僕が外へ出ていこうとドアを開けると、スゥっと蛍が一匹迷い込んで来た。小さな青い光は胸の辺りでフワリと円を描くようにしてから、玄関にある背の高い本棚のブックエンドの影に隠れた。帰してあげようとして僕は影を覗き込んだけれど、どこにも蛍の姿はなく。ただ「サヨウナラ」とだけ声が聞こえた。


        ★


夜明けが遅くなりましたね。午前四時には空が白み始めていたのに今日はまだ真暗でした。夏が終わりかけている証拠です。君からの便りが途絶え随分経ちました。絵手帳はいっぱいになりましたか?絵葉書だけでも送って下さい。お父上が「何をしてるんだ、あいつは」と呟いていました。今何処にいますか?


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