第13話

「死んだって――どういうことですか?」

 と、僕は驚きながら聞いた。

「兄は、警察に逮捕されてから、どんどん精神がおかしくなっていったんだよ。冤罪だと分かって釈放されて、一度は回復したように見えたんだが――」

 新田さんはそこまで言うと、力なく首を横に振った。

「冤罪だと判明した後も、まだ淳平さんを疑う人はいたんです」

 新田さんの代わりに、鈴木陽子さんが話を続ける。

「インターネット上では、『冤罪なんて嘘だろう、本当はやったんだろう』という書き込みが、溢れていました。淳平さんは、そんな書き込みを読んでいたんです。私たちが、インターネットなんて見るんじゃないと言っても、夜中に見ていたんです」

 確かに、インターネット上には、無責任な書き込みは無数に溢れている。だけど――匿名だからといって、何の根拠もない誹謗中傷は許されない。

「そして、今年の春――淳平さんは、部屋で首を吊って亡くなりました……」

 鈴木陽子さんは、そこまで話すと、泣き崩れた。

「兄の葬儀後、兄が最後に見ていたと思われる書き込みを見たんだ」

 再び、新田さんが話を続ける。

「それを見ているうちに、ある一枚の写真が投稿されているのを見つけた。その写真に写っていたのが、兄と――探偵さん、あんただよ!」

 新田さんは、憎悪の目で明日香さんを睨みつけた。

「私たちは、それからインターネットなどを使って、淳平さんが捕まったときのことを調べたんです」

 今度は、鈴木陽子さんが憎悪の目を、明日香さんに向けた。

「そうしたら、その現場に居合わせたという人が教えてくれたんです。淳平さんを捕まえたのが――あなただって!! だから、私は淳平に誓ったんです。この女にも、私と同じ目に合わせてやろうって!」

 鈴木陽子さんは、泣きながら明日香さんを指差した。

「ちょっ、ちょっと待ってください! 別に、明日香さんが、新田淳平さんを捕まえたわけではありません! そうですよね、鞘師警部?」

 僕は、必死に反論した。

「ああ、新田淳平さんが、明日香ちゃんに偶然ぶつかっただけだ。それは、駅の防犯カメラにも映っていたと、当時の捜査員にも聞いている」

「それに、悪いのは、痴漢をでっち上げた人たちであって、明日香さんじゃありません!」

「そんなこと、私だって分かってる……。でも、許せなかった。あなたのことを調べていくうちに、探偵だって分かったわ。探偵だったら、もっと何かしてくれたって……」

「そうだったんですね……。ごめんなさい」

 それまで、黙って話を聞いていた明日香さんが、深々と頭を下げた。

「明日香さんが、謝る必要なんて――」

「明宏君、いいのよ。私も、名刺を渡すだけじゃなくて、自分から会いに行って、話を聞いてあげればよかったわ」

「名刺? 何のことだ?」

 と、新田さんが、不思議そうに聞き返した。

「私が、ぶつかった後に名刺を渡したのよ。ポケットに、しまったみたいだったけど」

「兄は、そんなもの持っていなかった」

「もしかしたら、取り押さえられたときに、ポケットから落ちてしまったのかもしれないな」

 と、鞘師警部が言った。

 そのとき、部屋のチャイムが鳴った。

 やって来たのは、警察(鞘師警部の、同僚の刑事たち)だった。警察は、泣いている鈴木陽子さんと新田さんを連行していった――


 鞘師警部も一緒に警察に帰ったので、僕たちはバスに乗って探偵事務所に帰った。明日香さんは事務所に着くまで、ほとんど何もしゃべらなかった――

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