第二楽章間奏『キュウちゃんの懐き事情』

「えへへぇ……キュウちゃぁぁん」

「きゅー」


 突然現れた白い子狐型モンスターにやよいはメロメロだった。

 キュウちゃんと名付けられたモンスターを抱きしめ、モフモフの毛に顔を埋めて頬を緩ませた姿は……正直、見ていられないほどだらしない。

 いや、たしかにキュウちゃんは可愛いと思う。真っ白なモフモフな毛に、ちっちゃな体。フリフリと尻尾を振る姿は、まさしく可愛いと断言出来る。


「でも、本当に謎なんだよなぁ」


 キュウちゃんを見て首を傾げながら呟く。

 こんなモンスターは今まで見たことがなかった。真紅郎も初めて見るようだし、そもそもキュウちゃんって何者なんだ?

 この森にいたんだから、セルト大森林に生息するモンスターなんだろうけど、森にずっと住んでいるエルフ族すら知らないって、どういうことなんだろう。

 危険性はなさそうだけど、本当に謎のモンスターだ。


「えぇ、どうでもいいじゃん。こんなに可愛いんだよ?」


 俺の呟きが聞こえていたのか、やよいがキュウちゃんを俺に向かって見せつけてくる。キュウちゃんは俺を見て小首を傾げていた。


「たしかに可愛いけどさぁ……」

「ハッハッハ! そんなに気にすんなよ、タケル! なぁ、やよい。オレにも抱きしめさせろ! 暖かそうだ!」

「ウォレスにぃ? まぁ、いいけど……イジメないでよ?」


 やよいは嫌そうにウォレスにキュウちゃんを手渡そうとした。だけど、キュウちゃんはウォレスに対して顔を背け、ウォレスの手を尻尾で叩く。


「痛……くねぇけど、んだよ!?」

「キュウちゃんはウォレスが嫌いなんだってさぁ」

「はぁ!? なんで!?」


 意地悪そうな笑みを浮かべながら言うやよいに、ウォレスがショックを受ける。またキュウちゃんに向かって手を伸ばそうとすると、キュウちゃんは嫌そうに尻尾を振って近づくことを拒んでいた。


「ちくしょう……なんか、無性に悔しいフラストレーティングだな」

「あはは……ちなみにボクはどうかな?」


 悔しそうにしているウォレスの肩をポンポンッと叩いた真紅郎がキュウちゃんに向かって手を伸ばしてみると、キュウちゃんは真紅郎の手をスンスンと嗅ぐ。

 そして、やよいの手から離れて真紅郎の手に収まっていた。


「あ、ボクは大丈夫みたい」

「なんでだよぉぉぉぉ!?」

「俺はどうだ……って、うぉ!?」


 気になって俺も手を伸ばそうとする前にキュウちゃんは真紅郎から離れ、勢いよく俺の胸に飛び込んできた。

 それを見たウォレスが妬ましそうに歯を食いしばっている。


「な、なんか妙に懐いてるな」


 キュウちゃんは俺の腕の中で丸くなって安心しているように見えた。別に俺、何もしてないんだけどなぁ。

 するとサクヤも気になったのかキュウちゃんに向かって手を伸ばす。

 キュウちゃんはサクヤの手をスンスンと嗅ぐと首を傾げ、そのまま俺の胸にすり寄ってきた。


「……残念」


 無表情で分かりづらいけど、しょぼんとした雰囲気のサクヤ。そこでウォレスがニヤニヤと笑いながらサクヤの肩に手を回す。


「ハッハッハ! 仲間だな、サクヤ!」

「……最悪」

「ちょ、そこまで言うか?」

「……最悪」

「二回も言わなくてよくないか!?」


 サクヤの物言いに傷つくウォレス。そんな時、いきなりキュウちゃんは俺の元から離れ、サクヤの足にすり寄っていた。

 それを見たサクヤは、ウォレスに向かって親指を立てる。


「……ふふん」


 そして、サクヤは無表情で自慢げに鼻を鳴らし、その光景を見てしまったウォレスは、がっくりと膝を着いた。


「どうしてオレはダメなんだよぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 ウォレスの慟哭が、森中に響き渡った。


「……そういうところじゃない?」


 ボソッと呟いたやよいの言葉に、俺と真紅郎、サクヤ……キュウちゃんが頷いた。

 その後、キュウちゃんのご機嫌取りをし始めたウォレスだったが、キュウちゃんにそっぽを向かれ続ける。

 ようやくキュウちゃんに触れられたのは、この森から旅立ってからだった。

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