は別の言葉を出した。


「な、なによいきなり」

「あっ…いや。なんか…いや自意識過剰みたいでイヤだし止めとく」


 『俺と一緒にいて楽しいって言ってくれて嬉しかった』なんて…言えるわけ無いだろ…。


「最後まで言いなさいよ!」

「…い~だ!言ってやるもんか!」

「言いなさい!気になるわよ!」

「………。俺と……」

「俺と?」

「俺と一緒にいてて楽しいって言ってくれて嬉しかった!って言いたかったんだよ!」


 あっ……言っちまった。…自意識過剰って言われる…。


「……あんたはどうなのよ……」

「え?……」

「あんたは楽しいのかつまんないのか!どうなのよ!」


 えぇ?なんで切れ気味?…困る…。


「えっと……楽しい…」

「どれぐらい!?」

「…それ以上に幸せだ!世界で一番!」


 詰問されてこっちも大声が出る。


「クスクスクスクス…」

「ねぇあれ告白なのかな?」

「わ~。青春ねぇ…」


 平日の真っ昼間。主婦層が多い時間帯。周りから笑われる…。


「…そ、そう。それはよかったわ!お、お腹空いたしレストラン行くわよ!」

「お……おう。そ、そうだな」


 太陽は西に少し傾いている。多分俺の腹が鳴った。


ーー数刻後ーー


「うわ~夕焼けになりそうだな」

「雲も良い感じであってね。ちょっとここで待ってる?」

「いいぜ。あそこに座ってるか」


 石段に座って日が沈む西の海を眺める。ゆったりとした時間が過ぎていく。

 目の前を人が沢山通るけど……それでも……。


「なんかさ……」


 耳に響く雑踏が消える。優しい声だけが聞こえる。


「世界に2人だけって思えてきちゃった……」

「……」

「まっ、目の前に人は居るんだけどさっ」

「…このまま2人だけになっちまいてぇよ……」


 …幸せな時間が過ぎる程…今まで味わえていなかった感覚を知るから…今までのことが頭に浮かんでしまう。

 これからのことを考えてしまう。


ーーーー


 こうやって幸せな事をしていると…ずっとこれが続けと願ってしまう。

 明日が当然のように来る…そう信じてしまう。


「…リュート……」


 頭に暖かい手を感じる。今朝触ったリュートの手だ…。

 これからのことを妄想する。そしたら…いつかリュートと恋仲になって…結婚して…子供が出来て…とか…。妄想する。

 そしたら……。


「…リュートぉ……」


 嗚咽が漏れそうになる。

 叶わないって…そう分かってるから…。


「……りゅーとぉ………んくっ……」


 目の前にある大きな夕焼けが全て燃やしてくれたらいいのに…。

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