十四曲目『最強の意地』
「大切なものを守りたい 祈りを武器に 僕は抗う 未来が明るいと信じて 世界を相手に 僕は戦う」
リグレットのBメロを歌い上げると、レイドに続いてレンカとヴァイクも銃を構えて引き金を引いた。
銃口から放たれたのは炎の槍と風の刃。身体能力だけじゃなく、魔法の威力も増大させるライブ魔法の効果により、その大きさは今までの比じゃないほど巨大になっていた。
もはや槍というより攻城兵器のバリスタのように巨大化した炎の槍は、堅い甲殻で覆われた災禍の竜の背中を穿つ。
風の刃は断頭台のギロチンのように一直線に災禍の竜の腹部に向かっていき、一文字に斬り裂いた。
「ーーグルォオォォォッ!?」
穿たれた強固な甲殻と斬り裂かれた腹部から血を噴き出しながら、悲痛の叫び声を上げる災禍の竜。
生半可な攻撃は一切通さないはずの堅牢な守りをとうとう突破することに成功したレンカとヴァイクは、あまりの威力に唖然としていた。
「なるほどね、これなら私たちでも災禍の竜に手傷を負わせられるわ」
「……好機だ。一気に攻め込むぞ」
弾を装填しながらレンカとヴァイクはワイバーンの手綱を引き、空を駆け抜けていく。
怒濤の攻撃の嵐に災禍の竜は悔しげに牙を食いしばりながら、とにかく回避するのに専念し始めていた。
「後悔は望んでいない 僕も 君も この世界も 辛辣な言葉も受け入れる 僕は 一人で 君の分まで」
災禍の竜を攻め立てるレイドたちを鼓舞するように、サビを歌い上げる。
巨大化した炎の槍や風の刃、レイドの放った極太の赤いレーザーを縫うように空を飛んで回避していく災禍の竜。
だけど、さすがの災禍の竜も避けきれずに被弾することが多くなり、砕けた鱗が宙を舞っていた。
「俺もやるぜ! 噛み砕け!」
レイドが乗っているワイバーンの足に掴まったまま、アスワドは災禍の竜に向けて拳を向ける。すると、氷で出来た龍が意志を持っているように口を大きく開けて災禍の龍に襲いかかった。
口から冷気を吐き出しながら長い身体をくねらせて接近し、鋭い牙で災禍の竜に食らいつく。
苦悶の表情を浮かべながら振り払おうとする災禍の竜だったけど、自身が生み出した豪雨とライブ魔法の効果で通常より二回りも大きくなった氷の龍は食らいついて離れなかった。
「ーーグルゥオォォンッ!」
牙が食い込んだ箇所からパキパキと音を立てて凍り付いていく。一向に離れようとしない氷の龍に業を煮やした災禍の竜は、大きく息を吸い込むと氷の龍に向かって火球を吐き出した。
連続で三つ放たれた火球に氷の龍は仰け反り、牙が離れてしまう。そのまま何度も火球が直撃し、水蒸気を巻き起こしながら氷の身体が溶け始めていた。
「そちらにばかり気を取られるのは命取りだ!」
氷の龍にばかり目を向けていた災禍の竜の隙を狙い、ワイバーンから飛び降りたレイドが剣を振り上げる。
そして、振り下ろされた剣は災禍の竜の右翼に叩き込まれた。
「ーーグルゥッ!?」
元々の膂力に加え、ライブ魔法で強化されたレイドの剣戟に災禍の竜の身体が傾く。飛ぶために必要な翼に甚大なダメージを受けた災禍の竜の動きがかなり鈍り始めていた。
これで巨体の割に軽やかに飛び回る災禍の竜の機動力は、かなり削がれたことだろう。
ここが攻め時だ。そう判断した俺はチラッと振り返
ってみんなに目を向け、合図する。
「ーー<Laugh&Laugh>」
リグレットの演奏が止まり、すぐに縦ノリのハイテンポなドラムが始まった。
ウォレスの雄叫びを上げて響かせたドラムに合わせ、真紅郎が走り抜けるようなベースラインを奏でる。
二人の作り出したリズムにやよいはディストーションを効かせてギターをかき鳴らし、サクヤが踊るように鍵盤を指で叩いて演奏を華やかにさせていく。
俺は前のめりのアップテンポに肩を揺らしながら、右手に持ったマイクを口元に近づけて歌声を響かせた。
「
マイクを通した俺の声が空気を振動させて響いていくと、俺たちの真上に巨大な紫色の魔法陣が展開される。
魔法陣は俺たちの魔力を吸収し、バチバチと音を立てながら紫電が迸っていた。
俺は左手に持った剣を災禍の竜へと向けながら、続きを歌う。
「笑顔あふれる この世界 どんな人でも関係ない 手を取り 笑おう みんなの輪が 広がる 男女も格差も関係ない 肩を組み 騒ごう」
魔力を充填し終えた魔法陣から、紫色の雷が災禍の竜に向かって落とされた。咄嗟に避けようとする災禍の竜だったけど、レイドによってダメージを受けた翼が思うように動かせず雷が直撃する。
