四曲目『集いし絆』

 砂煙に紛れて、俺たちは走る。

 敵から背を向け、闇属性がいる城から離れ、悔しさと無力さに苛まれながら撤退を始めた。

 背後から聞こえてくる黒い騎士たちの足音、向かってくる闇の兵士たちの気配を感じながら、とにかく逃げる。


「タケル! とにかくここから離れて、森に逃げ込もう!」

「分かった!」


 魔力弾を放って敵の足止めをしていた真紅郎の指示に従い、俺たちはここから離れた場所にある森に向かう。

 鬱蒼とした森の中なら隠れるところが多いし、敵も陣形が組み辛いはずだ。


「キュルォッ!」


 そこで、上空で戦っていたセレスタイトの声が聞こえてくる。まるで__警告・・するように。

 それと同時、走っている俺たちの真上に大きな気配を感じた。


「な__ッ!?」


 見上げた瞬間、唖然とする。

 俺たちの上空にいたのは、セレスタイトが戦っている闇属性で作られた黒いドラゴン。


 それが、五体・・


 地上にいる俺たちを血のように赤い瞳で睨みながら、上空をグルグルと旋回しながら飛び回っていた。


「嘘だろ、おい……」

「そんな……一体だけでも脅威なのに、五体もなんて」


 思わず俺たちは足を止め、五体のドラゴンに絶望する。

 すると、五体の内の一体が翼を大きく羽ばたかせ、俺たちに向かって急降下してきた。

 そして、口に赤黒い魔力を集めると__。


「ジャアァァァァァァアァァァァッ!」


 咆哮と共に、赤黒い光線を吐き出した。

 上から迫り来る光線に、俺たちはすぐに散開する。

 赤黒い光線は地面に着弾すると、暴風と砂煙を巻き起こしながら地面を大きく震わせた。


「うわぁぁッ!?」

「きゃあぁぁぁぁッ!」


 爆風に飲み込まれ、地面を転がる。

 どうにか体を起こして空を見上げると、光線を放ったドラゴンに続くように残りの四体も口に魔力を集めていた。


「全員、避け__ッ」


 俺の叫び声を掻き消すように、上空から四本の赤黒い光線が降り注ぐ。

 轟音、爆風、地響き。

 暴力的なまでの猛撃に、頭を抱えてうずくまりながら堪える。

 赤黒い光線は執拗なまでに放たれ、地獄絵図のようになっていた。


「く、あ、あぁぁ……ッ!」


 腹の奥底から響いてくる衝撃と襲いかかってくる砂煙に、俺は瞼を強く閉じる。

 とにかく、堪えろ。下手に動けば、やられる。

 他のみんなは大丈夫なのか? やられてないか? 無事なのか?


