六曲目『懐かしい顔ぶれ』

「アレヴィの怒鳴り声が聞こえたから、何事かと思って来てみれば……まさかこんなところでキミたちに出会うとはな」


 ライトさんは久しぶりに俺たちに会ったことを嬉しそうにしながら、ユニオン本部に俺たちがいることに驚いている様子だった。

 すると、真紅郎が微笑みながらライトさんに声をかける。


「お久しぶりです、ライトさん」

「おや? 真紅郎、私のことを兄さん・・・と呼んでくれないのか?」

「……うぇッ!?」


 ライトさんはニヤニヤと笑いながら言うと、真紅郎は爆発したように一気に顔を真っ赤に染め上げた。

 最初はどういう意味なのかと首を傾げてた俺だけど、すぐに思い出す。


「あぁ、そういえば……レンヴィランスから旅立つ時に真紅郎、エイブラさんのこと父さんって呼んでたな」


 エイブラさんとは、ライトさんの父親__ライト・エイブラ一世のことだ。

 最初、真紅郎はエイブラさんと自分の父親……国会議員で真紅郎が嫌っている父親と重ねていた。

 まぁ、そのせいで色々とすれ違いや誤解が生じたけど、最後には和解することが出来た。

 そして、真紅郎は別れの時にエイブラさんのことを思わず、父さんと呼んでいた。

 そういうことがあったから、ライトさんは真紅郎に兄さんと呼んでくれないのかって聞いたみたいだな。

 悪戯げに笑うライトさんに、顔を真っ赤にした真紅郎がワタワタと慌てながら詰め寄る。


「な、何を言ってるんですか、ライトさん!? ど、どうしてボクが!?」

「ハハハ、キミは父上のことを父さんと呼んだ。ならば、私は真紅郎の兄ということになる。つまり、キミが私のことを兄さんと呼ぶのは当然のことだろう?」

「いや、だから、あれは別に……ッ!」


 カラカラと笑うライトさんに、真紅郎はからかわれていることが分かって恨めしげにライトさんを睨んだ。


「からかうのはやめて下さいよ……」

「クククッ、そうだな。今日はこれぐらいにしておこう。さて、本題だが……」


 一頻り笑ったライトさんは、途端に真剣な表情を浮かべて俺たちの顔を見渡し始める。


「それで、どうしてキミたちがここに__ユニオン本部にいるんだ? ここがどういうところかは、分かっているんだろう?」


 ここにはユニオンマスターと選ばれた人間しか来ることが出来ない。そんなところに俺たちがいることは、普通ならおかしいことだろう。

 俺からライトさんにここに来た理由、どうしても伝えたい真実があるということを話すと、ライトさんは「なるほど」と顎に手を当てる。


「ふむ、ユニオンメンバーとしてまだ日が浅いキミたちでは相手にされなかった、ということだな?」

「まぁ、そんな感じです。アレヴィさんが言ってもダメみたいで」

「アレヴィはマスターの中でも若い方だからな。多少なりともやっかみみたいなものもあるのだろう。分かった、私がシリウスに話を通そう。キミたちはそれまで待っていてくれ」


 そう言ってライトさんはすぐに行動に移してくれた。

 ライトさんはユニオンマスターとしてベテランのようだし、問題はないだろう。

 一安心していると、しょんぼりとしていたアレヴィさんが俺たちに頭を下げてきた。


「すまないね、私の実力不足のせいで……」

「そ、そんなことないよ! アレヴィさんは凄くあたしたちによくしてくれてるから!」

「……そう言って貰えるとありがたいね」


 申し訳なさそうにしているアレヴィさんに、やよいが慌ててフォローする。今回のことでアレヴィさんにはかなり助けられてるし、アレヴィさんがいなかったらこの本部の中にすら入れなかったはずだ。

 やよいに同意するように俺たちが頷くと、アレヴィさんは僅かに笑みを浮かべた。

 それから俺たちはライトさんを待っていると、受付にいた男が声をかけてくる。


「皆様、部屋をご用意しましたのでそちらでお待ち頂けますか?」


 どうやらライトさんが部屋を用意してくれたらしい。案内された部屋に入ると、そこは御綺麗だけどテーブルとソファ二つが置かれた殺風景な場所だった。


「ここはあまり使われてない空き部屋だね。とりあえず、ライトが戻ってくるまで休もうじゃないか。ここまで来るのに相当苦労しただろう?」

「そうですね、んじゃ遠慮なく」


 アレヴィさんが言った通り、俺たちの体力は結構限界に近かった。

 お言葉に甘えて俺たちがソファで休んでいると、アレヴィさんは俺たちを見ながら嬉しそうに笑う。


「それにしても、あんたたち少し見ない間に随分強くなったみたいだね。見違えるようだよ」

「まぁ、色々ありましたからね」


 アレヴィさんと出会ったヤークト商業国を旅立って、俺たちは本当に色んなところを旅してきた。

 その間にまさに波乱万丈と言っていいほど、色々あったからな。出会った時と比べれば、それなりに強くなった自負もある。


「せっかくだから、あんたたちが今までどんな旅をして来たのか教えてくれないかい?」

「ハッハッハ! いいぜ、オレたちの武勇伝を教えてやるよ!」

「ちょっとウォレス、調子に乗らない」


 一気に調子に乗り始めたウォレスを真紅郎が嗜めつつ、俺たちはアレヴィさんに今までの旅の話を始めた。

 レンヴィランスでライトさんと出会ったことや、黒豹団のこと。他にも機竜艇の復活の話や__生きた災害と言われていた最強最悪のドラゴン<災禍の竜>と戦った時のことを話す。

