七曲目『ライブの幕開け』
「やよい! こっちこっち!」
「ちょ、キリちゃん待って、速いって!?」
祠の警護を終えて次の日。
朝早くからデルトの家に来たキリは、やよいの手を引いて集落を走っていく。やよいはテンションの高いキリに圧倒されていた。
手を引っ張られて慌てているやよいの姿を眺めながら、俺とウォレスは二人の後ろを歩いている。
昨日に引き続き今日もキリが集落を案内してくれるようで、最初はやよいだけを連れて行こうとしていたけど、やよいは丁度よく近くにいた俺とウォレスを道ずれにしてきた。
本当ならウォレスと稽古をしようと思ってたのに……まぁ、いいけど。
「ちょ、ちょっとキリちゃん……す、少し休憩しない?」
「えぇ……やよい、体力ないね。仕方ない、ちょっとだけだよ?」
ずっとキリに引っ張られ続けたやよいは肩で息をしていた。この異世界に来て体力はついたけど、キリの体力はそれ以上だ。しかもテンションがかなり高い。
そのせいでさすがのやよいも限界だった。キリはやれやれと肩を竦めながら立ち止まる。
「……大丈夫か?」
「はぁ、はぁ……大丈夫に、見える? 若さって、凄い……」
「いや、お前も若いだろ。それに、キリの方が年上だぞ?」
膝に手を置いて荒くなった呼吸を整えているやよいに声をかけると、ジロッと睨んできた。
若さって凄いって言うけど、やよいはまだ十代。全然若いし、なんだったらダークエルフ族のキリはサクヤと同じ三十代……年齢で言えば、やよいが最年少だ。
まぁ、長命のダークエルフ族の三十代は、人間で言う十代半ばぐらいだから見た目は若いけど。
がっくりとうなだれているやよいを後目に、俺は周りを見渡した。今いるところは集落の中心部……広場のような場所だ。
そこでは女性のダークエルフ族たちが皮を鞣していたり、木の実をすり鉢すり潰して何かを作っていた。
「あれは何を作ってるんだ?」
「ん? あれはねぇ、木の実クッキーの材料を作ってるの!」
「木の実クッキー?」
「うん! すり潰した木の実と飼ってるシループの乳を混ぜて焼くんだよ! おやつにぴったりなんだぁ」
シループってたしか羊型の温厚なモンスターだったな。羊乳と木の実のクッキーか……この地域は寒冷地だし、保存食としては最適だろう。それに、聞いてるだけでも美味そうだ。
作業をしながら俺たちの方をチラチラと見てくるダークエルフ族。キリと一緒だからそこまで警戒してないだろうけど、それでもまだ俺たちを認めていないようだ。
別に何か悪いことをするつもりはないんだけど……少しでも仲良くなれたらいいのにな。そんなことを考えていると、ふと気になる物を見つけた。
「なぁ、あれって銅鑼か?」
俺が見つけたのは、広場の中央に鎮座している銅鑼。見た感じ鉄じゃないけど、間違いなく銅鑼だった。
かなり大きく目立つ銅鑼が気になってキリに聞くと、キリは自慢するように胸を張って答える。
「そうだよ! あれはね、<アムドスラフファー>の甲羅で作った銅鑼なんだよ!」
アムドスラフファー。亀のような大型モンスター、だったはず。たしかかなり臆病で、戦いを避けるために自身の甲羅からモンスターが嫌う音を鳴らすモンスターだよな?