「くッ! 真紅郎、ウォレス、サクヤ、キュウちゃん__やよいッ!」


 ギリッと歯を食いしばりながら、絞り出すようにみんなを呼ぶ。

 だけど、周りは砂煙で見えない。みんなの声も、轟音に紛れて聞こえない。


 ただ、無事を祈ることしか出来なかった。


「ちく、しょう……ぐあッ!?」


 ここでも何も出来ない自分の無力さに悪態を吐いていると、空から降り注ぐ赤黒い光線が俺の近くで着弾する。

 衝撃に吹き飛ばされた俺は、ゴロゴロと地面を転がった。

 五体のドラゴンは敵味方関係なく、ただその力を見せつけるように光線を放ち続けている。


「あれ、は……」


 ふと、霞んだ視界の先に、人影が見えた。

 恐怖で目を閉じながら、小さい体を縮こませたその姿。


 間違いない、あれは__やよいだ。


「や、よ……い……ッ!」


 俺と同じように、やよいも雨のように降り注ぐ光線の嵐から身を守っていた。

 周りには他に誰もいない。やよいはたった一人だ。

 痛む体に鞭を打ち、どうにか立ち上がる。


「やよい……ぐぅッ!?」


 そこで、また近くで光線が着弾した。

 殴りつけてくるような暴風を、剣を地面に突き刺してどうにか堪える。


「待ってろ、今、行くから……」


 剣を杖にしながら、歩き出す。

 至る所から聞こえてくる爆音、空まで巻き上がる砂煙、光線に巻き込まれた黒い騎士と闇の兵士のうめき声。

 地獄のような戦場の中、俺はただ真っ直ぐに……やよいの元へと、歩みを進める。


「やよい__ッ!」


 焼きついたように熱い喉を震わせて、やよいの名前を叫ぶ。

 すると、爆音の中で俺の声が聞こえたのか、やよいが俺の方に目を向けた。

 そして、やよいは俺に向かって手を伸ばす。


「た、タケル……」

「やよい……ッ!」


 やよいは地面を這いながら、俺は剣を杖にしながら近寄っていく。

 その時、俺の背後で光線が着弾した。


「ぐッ!?」


 背中に感じる熱と衝撃に顔をしかめながら前に投げ出され、受け身を取ったけど飛び散った石礫が額を掠めて、ダラリと額から血が流れる。

 だけど、不幸中の幸いか投げ出されたことで俺は、やよいの近くまで一気に近づけた。

 右の視界を赤く染めながら地面を這って、ようやく俺は__やよいの手を、握りしめる。


「タケル……ッ!」


 やよいは涙を流しながら、俺に抱きついてきた。

 恐怖で震える体を守るように、やよいを強く抱きしめ返す。


「みんな、バラバラになっちゃって、どこにいるのか分からない……ねぇ、タケル。あたしたち、どうすればいいの? どうやって戦えばいいの?」


 泣きじゃくりながら俺の胸元を強く掴んで、やよいが問いかけてくる。

 こんな絶望的な状況を打破することは、俺には出来ない。

 それでも俺は、やよいを抱きしめる力を強くさせる。


「大丈夫だ、やよい……絶対に俺が、守るから……ッ!」


 強がりだ。ただの虚勢だ。だけど、俺は何度でも言う。

 少しでも、やよいの不安が取り除けるように。俺自身を鼓舞するために。

 その時、上空に黒いドラゴンが飛んでいるのが見えた。ドラゴンは俺たちに気付くと、口を大きく開いて魔力を集め出している。

 俺たちを光線で狙い撃ちするつもりのようだ。


「やらせる、かよ……ッ!」

「た、タケル?」


 やよいを守るように抱きしめたまま、剣の切っ先をドラゴンに向ける。

 バチバチと赤い電光を放ちながら魔力を集めているドラゴンを、射抜くように睨みつけた。

 そして、剣身と魔力を一体化させる。


「俺は、俺たちは、こんなところで終われないんだよ__ッ!」


