十一曲目『黒き巨大な蛇』
魔装を展開しながら、俺たちは急いで屋敷の外へと向かう。
そして、屋敷の敷地外にいる敵の姿を見て唖然とした。
「な、なんだ、こいつは……」
岩のような硬そうな鱗で覆われたどす黒く長い体をずりずりと這わせ、見上げるほど高い位置にある頭には縦長の瞳孔の鮮血のように赤い瞳。
鋭利で巨大な牙を屋敷に張られた薄紫色の結界に突き立てていた、見た目は巨大な黒い蛇のモンスター。
ただ、蛇なのにその背中には鳥のような大きな翼を生やし、バサバサと羽ばたかせている。
見たこともないモンスターを見て、一緒に来ていたアスカさんが忌々しげにそのモンスターの名前を呟いた。
「……まさか<バジリスク>が来るなんてね。もう二度と会いたくなかったっていうのに」
「あのモンスター、バジリスクって言うんですか?」
「えぇ。私が前に闇属性と戦った時に差し向けられたモンスターよ。かなり厄介だったよ」
心底嫌そうに言うアスカさん。その様子から相当厄介だったことが窺える。
すると、アスカさんは手で三角形を作って胸の前で構えると、魔力を練り始めた。
魔力を練ると屋敷に張られていた結界が強固になり、牙を突き立てていたバジリスクが離れ、悔しげにシュルシュルと喉を鳴らしながら二股に分かれた舌を出し入れしている。
「これで少しは持つかな。申し訳ないけどこの屋敷は神域の起点となるところだから、私はこの結界を維持に専念するね。タケルたちには、あのバジリスクをなんとかして欲しい」
「分かりました……なんとかやってみます」
俺の言葉を聞いてアスカさんはさらに魔力を練り上げ、結界の維持に集中し始めた。
やるしかないな。覚悟を決めて、剣の柄を力強く握りしめる。
「__行くぞ!」
「おう!」
「うん、分かった!」
「……頑張る」
俺に続いてウォレスと真紅郎、サクヤは結界から飛び出した。
ウォレスは魔装を展開して二本のドラムスティックを握り、紫色の魔力で出来た刃を作り出して俺と並走する。
真紅郎はベースを構えて立ち止まり、ネックの先端にある銃口をバジリスクの顔に向けた。
魔装の魔導書を空中に浮かせたサクヤは、魔法を詠唱する。
「……<アレグロ>保存。<フォルテ>保存」
サクヤの魔導書は最大で十個の魔法を保存し、任意で使うことが出来る。
次々と魔導書に魔法をストックしていくサクヤの準備が終わるまで、バジリスクの相手は俺とウォレスが受け持つ。
「ハッハッハァァァッ! 魔装も見つかったし、暴れるぜぇ!」
「あのモンスター、何か嫌な予感がする! 気を付けて!」
我先にバジリスクに向かって行ったウォレスに、少し離れたところからバジリスクを観察していた真紅郎が叫んだ。
たしかに、俺も何か嫌な予感を感じている。警戒して望まないと、と気合いを入れ直して魔法を使った。
「__<アレグロ!>」
ウォレスも同じように魔法を使い、体から紫色の魔力を噴き出しながらバジリスクの体に飛び乗って、そのまま頭を目指して走っていた。
ウォレスが振り落とされないようにバジリスクの撹乱をしていると、後ろから真紅郎が放った魔力弾がバジリスクに向かって飛来していく。
「フシュルルル……ッ!」
魔力弾を喰らったバジリスクはギョロリと赤い瞳を真紅郎に向け、威嚇するように喉を鳴らしていた。
「__ウォォォリャアァァァァァッ!」
頭の近くまでたどり着いたウォレスは雄叫びを上げながら勢いよくジャンプし、全体重を乗せて魔力刃を叩き込む。
「__硬ぇぇぇッ!?」
鈍い金属音が響くと、ウォレスは痛そうに顔をしかめて叫んだ。
どうやらバジリスクの鱗は相当硬いらしい。鱗に阻まれたウォレスはそのまま落下して地面に着地した。
「ヘイ、タケル! こいつ、かなり
「ウォレスは中距離から攻撃してくれ! 俺とサクヤで接近する! サクヤ、行けるか!?」
「……準備完了。いつでも行ける」
生半可な攻撃じゃあの硬い鱗を突破出来ない。
ウォレスに中距離で戦うように指示を出してから、魔法のストックを終えたサクヤと一緒に地面を蹴った。
「サクヤは下から! 俺は背中を登って頭をやる!」
「……分かった。解放」
俺の指示にサクヤは頷くと、一番最初にストックしていた
そして、拳を握りしめると魔力を練り上げて一体化させた。
「……解放。<レイ・ブロー!>」
魔力と一体化した拳を振り上げながら、ストックしていた
俺のレイ・スラッシュと同じ原理で放たれるサクヤの必殺技、レイ・ブロー。
フォルテによって強化された一撃がバジリスクの腹部に直撃し、拳と一体化していた魔力が爆発して音の衝撃波が叩き込まれた。
「__シャアァァァァァッ!?」
硬い鱗を貫通したサクヤの攻撃に、バジリスクは悲鳴を上げながら長い体をグネッとくの字に曲げる。
