部屋

窓を開けて

雨音を部屋にいれ、

新しいステレオを設置する。

最初に何をかけようかと考える。

何の進展もなく時間だけが過ぎてゆく。

その程度で「悩み」と言えるのであれば、

それは「友」と呼んでも善いと思う。

何も「人」である必要はない。

僕はずっと

過去を友にして歩いてきた。


     ★


僕の部屋に音楽が戻ってきた。

前のステレオが壊れてから丸二年、僕の部屋には音楽がなかった。

今、モーツァルトのクラリネット協奏曲が流れている。

まるで喜びに満ちる小鳥の声のようだ。


      ★


街が目覚めようとする頃、

僕は睡眠とも仮眠とも言えない短い休息をとる。

その時間の中で言葉にしておきたいことが

ふと思い浮かぶことがある。

たとえば、

あなたの、こと。


      ★


言の葉の散り敷く上を歩いていると、背後でカサッカサッと亡霊の足音がします。何処までも付いて来るので、誰です?と声をかけますが返事はありません。気のせいですよと人は笑いますけど、確かに聞こえているのです。激しい雨の音はそれらを絡めとってくれるので、明け方は少しだけ眠れました。


      ★


抱えこんだものが胸を食い破る前に話をしたかったのですが、太陽はとても忙しそうだったので、夜を待つことにしました。太陽がすっかり仕事を終えて寝所へ帰った後、煌めく満天の星空に向って「僕は」と話し始めたら月が欠伸をしました。その途端、風船が割れるように僕は破裂してしまったのです。


      ★


眠れないのは体が疲れていないためだと思った。

だから夜のまちを何も考えられなくなるまで走った。

目標を定めず、できる限り遠くへ。

汗まみれになって家に帰り、シャワーを浴び、運動で火照った体温を下げる。

それからゴロっと横になって、

天井を見上げていたら、

眠れないのは、寂しいからだと知った。



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