第6話
告白から一夜明け、美緒の学校では早くも昨日の出来事が学校中に知りわたっていた。
なにか言われるんだろうなと思い今日の学校は特に憂鬱だった。
「み~おちゃん」
「わ!」
後ろから飛びついてきたのは同じクラスの女子、
男女ともに信頼されクラスの中の中心人物だ。
「聞いたよ~! 昨日告白されたんだって?」
「まあ、うん」
「返事は?」
「さすがに断ったよ」
「だよね! さすが美緒ちゃん」
無邪気な笑顔で見つめられると、こちらもつられて笑ってしまう。
とはいえ、学校中が穏やかではなかったので心の底から笑うことはできなかった。
「もう学校中美緒ちゃんの話ばかりだよ」
「たかが告白ぐらいで騒ぎすぎなの」
「学年一の有名人なんだからしょうがないよ。美緒ちゃんこれからもたくさん告白来るかもよ?」
「いや、もういいよ。学校の人と付き合うつもりはないし」
「もしかして美緒ちゃん好きな人いるの?」
「い、いないよ!」
「本当にいる人は必ず否定するんだよね」
「ホントにいないんだってば!」
私が真剣に弁解しているなか、彼女はバカにするかのようにケラケラ笑う。
でも彼女はそういう人間だ。悪気があってやっているわけじゃなく、これも一種の愛情なのかもしれない。
その後も――
「見て、羽月さんよ。いろんな人からいま告白を受けてるって噂の!」
受けてません。
「1年の羽月ちゃんだ! ほらもう20人切り目前の!」
そんなに切ってません。
「うわ見てみ? 1年の羽月ちゃんじゃん。超美人マジパねぇ。もうあれっしょ? 男子ゴミ扱いしてるんしょ?」
してません。
* * *
「もう! どんだけ尾ヒレついてるのよ!」
八雲宅に帰るや否や背負っていたバッグを強く叩きつけた。
「20人切りだの、ゴミ扱いだの誰よそんな噂流したのは! 私に恨みでもあるのか!」
教室からでればすぐ後ろ指をさされては、尾ヒレのついた噂話が耳に入る。
これだけでもうウンザリだった。
「でも人の噂も七十五日という言葉がある。二か月も経てばそのうち忘れるはず」
そう自分に言い聞かせて我慢することが精一杯だった。
誰かのせいにするわけにもいかず、結局は我慢や気にしないという対策が最善で平和的だった。
「夕食の準備しよ」
大きくため息をつきながらキッチンの前にたった。
* * *
「八雲くぅ~ん」
「うわ、何ですか一ノ瀬さん」
「少し残念そうに見えるのは幻かしら?」
「いえ、現実です」
仕事中だってのにこの絡みよう。
残念に決まってるだろ。
「今週の飲み会の話なんだけど~」
「今度はなんですか‥‥‥まさか自分に余興やれって言うんじゃないでしょうね?」
「八雲君の余興‥‥‥それはそれでアリだわ!」
「そんなことしたら会社やめますからね」
「冗談よ。話ってのは場所の事よ」
「場所ですか? 別にどこでもいいですよ。どこに行ってもお酒は控えますし」
「どこでもいいが一番困るのよね~。ほら飲まなくても、あれが食べたいこれが食べたいとかないの?」
「とくには‥‥‥」
「そう、なら適当に決めておくわね」
「‥‥‥はい」
今度は素直に引き下がった。
いつもだと結構しつこいのに。
「戸村さ~ん、今週の飲み会の場所どこがいいですか?」
席を転々とし始めた一ノ瀬さん。
場所を聞いているのは俺だけではなかったようだ。
一人の意見として聞いていたのか。
それでも今週末は少し憂鬱なのには変わりない。
楽しみな人にはモチベーションが格段にあがるだろうが、俺にとってはめんどくさい以外の何でもない。
「早く来週にならないかな」
誰にも聞こえないよう小さい声でそう呟いた。
「ただいま‥‥‥」
「おかえりなさい‥‥‥」
いつもより元気がない様子。
どうしたんだろうか。
「なんだ全然元気ないじゃないか‥‥‥」
「そういう高鳴さんだって元気ないですよ‥‥‥」
「なんか、お互い元気ないな」
「奇遇ですね‥‥‥」
「とりあえず、ご飯食べながらお互い話あおうか」
「そうしましょう」
そう決めて着替えやら風呂やらを済ませ、食卓へ。
話は美緒の方から始まり、元気がないのは今日の学校での出来事がキッカケらしい。
「なんだか、モテる人はつらいな」
「もうウンザリですよ。一歩歩けばすぐ後ろ指指されますからね」
「まあ、人の噂も七十五日っていうし、すぐ収まるだろ」
ああ、この人も同じ事考えてると美緒は思った。
「よくよく考えたんですが、『七十五日』って結構長いですよね」
「二カ月と二週間くらいか、確かに長いな」
「七十五日も後ろ指指されるなんて、私鬱になっちゃいそうです」
「大丈夫だ、だって嫌われてるわけじゃないんだろ?」
「おそらく‥‥‥でも嫌なものは嫌ですよ」
「そうか」
話が一旦途切れお互い同じタイミングでおかずを口にした。
食べ物が喉を通った後、美緒が話を切り出した。
「そういう高鳴さんはなんで元気ないんですか?」
「ああ、ただ単に今週の飲み会がダルイだけだよ」
「そんな風になるんだったら、周りを気にせず断ればよかったじゃないですか」
「前にも言ったけど、それがなかなかできないのが社会人なんだよ」
「息をするようにパワハラを量産しますよね、日本て。その生産力を仕事で生かせればいいのに」
「お前なかなかすごい毒吐いたな」
「毒ではなく私の率直な意見を述べたまでです」
おそらくだが、この毒の吐いてる姿がこの子の本性なのかもしれない。
女性って怖いね。
「高鳴さんの場合は、その飲み会乗り切れば楽勝じゃないですか。私なんてずっと続くかもしれないんですよ?」
「確かにそうだが、ほら、嫌な事あった時って時間経つの遅く感じるじゃん? それがもうね……」
「言いたいことはわかりますが、私よりはマシだと思います」
「……」
なにも言い返せず黙る俺。
誤魔化すように食べ物を口に運ぶ。
「具体的に飲み会のなにが嫌なんですか?」
まだ話は続いてたらしい。
「会社の人となにかするっていうのがまず好きじゃない。別に嫌いなわけではないけど、プライベートまで関わらなくてもいいと思ってる人間だから、そういうのはなるべく行きたくないのよ」
「つまり、めんどくさいから行きたくないってことですね」
「超簡単に言うとそうだな」
「費用は会社から出るんですよね?」
「ほんの一部な」
「全部負担してくれるわけじゃないんですね」
「その時点で嫌だろ? さらにそこから二次会とか付き合わせられるんだぜ?」
「それはもう行きたくなくなりますね」
「それに加え、常に上司に酒を注がなくちゃいけないから好きに食事もできない。それで4、5千円取られてみろ、会社辞める勢いだぞ」
「それは、大変ですね……」
「どれほど行きたくないかわかってくれたか?」
「ええ。痛いほど」
その後も違う学校の出来事や、自分がどんな仕事をしてるかなど互いに話し合いその日は少し盛り上がった。
最後に美緒からこんなことを。
「金曜日はなるべく早く帰ってきてくださいね」
「お、おう」
もとより早く帰るつもりだが、美緒のその一言でさらに早く帰ることを決意した。
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