 すると、アレヴィさんは災禍の竜の話になった途端に身を乗り出して驚いていた。


「あ、あんたたち、あの災禍の竜と戦ったのかい!? 英雄が封印したという、あの!?」

「まぁ、成り行きで」

「成り行きって、そんな簡単な話じゃないだろう……そもそも、災禍の竜が復活したことすら、私たちユニオンに伝わってないっていうのに。しかも、倒したって……」


 アレヴィさんは呆れながらやれやれと頭を振る。それにしても、災禍の竜が復活したことがユニオンに伝わってないとは思ってなかった。

 あの時戦ったのは俺たちと、世界の敵として認識されている<魔族>と共闘したからな。知らないのも無理はないかもしれない。

 と、そうだ。この話をするなら、魔族についての真実・・も伝えないといけない。


「アレヴィさん。実はその時、俺たちは魔族と共闘したんです」

「魔族!? どうしてあいつらと……」

「……その話をするために、アレヴィさんに知って欲しい。魔族は本当はどんな人たちなのかを」


 世界の敵、凶悪な種族__魔族。

 だけど本当は魔族という種族なんて存在しない。俺たちと同じ、人間だ。

 世界中が思っているような、魔族が世界を侵略しようとしているというのは、真っ赤な嘘。


 そして、あの人たちを魔族という悪評を広めた張本人が__マーゼナル王国の王、ガーディ・マーゼナルだ。


 ひた隠しにされていた真実を話すと、アレヴィさんは頭を抱える。


「……信じられない、って言うのは簡単だね。でも、あんたたちが嘘を吐いているとは思えない。マーゼナル王国があんたたちを追っていた理由にもなる。これは、本当に厄介なことになりそうだね」


 アレヴィさんは俺たちの話を信じてくれるようだ。

 ソファの背もたれに脱力しながら背中を預け、天井を見上げながら深いため息を吐いたアレヴィさんは、真剣な眼差しで俺たちを見つめてくる。


「それが事実なら、世界の常識がひっくり返る。マーゼナル王国という大国が何をするつもりなのかは知らないけど、歴史上最大級の戦争になるのは間違いないね」

「はい。だから、俺たちはユニオンの力を借りたいんです」

「そういうことか……厄介だけど、ユニオンに在籍している一人として、その事実は無視することは出来ないね。悪を捌くのが私たちユニオンの役目さ」


 そう言うとアレヴィさんは腕組みしながらニヤリと笑った。


「分かった、私は全力であんたたちを支援しようじゃないか。もし、今回その話が真実だと認められなくても、私個人であんたたちの助けになるよ」

「本当ですか?」

「私に二言はないよ!」


 ユニオンマスターの立場じゃなく、個人ででも俺たちの味方をしてくれるとはっきりと答えてくれたアレヴィさんに、俺たちは頭を下げてお礼を言う。

 この調子でユニオン自体も味方してくれれば、と思っているとノックの音が聞こえてきた。

 扉が開かれると、そこからライトさんが現れる。


 だけど、その表情はどこか浮かないものだった。


「すまない、シリウスと話が出来る場を要請したが、思った以上に大事になりそうだ」

「それって、どういうことですか?」

「……シリウスだけでなく、全ユニオンマスターの前で話をすることになった」


 シリウスって人だけじゃなくて全員とか。たしかに思った以上に大事だ。

 だけど、と俺はみんなと目を合わせる。


「むしろそっちの方がありがたい、よな?」

「うん、そうだね。手間が省けるかも」


 俺の言葉に真紅郎が頷いて返した。ウォレスはニヤリと笑い、やよいは心配そうにしながら頷き、サクヤは眠そうに欠伸をしながら膝の上で丸まっているキュウちゃんの背中を撫でる。

 サクヤは放っておくとして、とりあえず俺たちの意見は同じだった。

 改めてライトさんに向き直ってから、俺は笑みを浮かべる。


「大丈夫ですよ、ライトさん。逆にそっちの方がありがたいです。俺たちが話す内容は、ユニオンマスター全員に聞いて欲しいことですから」


 俺の言葉にライトさんは目を丸くしてから「そうか」と頬を緩ませた。


「なら、明日の会議にキミたちも参加して貰う。そこで話をするといい」

「分かりました」


 今日のところはこのユニオン本部の本拠地にある客室に泊まることになり、俺たち男性陣とアレヴィさんとやよいの二組に分かれる。

 こうして、俺たちは明日の会議に出席することになるのだった。


 

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