 レイ・スラッシュで相殺出来るかは分からない。でも、出来なければ死ぬだけだ。

 俺の体がどうなろうとも、やよいだけは守り切ってみせる。

 そんな俺の覚悟を嘲笑うかのように、ドラゴンは集めた魔力を咆哮と共に放った。


「__ジャアァァァァァァァァッ!?」


 その時、ドラゴンが放った赤黒い光線が俺たちを襲う直前__遥か遠くから伸びてきた高密度の魔力の奔流とぶつかり合い、ドラゴンの眼前で爆発する。

 その爆風に飲まれたドラゴンは、目を見開きながら錐揉み回転して地面へと落下していった。

 予想外の展開に俺は、剣を構えたまま呆気に取られる。


「ね、ねぇ、タケル。今のって……」

「あ、あぁ。今のは……」


 そして、俺とやよいは遠くから伸びてきた高密度の魔力の奔流に、見覚えがあった。

 すると、轟音と共に二つ、三つと続けて魔力の奔流が伸び、上空を飛び回っていたドラゴンに直撃する。

 空から降り注いでいた光線の嵐が止んで次第に砂煙が晴れていくと、遠くから近づいてくる音が聞こえてきた。


 空にいたのは、竜。ただその竜は生き物ではなく、人の手で作られた空を駆ける船・・・・・・


 ゴウンゴウンと巨大な生物が唸っているかのようなエンジン音、大きく広げられた両翼、強固な金属で覆われた船体。

 竜の顔を象った船首から伸びる巨大な砲身にユラユラと白煙を漂わせながら、暗雲で覆われた空を悠々と飛ぶ船の名前は__。


「<機竜艇>が……どうして、ここに?」


 大昔に人の手で作られた機械の竜、機竜艇だ。

 その機竜艇を操っているのは間違いなく、機竜艇を作った伝説の職人の子孫、ボルクさんだろう。

 だけど、機竜艇が援軍に駆けつけてくれたこと以上に、驚くような光景が上空に広がっていた。


「おいおい、嘘だろ……ッ!」


 ゴウンゴウンと大きく響くエンジン音は、機竜艇が発しているもの。

 機竜艇は大昔に落とされ、現代に残っているのは一隻のみのはずだ。

 それなのに、聞こえるエンジン音の数は五つ・・


 そう、今俺が見ている空には__機竜艇が、五隻・・存在していた。

 

 俺たちが知っている機竜艇を先頭に、一回り小さい四隻の機竜艇が編隊を組んで上空を飛んでいる。

 すると、伝声管を通じて、ベリオさんの声が戦場に響き渡った。


「__待たせたな、バカども! 機竜艇艦隊、総勢五隻! 助太刀に来たぞ!」

「タケル兄さん! みんな! 助けに来たよー!」

「ベリオさん、ボルク……」


 ベリオさんに続いて、伝声管から弟子のボルクの声も聞こえてくる。

 そこで、困惑していたドラゴンたちが翼を羽ばたかせ、五隻の機竜艇へ向かって行っていた。


「親方! 魔力充填完了!」

「よぉし! 機竜艇艦隊、砲撃用意!」


 ベリオさんの指示に、残りの四隻の機竜艇は竜を象った船首から巨大な砲身を伸ばす。

 そして、魔力を充填し、砲口からバチバチと魔力の紫電を迸らせていた。

 目標は向かってきている黒いドラゴン、四体。

 ベリオさんはタイミングを見計らい、声を張り上げて号令を出した。


「__<破竜砲>、発射ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 機竜艇が誇る最大火力の攻撃手段。強大な竜をも破る、魔力の砲撃__破竜砲。

 それを五隻同時に放ち、大気を震わせながら高密度の魔力の奔流が四体のドラゴンを飲み込み、消滅させた。


「ガッハハハ! これが! 最終決戦に向けて作っていた、現代・・の機竜艇の力だ! 一回り小さい分、小回りが効く! 威力も申し分なし! 短い期間で間に合わせた<ドワーフ族>の技術力を思い知れ!」

