第五楽章『漂流ロックバンドとアングレカムの咲く丘』
プロローグ『空から落ちてきた女の子』
空は快晴。穏やかな風が草原を揺らし、白い雲がゆっくりと流れている。
レンヴィランス神聖国を旅立って三日。モンスターの姿もなく、今のところ順調に俺たちロックバンド<Realize>の旅路は順調だ。
そんな平和な草原を歩いているとRealize紅一点、女子高生ギタリストのやよいが、風でなびいた綺麗な長い黒髪を手で押さえながら俺に声をかけてきた。
「ねぇ、タケル。次の国……シーム? だっけ? あ
とどれぐらいで着くの?」
「えっと……どれぐらいだろうな? 真紅郎、分かるか?」
次の目的地までの距離が分からなかったからベース担当の真紅郎にパスする。
真紅郎は地図を取り出して現在地から目的地までの距離を見て、首を傾げながら顎に手を当てて頭の中で計算していた。
その仕草を見るとただでさえ華奢な体格で栗色のボブカット、それに中性的な容姿をしているから、どうにも女性にしか見えないな。男なのに。
「……タケル、今ボクのこと女の人みたいって思わなかった?」
「お、思ってねぇよ! 全然思ってない!」
どうやってなのか分かんないけど俺の思考を読んだ真紅郎がジトッと俺を睨んでくる。
慌てて目を逸らしてしどろもどろになりながら答えると、真紅郎はため息を吐いた。
「まぁ、いいや。あと少しで着くと思うよ? そうだなぁ……今日中には着くんじゃないかな?」
「ハッハッハ! そいつはいいな! どうする? 走るか!?」
今日中に着くと聞いて外国人ドラマー、ウォレスが笑いながらバカなことを言い出した。
外国人らしく長身で体格がよく、太陽の光で煌めく金髪を短く切りそろえたウォレスは見た目はイケメンだ。喋らなければ、だけど。
喋ると途端にバカな発言しかしないからなぁ、とやれやれと首を横に振る。
そんな俺の反応にウォレスはムッとした表情を浮かべた。
「んだよ! どうしてオレをバカにした目で見るんだ!? オレはバカじゃねぇぞ!? なぁ、サクヤ!」
「……お腹空いた」
ウォレスが同意を求めたのは白銀の髪をした褐色の少年、サクヤだった。
だけどサクヤはウォレスの言葉を無視して眠そうな半分閉じた目で遠くを見ながら、空腹を訴える。さっき食べたはずなんだけど……。
「ぐぬぬ……な、なぁ、キュウちゃん。オレ、バカじゃねぇよな?」
無視されたウォレスはサクヤの頭の上にいるRealizeのマスコット的存在、額に楕円型の蒼い宝石がある白い小キツネモンスターのキュウちゃんに助けを求め出した。
キュウちゃんはチラッとウォレスを見てからフイッと顔を逸らして鼻を鳴らす。ついでにモフモフとした尻尾でウォレスをシッシッと追いやっていた。
キュウちゃんにまでバカにされたウォレスは頭を抱えて天を仰ぐ。
「
「あぁ、もう! バカウォレス、うるさい!」
天に向かって叫んだウォレスにやよいが怒鳴る。そういう行動がバカに見えると何故分からないのか。
呆れていると突然ウォレスが「ん?」と動きを止めていた。
「どうした?」
気になって聞いてみると、ウォレスはジッと空を見つめたまま「なぁ、あれなんだ?」と指さしている。
指さした方向を見てみると、そこにはこっちに向かって何かが落ちてきているのを見つけた。
目を凝らして見てみるとそれはーー人間だ。
「ーーはぁ!?」
目を疑う光景に思わず声が出た。
空から落ちてきているのは、一人の女の子だ。
「へ、ヘイ、親方! 空から女の子が!?」
「バカかお前は!? そんなこと言ってる場合か!?」
こんな状況でバカなことを言うウォレスに怒鳴る。その間も女の子はこっちに向かって落ちてきている。
「え!? ちょ、ちょっとどうするの!?」
やよいも女の子に気づいて焦った様子で聞いてくる。だけど俺だっていきなりのことにどうしていいか分からない。
「と、とにかくウォレス! 受け止めるんだ!」
「オーライ! <エネルジコ!>」
この中で一番力持ちのウォレスに女の子を受け止めるよう指示すると、ウォレスはすぐに<音属性魔法>の筋力強化を使って女の子の落下地点に走る。
そして、ウォレスは思い切りジャンプした。
「ーーウォレスキャッチ! って、ぐぉ!?」
空中で女の子を受け止めたウォレスはそのまま背中から地面に着地する。
結構なスピードで落ちてきた女の子の下敷きになったウォレスは、筋力強化をしていたおかげか、そもそもタフだからか分かんないけど無傷だった。
うっすらと緑がかった白い髪の色白で綺麗な顔立ちをした十代後半ぐらいの女の子は、眠るようにウォレスの上で気絶している。
「こ、この子はいったい……?」
突然、空から落ちてきた謎の女の子。
平和な旅路にいきなり起きた出来事に、俺たちは呆然としていた。
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