その隙を突いて背中に飛び乗った俺は、頭に向かって一気に駆け抜けた。
「__<フォルテッシモ!>」
フォルテよりも一段階上の
腹部の痛みに悶えているバジリスクの脳天に向かって、振り上げた剣を思い切り振り下ろした。
「テアァァァァァッ!」
怒声を上げて振り下ろした剣が脳天を捉え、鈍い大きな音が響き渡る。
バジリスクはガクンッと頭を下げ、グラリと揺らめいた。
「くぅぅ……本当に、硬いな……ッ!」
ビリビリと剣を握っている手に痺れが走る。
フォルテッシモを使わなかったら、さっきのウォレスの二の舞になるところだった。
俺の一撃で脳が揺らされたのかフラフラとしていたバジリスクは、いきなりカッと目を見開く。
「__ジャアァァァァァァァッ!」
そして、怒りを露わにして大気を震わせるような雄叫びを上げた。
それから長く大きな体をくねらせ、俺を振り落とそうと暴れ出す。
「うぉっと、危ねぇ!」
どうにか振り落とされないように堪えていると、バジリスクは背中の翼を羽ばたかせて宙を舞い始めた。
空中で体をグネグネと勢いよく動かして暴れ回るバジリスクに、地上にいるウォレスがニヤリと笑う。
「ヘイ、
ウォレスは目の前に紫色の魔法陣を展開すると、思い切りスティックを振り上げた。
「__
ウォレスの固有魔法、ストローク。
その魔法を使ったウォレスが魔法陣に向かってスティックを振り下ろすと、そこから音の衝撃波が空中を飛んでいるバジリスクに向かって放たれる。
「__ジャッ!?」
音の衝撃波はバジリスクの横っ面に直撃し、殴られたように頭が横に吹っ飛んだ。
口から黒い血を吐きながらバジリスクが地面に落下し、その衝撃に地面が揺れる。
地面に落とされ、痛みと怒りに牙を剥き出しにしながら起き上がったバジリスクは、ウォレスをギョロリと睨んで襲い掛かろうとした。
「__そこ。<スラップ!>」
だけど、それを真紅郎が阻害する。
真紅郎は固有魔法のスラップを使って強く弦を弾くと、銃口から高密度に圧縮された魔力弾がバジリスクの顔に向かって一直線に放たれた。
魔力弾は口を大きく開いてウォレスを噛み砕こうとしていたバジリスクの横っ面に着弾し、今度は反対側に殴られたように頭が吹っ飛ぶ。
「……まだ終わってない。解放」
そこで、バジリスクの下に立っていたサクヤが呟く。
サクヤは両拳に紫色の魔力を纏わせて一体化させると、ストックしていた
弾丸のようにバジリスクの顎を目掛けて跳んだサクヤは、左拳を振り上げる。
「……<レイ・ブロー・
レイ・ブローのバリエーション、
全ての攻撃がレイ・ブローになる技を使ったサクヤは、バジリスクの顎に左アッパーを喰らわせた。
バジリスクは声にならない悲鳴を上げながら口から黒い血を吐き出し、ガクンと仰反る。
「……シッ!」
だけど、サクヤの攻撃は一撃では終わらない。
バジリスクの頭上まで跳んだサクヤは落下しながら右拳を振り上げ、短く息を吐きながら拳骨するように二撃目を脳天に振り落とした。
爆発したような音と共に、バジリスクは顎から地面に叩きつけられる。メキメキと顔を地面にめり込ませたバジリスクの近くに、サクヤはスタッと華麗に着地を決めた。
「……硬い」
そして、サクヤはプラプラと手を振る。サクヤでもバジリスクの鱗は硬いみたいだな。
だけど、相当のダメージを喰らわせたはずだ。ここで決めるしかない。
バジリスクの背中に立って剣と魔力を一体化させていると、バジリスクが動き出した。
「ジャアァァァァァッ!」
口から黒い血を流しながら悲鳴のような雄叫びを上げたバジリスクは、ギョロリと赤い瞳を攻撃してきたサクヤたちを向ける。
すると、赤い瞳に魔力が集中して赤黒い光を放ち始めた。
その瞬間、結界の維持をしていたアスカさんが声を張り上げる。
「__マズイ! みんな、逃げて!」
「__シャアァァァァァアァァァァッ!」
鬼気迫る声にサクヤ、ウォレス、真紅郎はその場から弾かれたように走り出した。
同時に、赤黒く瞳を光らせたバジリスクが叫ぶ。
そして__その瞳から赤黒い光線が放たれた。
「……くッ!」
「おぉぉッ!?」
「うわぁッ!」
サクヤ、ウォレス、真紅郎はその光線をどうにか避ける。
薙ぎ払うように放たれた赤黒い光線は森の木々に直撃し、ビキビキと音を立てながら
「な、なんだよこれ!?」
バジリスクの背中の上でその光景を見ていた俺は、目を見開く。
瞳から放たれた赤黒い光線に当たった草木は、完全に石と化している。
「カロロロロロ……」
バジリスクは瞳から赤黒い光を揺らめかせながら、喉を鳴らしていた。
この戦い、長丁場になりそうだ。
本気を出したバジリスクに、俺はゴクリと息を呑むのだった。
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