十一曲目『サクヤの魔装』

 魔鉱石を貰った日から三日が経過した。

 その間、サクヤは魔鉱石に魔力を送り込み、自分だけの魔装を作ろうと頑張っている。

 俺の怪我は完治した。サクヤの魔装が出来次第、黒豹団の捕縛依頼をしたいな。早くガンドさんを安心させたいし。


「……もう、少し……ッ!」


 サクヤはRealize全員に見守られながら、必死に魔力を送り続けていた。

 魔鉱石が光り始め、徐々に形を変えていく。もう少しで出来上がりそうだな。

 そして、魔鉱石が一際強く光り輝くと、サクヤの魔装が姿を現した。


「……でき、た」


 疲れ切ったサクヤがその場で尻餅を着く。汗を流しながらサクヤは満足そうに手にした魔装を見つめていた。

 サクヤの魔装は、一冊の本だった。

 濃い青色の真新しい表紙の、厚い本。これがサクヤの武器、なのか?

 サクヤの戦闘スタイルからすると、どうしてこうなったのか俺には分からない。それにしても、魔装って本にもなるのか。さすがはファンタジーだな。


「で、サクヤ。その魔装はどういうものなのかな?」


 真紅郎が興味深そうにサクヤの魔装を見つめながら問いかける。

 呼吸を整えたサクヤは立ち上がり、魔装である本を開いた。


「……ウォレスの魔装を見て、思いついた」

「あん? オレの?」


 突然話を振られたウォレスが首を傾げる。ウォレスの魔装って、ドラムスティック型で魔力刃を展開する奴だよな?