「親方、調子に乗らない! 破竜砲の連続使用で、心臓部が熱暴走を起こしそうになってる!」


 豪快な笑い声で自慢げに語るベリオさんを、ボルクはピシャリと嗜める。

 いつも通りの二人の会話に、思わず笑みがこぼれた。


「心強い援軍だ、ありがたいな」

「うん、これならドラゴンなんて怖くな__タケル、前!」


 機竜艇艦隊の登場で少しは恐怖が抑えられた俺たちが話していると、やよいが声を張り上げる。

 咄嗟に前を向くと、黒い騎士が俺たちに向かって槍を突き出そうとしていた。

 完全に油断していたから、避ける暇がない。

 すぐに俺は、やよいを庇おうと槍に向かって背中を向けた……その時。


「__しゃがめ、赤髪」


 後ろから聞こえた声に、やよいを抱きしめたまま反射的にしゃがみ込む。

 すると、俺の頭上を冷気を纏った氷の竜が通り過ぎ、大きく開いた口で黒い騎士に噛み付いた。

 鋭い牙が突き立てられた箇所から凍りついていき、一気に全身を凍りつかせる。

 そして、氷の竜は氷像となった黒い騎士を噛み砕くと、そのまま後ろにいた他の騎士たちに襲いかかった。

 氷の竜は長い体をくねらせながら、氷柱の牙で噛みつき、どんどん氷像を作り上げていく。


「あれは……」

「おい、クソ赤髪。いつまで、やよいたんを抱きしめてんだ、ゴラァ?」


 パキパキと凍りついた地面を踏みながら近づいてきた男は、しゃがみ込んでいた俺の尻を軽く蹴り上げる。

 振り返ってその男の顔を見た俺は、頬を緩ませた。


「よう、遅かったな__アスワド」

「ハンッ。テメェらが先走っただけだろ、この馬鹿野郎が」


 盗賊団<黒豹団>のリーダー、黒い髪に褐色肌の男__アスワド・ナミル。

 アスワドは手に持っていた僅かに曲がった細身の片刃刀、シャムシールを肩に乗せながら鼻を鳴らす。

 やよいと一緒に立ち上がった俺は、アスワドに向かって不敵に笑ってみせた。


「まさかとは思うけど、お前一人じゃないよな?」


 援軍がアスワド一人なのか。

 俺が聞くと、アスワドはニヤリと笑いながら顎で後ろをしゃくった。


「後ろを見てみろ」


 振り返ると、砂煙の中から足音が聞こえてくる。

 その足音は少しずつ、徐々にその数を増やしていく。

 そして、砂煙が晴れると同時にその光景を見て、思わず笑ってしまった。


「は、ははは……マジか」


 バサリと、吹き抜けた風に大きな赤い旗が広がる。

 旗には竜に剣が突き刺さっている黒い紋章__正義の独立機関<ユニオン>の象徴。

 掲げられたユニオンの軍旗の元にいるのは、ユニオンに所属している<ユニオンメンバー>と、各支部のトップ<ユニオンマスター>たち。

 大軍の一番後方にいるのは、白金色の長い髪を後ろで結んだ眼鏡をかけた柔和な男。

 <エルフ族>の中でも長命な<ハイエルフ族>で、ユニオンを束ねる最高責任者。

 

「__正義の名の下に集まりし、ユニオン連合軍! 総勢千名! 世界を守るために、共に戦おう!」


 シリウスさんが、高らかに声を張り上げた。

 すると、ユニオン連合軍の隣に大きな魔力の渦が作り出される。

 大きな魔力の渦から規則正しい足音が聞こえてくると、そこからヌッと鎧を纏った騎士たちが現れた。


「ヘイ、タケル!」

「タケル、やよい! 大丈夫!?」


 そこで、離れ離れになっていたウォレスと真紅郎が近づいてくる。

 頷いて返しながら、俺たちは魔力の渦から出てきた騎士たちを見つめていた。

 一糸乱れぬ行進で隊列を組んだ騎士たちが、ピタリと動きを止めるとザッと中央を開けて道を作る。


「まったく、あなたたちは……私の忠告を無視して、無茶なことして」


 その道を、一人の女性が呆れたように頭を振りながら歩いてくる。

 長い金色の髪を纏めた女性は俺たちを見つめると、ニヤリを笑みを浮かべて高らかに声を張り上げた。


「__ヴァべナロスト王国軍! 総勢二千と六名! 世界を救おうとする、勇敢でおバカな子たちを助けに来たわよ!」


 ヴァべナロスト王国、女王__レイラ・ヴァべナロスト・マーゼナル。

 二千の騎士たちを率いて援軍に駆けつけてくれたレイラさんの隣に、五人の男女が並ぶ。

 レイラさんを含めたヴァべナロストが誇る六人の騎士、<六聖石>だ。

 六聖石の一人、レイドが頬を緩ませながら俺たちに向かって声をかける。


「遅れてすまない! だが、我らが来たからには心配はいらない! 貴殿たちの勇猛さと無謀さに敬意を!」

「レイド……」

「そして、我らだけではない! 見よ! これが、貴殿らが歩んできた今までの旅の集大成・・・だ!」


 レイドが指差した場所に、また大きな魔力の渦が発生した。

 そして、そこから現れたのは__見覚えのある面々だった。

 カツカツ、と蹄の音を響かせる半人半馬の種族、<ケンタウロス族>。その背中に乗った、エルフ族たちが魔力の渦から現れる。


「我らが英雄たちよ! 約束通り、危機に瀕しているお前たちを助けに来たぞ!」

「<セルト大森林>連合! 総勢三百名! 約束を果たしに馳せ参じた!」

  