雷の雨に打たれた災禍の竜は首をもたげて天を見上げ、声にならない悲鳴を上げていた。
災禍の竜はかなりダメージを受けている。容赦なく俺たちは魔力を魔法陣に送り込み、何度も雷を落とし続けた。
「もちろん今夜はLaugh together! 騒げ! 踊れ! 笑え! 今しかないぞ」
サビに入ると災禍の竜は雷に打たれながら牙を剥き出しにして堪え、翼を大きく羽ばたかせて雷を払いのける。
そして、空に向かって咆哮すると空を覆っていた黒雲から雷鳴が轟き、雷が降り注いできた。
災禍の竜が落とす雷と、俺たちが放つ紫色の雷がぶつかり、相殺していく。それどころか災禍の竜は俺たちが乗る機竜艇に向かって雷を落としてきた。
「ぬぅん! 俺の操舵技術をナメるな!」
向かってくる雷から逃げるようにベリオさんが機竜艇を操縦する。
グネグネと蛇行しながら雷の雨を避ける機竜艇。魔鉱石を使った装甲を纏っている機竜艇は襲ってくる雷を反射させるも、これだけの数の雷を全て反射させることは出来ずに何度か被弾した。
このまま被弾し続ければ機竜艇の装甲が持たない。すぐに頭上に展開していた魔法陣を操作し、襲ってくる雷に向かって紫色の雷をぶつけて防ぐ。
「
激しさを増す演奏に呼応するように雷が降り注ぐ。両者が落とした雷が交差し、災禍の竜の身体と機竜艇に同時に直撃した。
バチバチと足下に電流が流れて火花が散り、ジリッと肌が少し焦げる。熱さに顔をしかめても歌うのを止めない。演奏を止める訳にはいかない。
ここが踏ん張りどころだ。言葉を交わさなくても俺たちは同じ気持ちを抱きながら、二番に入った。
「誰もがみんな 生きている 命はみんな同じ価値 さぁ来い 踊ろう この歌は輪になり 広がる 老いも若いも関係ない 手を振り 狂おう」
走り抜けるような演奏に雷の勢いが増していく。拮抗していた雷の応酬は徐々に俺たちの方が押し始め、災禍の竜が焦り始めていた。
「だって今夜はParty with my friends! この騒ぎに入れば 誰もが友さ もちろん今夜は Laugh together! 騒げ! 踊れ! 今しかないぞ」
押し返した紫色の雷がどんどん災禍の竜の身体を襲う。勢いを増した雷の嵐に災禍の竜の鱗が焼け焦げ、甲殻にヒビが入っていった。その隙間に雷が入り込み、内部から感電した災禍の竜は悶え苦しんでいる。
「
最後にジャンプして思い切り甲板を踏みつけると、一際でかい雷が災禍の竜の身体を打ち抜いた。
遅れてやってきた轟音と共に災禍の竜の断末魔が響き渡る。
連続でのライブ魔法の使用に疲弊した俺たちが一度演奏を止めると、災禍の竜はガクンッと力なく高度を下げた。
「これで、どうだ……ッ!」
こんなにライブ魔法をやったのは初めてで、一気に魔力が失われている。体力もかなり使い、肩で息をしながら災禍の竜の様子を見てみると、口から煙を吐きながら白目を剥いて地面に向かって落下し始めていた。
「ーールゥオォッ!?」
そのまま地面に落ちるかと思った瞬間、我に返った災禍の竜は地面ギリギリで翼を羽ばたかせ、地上の森を薙ぎ倒しながらまた空へと飛翔する。
だけど雷を浴びた身体は大火傷を負い、今までのダメージもあってか最初の動きに比べればかなり鈍重だ。
あれだけの攻撃を受けてもまだ飛ぶ力を残してい
る災禍の竜。これが生きた災害と呼ばれる、この世界における最強生物の一角としての底力なんだろう。
ここまでやっても、まだ地上に叩き落とすには足りないようだ。
「……だったら、
ゆっくりと深呼吸して息を整えてから、俺はマイクを通してベリオさんに声をかける。
「ベリオさん! こっからは機竜艇も攻めて欲しい! その隙は俺たちが作るから!」
「フンッ、何をするつもりなのかは知らないが……こっちもそろそろ攻めようと思っていたからな。機竜艇の力、見せつけてやるぞ!」
待ってましたとばかりに機竜艇の心臓部からうなり声が聞こえてきた。
後方のジェットから魔力を吹き出し、翼を大きく広げていつでも発進する準備を整えた機竜艇。
チラッとみんなに目配せしてから、俺はボロボロになりながらも戦意を失わずに紅い瞳で睨みつけてくる災禍の竜に剣を向ける。
「行くぞ、災禍の竜。音に惑え……<花鳥風月>」
俺が曲名を告げるのを合図に、ドラムスティックを思い切り振り下ろしてシンバルを模した魔法陣を打ち鳴らしたウォレスによって、演奏が始まった。
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