十三曲目『大成功と反省』
俺が歌い始めると最初は戸惑っていた観客たちは徐々にリズムに合わせて肩を揺らし、盛り上がり始めていった。
キーボードが入ったことによりアレンジが加えられた<壁の中の世界>はかなりいい感じだ。
初めてのライブで緊張していたサクヤは必死に俺たちの演奏についてきているけど、やっぱりミスが出てきた。だけどそこはやよいやサクヤがフォローしているから問題はないし、そこまで大きなミスって訳じゃない。初めてのライブにしては、かなりの出来映えじゃないか?
そして演奏は一番、二番と続き、とうとうラストのサビに入る。
「夜になると 君が見ているだろう星を入れるために 僕の声はこの小さな部屋でしか響かない 音は 広がる 世界を超えて 音は繋がる君にどうか……」
歌い終わりを静かに、囁くように
アップテンポの演奏が少しずつフェードアウトしていき、最後はサクヤがキーボードで一音を鳴らして曲が終わった。
すると、歓声と拍手が同時に響き渡る。観客たちは未知の音楽という文化に触れ、熱狂している。
いつの間にか道行く人も立ち止まり、最初よりも観客が増えて凄い数になっていた。
「……はぁ、はぁ」
汗を流しながら歓声を上げている観客たちを、放心状態で眺めているサクヤ。
さて、二曲目に入る前にちょっとサクヤを紹介しようかな。
「ありがとうございます! これが音楽だ! 皆さん、どうだったぁぁぁ!?」
俺の問いかけに観客たちは大盛り上がりしていた。このレスポンスの速さ、最高だな!
「次の曲に入る前に、皆さんに紹介したい奴がいる! サクヤ!」
名前を呼ばれると思っていなかったのかビクリと肩を震わせ、どうしていいのか分からないのか戸惑っているサクヤを手招きする。
恐る恐る俺の隣に立ったサクヤの肩をポンッと叩き、観客たちに紹介した。
「こいつはサクヤ! 俺たちRealizeに加入した新人だ! こいつ、まだ初めて間もないのにめちゃくちゃ凄くないか!?」
観客たちはサクヤに対して拍手し、「いいぞぉぉ!」と声を上げている。その反応にサクヤは恥ずかしそうにモジモジしていた。それを見た観客……特に、女性の黄色い声援がわき上がった。
「これから俺たちはもっとライブをして、色んな人に音楽の素晴らしさを知って貰いたい! こんなに熱くて最高に盛り上がるのなんて、早々ないぜ!?」
音楽って文化を知らない人たちのライブをして、認めて貰う。これがこんなにも楽しいなんて思ってもなかった。
観客たちの反応は上々。受け入れてくれてるみたいだし、今回のライブはもう成功したようなもんだ。
まぁ、まだまだライブは続くけどな!
「次の曲は<リグレット>。戦いに赴く戦士たちの歌……聴いてくれ!」
次は<リグレット>だ。
ウォレスの陣太鼓のようなバスドラムの音が響いていく。そこにやよいのディストーションを効かせたギターと、真紅郎のベースが入っていく。
そして、サクヤも。
サクヤのキーボードは手動じゃなくても音の種類を変えられる<スプリット>を自分の意志で自由自在に使うことが出来る。
それにより右手の音域は機械的なシンセサイザーの音、左手の音域はピアノの音に設定して曲にアレンジを加えていた。
「君の懺悔が聴こえた気がした 遠く離れたこの地で 君の懺悔はチャペルに響く 戦場の僕の背を押した」
静かに、心の奥底から情熱を燃えたぎらせるように歌い上げる。それに呼応するように演奏に力が入っていく。
冷たさを感じさせる機械的な音色とピアノの儚くも強い意志を感じさせる音色が合わさり、曲が彩られていった。
キーボードのアレンジが入るだけで、いつもの曲が別の曲のように感じられ、思わず笑みがこぼれる。
「大切なものを守りたい 祈りを武器に 僕は抗う 未来が明るいと信じて 世界を相手に 僕は戦う」
サビに入る前に演奏がどんどん盛り上がり、観客たちも曲にのめり込んでいく。
さぁ、サビだ! 盛り上がっていけよ!
「後悔は望んでいない 僕も 君も この世界も 辛辣な言葉も受け入れる 僕は 一人で 君の分まで」
俺たち五人の演奏が新たなグルーヴを生み、音の波が観客たちに、この街に、国中に広がっていった。
熱気は色んな人に伝播していき、観客がどんどん増えていき、ちょっとした混乱になっている。
……あれ、ちょっとマズいかも?
思ったよりも観客が増えすぎてて、少し焦りながらも演奏は止まらないし、止める気もない。もうこのまま突っ走るしかない!
そのまま二番に入り、ラストのサビを歌い上げる。
「後悔は望んでいない 僕も 君も この世界も 辛辣な言葉も受け入れる 僕は 一人で 君の分まで そんな思いで 誰かを守れる そんな気がした どうか 君だけでも上を向いて欲しいーー」
サビが終わるとやよいと真紅郎が演奏を止め、ウォレスの陣太鼓のようなバスドラムの音と、サクヤのピアノの音だけが残る。
燃え上がる炎が消えていくように、演奏が終わった。
「ーーありがとうございました!」
演奏を終えた俺たちが頭を下げると、爆発したように拍手と歓声が音の壁になってぶつかってくる。
俺たちのライブ、サクヤの初ライブは大成功を納めた。
俺たちがステージを降りた後も、熱が冷めない観客たちは盛り上がり続けていた。
そして、俺たちはユニオンに戻ってきたのだが……。
「おんがく、素晴らしかったよ! 何故か分かんないけど涙が出てきた……くくっ、泣くのは久しぶりだったよ。で、だ。そんな最高の文化を教えてくれたあんたたちに言いたいんだが……」
うっすらと目を赤くしたアレヴィさんは、最初こそ俺たちを褒めていたけど、深い深いため息を吐き始めた。
「あんたたち、やりすぎだよ。らいぶのせいで街は大混乱の大渋滞。行商人が通れずに立ち往生していた。だから今後は、ちょっとやり方を変えてくれないと困るねぇ」
ですよねぇ。
俺もそこは気になっていた。
盛り上がったけど、予想外に観客が集まり過ぎだったからな。
これはアレヴィさんの言う通りやり方を考えないとなぁ。
俺たちは反省し、この日の夜は反省会をすることになった。どうにも締まらない感じだけど……。
「サクヤ。初ライブデビュー、どうだった?」
「……最高」
嬉しそうに、楽しそうに珍しく笑みを浮かべて答えたサクヤ。
ライブをやってよかった。そう思えただけで、充分過ぎるな。
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