悲しみの理由

<日向の寝床>


日向:……私は…………あの時から進めないんでしょうか。


"苦しみや自らの罪を背負い生きる事が…償いである……"ですか。


この状況で彼に再会するのは…償いの一環ですか?それとも褒美なのですか?


私にとっては…………っ…

(涙を見せまいと手の甲で目元を隠した)


エル:………師匠?具合はどうですか。彼の治療は終わったんですけど…


(答えは返ってこなかった。かわりに一筋の涙が日向の頬を伝った)


………!し…師匠…………?

……………"彼"の…事ですか……?


日向:……私は…………どんな顔で彼に会えば良いのでしょうか。


"事実"を知らなければ……どんなに楽だったでしょうか。これが運命<さだめ>だと…償いだと言うのなら…


あまりに…酷な………っ。


エル:師匠…………。俺は、あの時師匠と彼の間に何があったか知りません。


ですけど……久しぶりに再会できて、嬉しいとは思わないんですか?償いや罪の意識が離れないのは分かります、


ずっと側でお仕えして…何度も何度も発作に襲われるほど思い詰める師匠を見ているから。それでも、もっと心の奥底…全ての柵を無視して…再び会えた事を素直に喜ぶのは、悪い事なのでしょうか?


罪を憎んで人を憎まず……と言います。もちろんそんな簡単な話じゃないのかもしれませんけど………


日向:……どう、なのでしょうか。今の私は…………彼に再会したことを……喜ぶ事が、できないんです。嬉しいという感情が……沸かないんです。


ふふ……っ…おかしい、ですよね?


むしろ…これ以上私に関わって、また彼に何か起きてしまったら……?


そう思うと……不安や苦しさで押し潰されそうになるんです。だからもう、喜ぶことはできません。


エル:………すみません、師匠の気も知らずに。話題を変えましょう……そもそもどうしてあの幼子を保護しようと?


日向:……あの子は…富豪殺害事件の数少ない関係者です。証言を聞きたかったのと、そのまま諜報の権限で公に参考人として保護し、処刑人の手から逃れさせようと…思ってたんです。


エル:富豪殺害事件…。まさか犯人の手掛かりが一切ないと言われている、あの事件ですか……?


日向:そう…です。


エル:………あ。もしかすると……(あの剣……あの幼子の持ち物じゃ無かったとすれば…)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る