 続いて別の魔力の渦から現れたのは、濃紺のローブを纏った男たちと一人の少女。

 橙色の髪を靡かせた少女はウォレスを見て小さく微笑んでから、真剣な表情で声を張り上げる。


「<星屑の射手>、総勢百名! 恩を返しに! そして、輝かしい明日のために、共に戦います!」

「は、ハッハッハ! 最高オーサムだぜ、シンシア!」


 旅の道中で立ち寄った、<流星の国アストラ>。 

 その国で出会った星屑の射手と共に現れたシンシアを見て、ウォレスは嬉しそうに笑い出した。

 そこで、サクヤとキュウちゃんが俺たちに合流する。


「……タケル、これは?」

「きゅきゅー!」


 サクヤは目をパチクリとさせながら驚いていると、魔力の渦から新たに援軍が出てきた。

 一番最初に出てきたのは、まだ幼い一人の少女。

 雪のように純白の髪に褐色肌の少女は、サクヤを見つけるなりブンブンと手を振った。


「サクヤぁぁぁぁぁ! 私たちも来たよぉぉぉぉ!」

「……キリ? どうして、ここに?」


 サクヤと同じダークエルフ族の少女、キリ。

 キリを見たサクヤは珍しく口をあんぐりと開けて驚いていると、その隣に一人の男が並ぶ。


「俺も来たぞ、オリン! 息子の危機に父親として、戦わない訳にはいかないからなぁ!」

「……お父さんまで」


 オリンはサクヤの本当の名前。その名を呼ぶのは、サクヤの父親のデルトだった。

 キリとデルトの後ろに、ダークエルフ族たちが並んでいる。

 そして、キリは族長として、右手を挙げながら高らかに叫ぶ。


「私たちダークエルフ族、総勢百名! 未来の旦那様のために、精一杯頑張るよぉぉぉッ!」

「……キリ」


 キリの言葉にサクヤは手で顔を覆い、呆れたようにため息を漏らした。

 最後に、アスワドがニヤリと笑いながら口を開く。


「そして、俺たち__黒豹団、総勢二十名。やよいたんのために、一緒に戦ってやるよ」


 アスワドの言葉を合図に、地上近くまで来ていた機竜艇から黒いローブ姿の黒豹団たちが降りてくる。

 すると、機竜艇の伝声管からベリオさんの声が響いてきた。


「機竜艇艦隊五隻と、乗組員の<ドワーフ族>! 総勢六十三名!」


 ユニオン連合軍、ヴァべナロスト王国軍、セルト大森林連合、星屑の射手、ダークエルフ族、黒豹団、機竜艇艦隊とドワーフ族。

 

 __総勢、約三千五百名と機竜艇が五隻。  


 俺たちの今までの旅で出会い、共に戦い、時に敵対した人たちが一堂に会していた。

 圧巻な光景に、俺たちはただただ圧倒される。

 すると、レイドが優しく微笑んだ。


「ここにいる全ての者はこの世界を守るために。そして__貴殿たちを・・・・助けるために、集まったのだ」

「__ッ!」


 その言葉に胸が熱くなる。目尻から涙がこぼれる。

 俺だけじゃない、やよいたちも嬉しそうに頬を緩ませながら、涙を浮かばせていた。

 そこで、レイドは思い切り息を吸い込む。


「__今ここに! 世界の命運を賭けた戦場に共に征く、全ての者が揃った! 世界を守るため! 正義のため! 恩を返すため! それぞれが想いを抱き、強大な敵に立ち向かう戦士だ!」


 ビリビリと、レイドの声が戦場に響き渡った。

 そして、レイドはニヤリと笑みを浮かべて俺たちを見つめる。


「そんな我らを集めたのは、貴殿たちRealize。これこそが、貴殿たちの旅の集大成だ」


 その言葉に、俺は腕で涙を拭ってから改めて全員の顔を見渡した。


「あぁ、そうだ。俺たちの旅は無駄じゃなかった。俺たちRealizeの武器は、音楽と__」


 振り返り、遥か先にある城を見据える。

 ゆっくりと剣先を上げて城に向けてから、闇属性に聴こえるようにはっきりと言い放った。


「旅を通じて結んできた__絆の力・・・だ」


 悔しさと無力さに苛まれていた心に、じんわりと熱い何かが広がっていく。

 心が、魂が歓喜に震えている。


「待ってろよ、闇属性。俺たちの力、見せつけてやるよ」


 世界を滅ぼそうとしている闇属性と、世界を守ろうとする俺たち。


 世界の命運を賭けた戦いは、今からが・・・・本番だ__。

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