第4話(01)

「そう…じゃあ死ぬまでの間にやり残したことやっちゃお?」


レイラが笑いかけた。死ぬまでの間…?


「あぁ、ごめん。あのさ、私心理学の研究者なの。一週間なんでしょ?どうしたい?

 一週間悩み続けて低確率で死を免れる?」

「死なない……?」

「いや、高確率で死ね。聞いた話だとさ。頑張って立ち向かう?」


なんでだ?死にたくないのに……。死んでもいいやって……。


「それとも楽しく一週間を過ごすか」

「……楽しく…終わりたい……」

「そう。じゃあほらっ、泣かないで。楽しく過ごすわよ」


顎を掻き毟る。確かに濡れていた。目元を拭う。その腕が止まった。


「俺は……俺は……」


真っ暗だ。目が痛い。メリッサとダーナの優しい声が耳に反響する。


「…でも!一緒にいるってわかったら!」


反響していた声が醜い声に変わった。「殺す」なんて…。そしてその声がかき消される。どっちの声でもない。


「私ね。持病もっててね。余命一ヶ月なの」

「は?」


光が目に入る。口が開いている気がする。


「そんな顔しなくても。自分のことで泣いていたくせに他人のことですぐ泣き止むのね」

「持病?治せばいいだろ!なんでそんな簡単に…」

「…リュートだってそうでしょ?簡単に諦めたじゃない」


そんな悲しそうな顔をして……もっと……。


「…そんなの全部やった。でもお金をかき集めても無理なの」

「最後までやってみなくちゃ…」

「やったよ!私だって頑張ったわよ!でも!無理なものは無理なの!

 精一杯やったならそれでいいじゃない!なんでみんながみんなそうやって!」


そりゃ誰だって!自分が死んでも周りが死ぬことに比べたらどうでもよくて!


「自分が死んでもどうでもいい!?けど周りには生きて欲しい!?エゴじゃない!」

「だから生きて欲しくて!エゴでもいいだろ!」

「私は!リュートに選択肢をあげた!自分の価値観を人に押し付けるならリュートだって生きようとしなさいよ!」


心臓が早鐘を打つ。レイラの頬に涙が伝う。俺はもう遊んで生きるって!………。


「…俺と……一緒に…生きてくれるか?」


お、俺は何を!今俺は…プロポーズまがいの…!


「…私がそうやって頼んでるの。……それ。受けてもらえるってこと?」

「…あ…ぁ…あぁ…そうだ…」

「ふふっ……。ありがと……じゃあ…」


レイラが立ち上がって手を叩いた。二人だけの研究室に響く。


「まずはお金をおろしてきて。パァ~っと全部使っちゃいましょ!」


ニヤリと笑ったレイラの顔を見て背筋がゾゾッと震えた。お金が……絞られる……恐怖……。


「楽し生きるのよ!」

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