前に勉強したことを思い出しながらキリに確認すると、キリは何度も首を振って頷いて話を続けた。
「そうそう! でね、アムドスラフファーの甲羅で出来た銅鑼を朝と夕方に鳴らして、集落に近づいてくるモンスターを追い払うの! よっぽど強いモンスターじゃなければ、それだけで近づかないんだよ!」
「モンスター避けに使ってるのか」
アムドスラフファーが外敵を追い払う時に鳴らす音はかなり大きいらしい。それを銅鑼に使えば、この霊峰中に音が響き渡るだろうな。
「音でモンスター避け、か……」
竜魔像を祀っている祠から漏れ出した魔力にモンスターは惹きつけられる。何度もモンスターの襲撃があったら、いつか集落の中にまで入ってくる可能性もあるだろう。
それを避けるために銅鑼を鳴らして、大きな音を響かせている訳だ。
そこでふと、いいことを考えた。
「ヘイ、タケル……」
同時に、ウォレスがニヤリと笑いながら声をかけてくる。多分、俺と同じ考えに至ったんだろう。
俺とウォレスは顔を合わせ、二人でニヤッと笑い
合った。
「その様子だと、お前もか?」
「ハッハッハ! タケルもか。なら、答え合わせといこうか?」
ウォレスは魔装を展開し、ドラムスティックを握りしめると空に向ける。
「ーーライブしようぜ!」
やっぱり同じだったな。
俺とウォレスが至った考えは、ライブをすることだ。
大きな音でモンスターを近づかせないようにしてるなら、ライブだって音では負けてない。
それに……もしかしたら、ライブを聴けばダークエルフ族も俺たちのことを認めてくれるかもしれないしな。
俺たちの話を聞いていたやよいは、キリに問いかける。
「ねぇ、キリちゃん。夕方に鳴らすのって銅鑼じゃなきゃダメ?」
「え? モンスター避けになるなら別に銅鑼じゃなくてもいいと思うけど……何かあるの?」
「うん、あるよ! モンスター避けにもなるし、最高に盛り上がれるのが!」
キリは腕組みして頭を悩ませると「パパに聞いた方がいいかも?」と答えた。
ならさっそくこの集落の族長、モーラン様のところに行ってみよう。
今度はやよいがキリの手を引っ張り、モーラン様の家に向かった。
「銅鑼でなくてはならないという決まりはないが……何をするつもりなのだ?」
そして、家に着いた俺たちはすぐにモーラン様に提案してみると、モーラン様は訝しげに俺たちを見つめてくる。
俺たちは顔を見合わせて笑い、モーラン様の疑問に答えた。
「人間である俺たちを招き入れてくれて、寝床まで貸して貰った恩を返したいんです。俺たちなりのやり方で!」
「ハッハッハ! 最高に盛り上がれて、最高に楽しい
「さ、最高に盛り上がれて、楽しい?」
モーラン様は困惑しながら首を傾げる。それもそうだろう、ライブなんて音楽文化のない異世界の住人がすぐに理解出来るはずがない。
だけど、聴けば分かる。例え音楽を知らなくても、その魅力に絶対に取り付かれる。
今まで旅をして、色んな国や場所でライブをしてきた俺たちは知ってる。
最高に盛り上がれて、最高に楽しい、最高に熱いライブをする。それが、俺たちRealize流の恩返しだ。
必死に頼み込んだ結果、モーラン様は仕方ないとばかりにライブをすることを了承してくれた。
そうと決まれば急いで準備しないとな。俺たちはすぐにデルトの家に戻り、真紅郎とサクヤにもライブの話をする。
「ライブね。うん、いいと思う!」
「……ライブ、久しぶり。楽しみ」
真紅郎とサクヤも乗り気だ。
ここ最近ライブをしていなかったし、いい機会だ。思いっきりライブをしてこの集落を熱狂の渦に巻き込んでやろう。
「何か面白そうなことをするようだな。俺に手伝えることはあるか?」
すると話を聞いていたデルトが声をかけてきた。
サクヤはデルトの方に目を向けながら、静かに口を開く。
「……夕方、広場に集落の住人を集めて」
「ん? それだけでいいのか?」
「……うん。あとは、デルトも一緒に聴いてて。ぼくたちの、ライブを」
気合いが入っているサクヤは真剣な眼差しでデルトを見つめながら観客集めをお願いする。
この集落に来て初めて見せるサクヤのやる気充分な目に、デルトは驚きながらも嬉しそうに頬を緩めて笑った。
「どうやら息子のまだ知らない一面が見れそうだな。そのらいぶ、とやらがなんなのかは知らないが……いいだろう、俺に任せておけ! 引きずってでも集めてやる!」
「……お願い」
デルトの協力も得られた俺たちは、ライブの準備を始めた。
さて……ダークエルフ族に音楽の魅力を教えようか。
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