十二曲目『新生Realizeの初ライブ』

 サクヤがRealizeに加入してから早一週間。

 この間ずっと黒豹団を捕まえるための作戦を練りながら、サクヤに俺たちの音楽知識をほぼ全て教え込んだ。

 サクヤは客観的に見てもかなりの天才だった。俺たちが教えたことを全部吸収し、自分なりのアレンジもしてみせるどころか俺たちの演奏に対して意見もするようになっていた。しかも、的外れなんてことはなく納得出来るぐらいの。

 結果、サクヤだけじゃなくて俺たちも成長することが出来た。これはかなり嬉しいことだな。

 そして、サクヤはプロとは言わないけどそれなりに演奏出来るようになった。後はもう、観客の目の前に立ってライブの空気感を味わうだけだ。


「らいぶ? おんがく? なんだい、それは?」


 ライブをしようにもいきなりゲリラライブをする訳にはいかないってことで、俺たちはアレヴィさんに相談しに来ていた。

 話を聞いたアレヴィさんは聞き慣れない単語に訝しげに首を傾げている。まぁ、分かんないよなぁ。


「よく分かんないが、面白そうじゃないか。いいだろう、私が許可する。その、らいぶとやらを見せてみな!」

「ありがとうございます!」


 完全には理解してないようだけど、とにかく面白そうと判断してくれたアレヴィさんが即決で許可してくれた。

 場所は……この国に来てすぐにウォレスが飛び込んだ噴水の前だ。あそこなら人通りも多いし、集まれるスペースもある。

 アレヴィさんから許可を貰った俺たちはすぐに動き出した。

 俺とウォレスで木材やら釘やらを買い込み、噴水の前にステージの土台を組み立てる。やよいと真紅郎はそのステージの装飾だ。

 サクヤは一人で最後の練習をしている。初めてのライブ演奏ってことで、どうやら緊張してるみたいだな。

 俺たちがステージを準備していると、何事かと住人たちや商人が興味深そうにチラチラと見てきた。


「おぉ、俺を助けてくれた兄ちゃんたちじゃねぇか! 何をおっ始めるつもりだ?」


 そこに俺たちがこの国に来る前に助けたおっさんが声をかけてきた。

 一度作業を止め、おっさんにニヤリと笑いかける。


「めちゃくちゃ楽しくて、熱くなれることだよ!」

「あん? なんだそりゃ?」

「ハッハッハ! おっさんにはこっそり教えてやるけど……商売チャンスだぜ?」

「ほう? ちょいと聞かせてくれや」


 そのままおっさんはウォレスと内緒話を始

めた。

 そして、話を聞き終えたおっさんは「ガッハッハ!」と豪快に大笑いする。


「そいつは面白そうだ! いいぜ、おっちゃんも乗らせて貰う!」

分け前シェアは六、四でどうだ? オレたちが四でいいぜ?」

「おいおい、それはないだろう。七、三ってとこじゃねぇか? と、言いたいところだが……がっぽり儲けたら六、四でいいぞ?」

「ハッハッハ! 決まりだな!」


 何か商談を終えたウォレスとおっさんがガッシリと握手していた。何を企んでるんだか……ま、いいや。

 そんなこんなでステージを作るのに一日かけ、次の日を迎える。

 ステージの前には多くの観客が集まっている。皆一様に今から始まる未知に心を躍らせていた。

 いいね。最高の気分だ。音楽を知らない人たちに音楽ってものを教える。元の世界では味わえない感覚だ。ちょっと、病みつきになりそう。


「……サクヤ、大丈夫か?」


 観客を見つめ、顔がいつもより強ばっているサクヤに声をかける。サクヤは俺の声かけにビクリと肩を震わせた。


「……大丈、び」

「噛んでる噛んでる」


 めちゃくちゃ緊張してるな。まぁ、そりゃそうか。初めてのライブは誰だって緊張するもんだ。俺もそうだったしな。

 そんな緊張しているサクヤの肩を、やよいがポンッと叩いた。


「心配ないって! あたしたちがいるし! 少しぐらいのミスならフォローするから!」

「そうだよ。だからサクヤは思い切り演奏すればいいよ」

「ハッハッハ! あんだけ練習したんだ、大丈夫だ! 流れに身を任せなゴーウィズザフロウ! 楽しもうぜ!」

「きゅきゅ!」


 やよい、真紅郎、ウォレス、そして多分キュウちゃんもサクヤを元気づける。最後に、俺はサクヤの頭をポンポンと撫でた。


「そういうことだ。思いっきりやろうぜ!」

「……うん」


 サクヤは一度深呼吸すると、力強く頷いて見せた。これなら大丈夫そうだな。


「よし、行くぞ! 新生Realizeの初ライブデビューだ! 楽しんでいこうぜ!」


 俺の呼びかけに全員が「おぉぉ!」と返した。

 俺たちがステージに上がると歓声が沸き上がった。観客たちも中々ノリがいいな。

 ふと気付くとおっさんが観客たちに混じって弁当を売っていた。うん、意外と売れてるっぽい。

 他にも大食い大会に出場していたゴードンや筋肉隆々な選手たち、司会の人、防具服店のラルドさん、ガンドさんにアレヴィさんも観客の中にいた。

 俺はゆっくりと息を吸い、魔装を展開して切っ先をステージに突き刺し、マイクを口元に近づけて叫んだ。


「ハロー! ヤークト商業国の皆様! 今日は俺たちRealizeのライブに集まってくれてありがとう!」


 マイクを通した俺の声がビリビリと空気を震わせ、観客たちが目を丸くして驚いていた。

 驚くのはまだ早いぜ?


「今から俺たちがやるのは、音楽って奴だ! 全員知らないとは思うけど、聴いてくれると嬉しいぜ! 最高に熱くなれるはずだ!」


 チラッとやよいたちに目配せすると、全員同時に魔装を展開した。

 やよいは斧型のギターを構え、サクヤは銃型のベースを構える。ウォレスはスティックを両手に持って紫色の魔法陣に腰掛けると、目の前にドラムを模した魔法陣を展開させた。

 そして、キュウちゃんを頭に乗せたサクヤが魔導書を開くと、そこから紫色の鍵盤ーーキーボードが現れる。

 全員の準備が整ったのを確認し、観客たちに向けて人差し指を向ける。


「全員、音楽の楽しさを味わって貰うぜ……行くぜ、<壁の中の世界>」


 俺が曲名を告げるとウォレスがスティックで魔法陣を叩き、ビートを刻む。

 そこにやよいのギター、真紅郎のベース……そして、サクヤのキーボードの音色が合わさっていく。

 キーボードが入ったことにより<壁の中の世界>は、前よりも色鮮やかにアレンジが加えられた。

 イントロが始まり、俺は叩きつけるようにマイクに向かって歌い始める。


 さぁ、楽しいライブの始まりだーー!


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