 サクヤは魔力を送り込むと、本が紫色の光を放つ。

 そして、本は浮かび上がると開かれたページから魔力で出来たキーボードが出現した。


「おぉ!」

「なるほど、そういうことね」

「わぁ、凄いよサクヤ!」

「ハッハッハ! いいじゃねぇか!」

「きゅきゅ!」


 ウォレスの魔装を参考にしたのは、魔力で出来た楽器を作り出すことか。俺たちの反応にサクヤはわずかに笑みを浮かべながら、魔力で出来たキーボードを指で押す。

 俺たちが知っているキーボードと遜色ない音が鳴った。成功みたいだな。


「……やった」

「それにしてもサクヤは凄いよ。だって本物のキーボードを見たことがないのに、ボクたちの説明だけで作り上げたんだから」


 真紅郎が感心したように言う。俺も同意見だ。

 まさか俺たちの説明だけでキーボードを作れるなんてな。歌は下手だけど、音楽に関しては天才的だ。


「……タケル」


 ふと、サクヤが俺の顔を見つめながら声をかけてくる。

 強い意志を感じさせる瞳を向け、サクヤは言い放った。


「……これでぼくも、Realizeのメンバーになれる?」


 どことなく心配そうに言うサクヤに、俺たちは顔を見合わせる。

 そして、全員揃って笑みを浮かべた。


「当たり前だ! もうお前は俺たちの仲間だ!」

「そうだよ! これでようやくサクヤもバンドメンバーだよ!」

「うん、ボクたちはサクヤを歓迎するよ」

「ハッハッハ! そうだぜサクヤ! 一緒に音楽を楽しもうぜ!」


 Realize全員でサクヤのメンバー入りを歓迎する。

 サクヤはホッと胸を撫で下ろし、改めて俺たちに頭を下げた。


「……よろしく、お願いします」


 これで俺たちRealizeに新しいメンバー、キーボード担当のサクヤが入った。

 キーボードが入れば、俺たちの演奏に幅が広がる。今まで出来なかったこともサクヤがいれば出来るようになる。

 今から楽しみだな。


「あ、そうだ。サクヤの魔装って何か特別な使い方でもあるの? それってただの本じゃないよね?」


 真紅郎の疑問に、サクヤは自慢げに答えた。


「……この魔装は、魔法を保存することが出来る」

「保存?」

「……例えば、<アレグロ>保存」


 そう言ってサクヤがおもむろに音属性魔法を唱えると、本がピカッと光った。続けてサクヤは<フォルテ>と唱えて保存する。


「……解放」


 次にサクヤが「解放」と言うと本がまた光り、サクヤに素早さ強化の<アレグロ>が施された。


「……解放」


 次に一撃強化の<フォルテ>が施される。なるほど、保存出来るってそういうことなのか。

 魔法を解くとサクヤは説明を続けた。


「……最大で魔法を十個保存出来て、任意で使える。でも、使える順番は保存した順」

「へぇ、便利だな」


 あらかじめ魔法を保存してストックしておけば、自分の任意のタイミングで使えるのか。ただでさえ詠唱がいらない音属性魔法をストックしとけば、すぐに使えるのはかなり便利だ。


「ただの本じゃなくて、魔導書って感じだね。キーボードは音を保存出来るから、そこから発想を得たのかな?」

「凄い凄い! 面白い!」

「ハッハッハ! こいつはいいな!」


 俺たちが褒めるとサクヤは照れ臭そうに頬を掻いた。

 これなら戦闘の幅も広がるだろう。中々面白い魔装だ。

 

「よし、サクヤの魔装も手に入ったし、そろそろ本格的に黒豹団の捕縛依頼を……」

「ヘイ、タケル! ちょっと待ったジャストアモーメント!」


 ウォレスが俺の言葉を遮ってくる。どうしたんだよ?


「話は聞いてるし、黒豹団は絶対に捕まえる! だけどよぉ、ちょっと焦りすぎじゃねぇか?」

「焦ってる? そりゃ、早く捕まえてガンドさんの娘さんを取り返さないと……」

「早くしないといけないのは分かってる。けどよぉ、そんなすぐに捕まえられるほど、黒豹団は簡単じゃねぇだろ?」


 たしかに、ウォレスの言う通りかもしれない。俺は、焦っているのか?

 ウォレスの意見に同調するように、真紅郎も話しに入ってきた。


「そうだね。タケルの気持ちは分かるけど、もう少し作戦を練った方がいいかもしれないね」

「真紅郎もか……」


 チラッとやよいを見ると、やよいも頷いていた。

 そうだな。ゆっくりと深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


「悪い、ちょっと焦ってたみたいだ」

「ハッハッハ! いいってことよ!」


 ウォレスが笑いながら俺の肩を叩いてくる。

 早く黒豹団を捕まえないと、と思いすぎて無意識に焦ってたみたいだ。

 焦らず、確実に捕まえなきゃな。


「で、だ。ここで相談なんだが……」


 ウォレスはニヤリと笑みを浮かべると、サクヤの後ろに回ってその両肩に手を置いた。


「せっかく新しいバンドメンバーが加入したんだ、ライブしようぜ!」

「……ライブ?」

「だってよぉ、もったいねぇじゃねぇか。オレたちはユニオンメンバーである前に、ロックバンドだろ? 最近ライブしてないしよ! ここらでライブをかまそうじゃねぇか!」


 最初からそのつもりだったのか。

 脳天気なウォレスに呆れつつ、心が躍っていることに気付く。

 そうだ、俺たちはユニオンメンバーである前に、ロックバンド。新しいメンバーが入ったのに、ライブをしないなんて俺たちらしくないな。


「分かった。ライブ、するか!」

「しゃあぁぁぁ!」


 俺の言葉にウォレスが雄叫びを上げる。

 ガンドさんには悪いけど、俺たちにとってはライブも大事だ。俺も怪我が治ったといえまだ本調子じゃないし、ちゃんと作戦を練らなきゃいけない。

 急いては事を仕損じる、って奴だ。


「やった! サクヤの初デビュー! 音合わせしないと!」

「その前にキーボードの練習だね。知識はあっても経験が皆無だし」

「ハッハッハ! ならオレたちで鍛えないとな!」


 サクヤの初ライブデビューに全員が嬉しそうにしている。

 そんな中、サクヤも目を輝かせてコクコクと何度も頷いていた。


「……頑張る」

「あぁ、頑張ろうな」


 気合いが入っているサクヤの頭をポンポンッと撫でる。

 俺たちは来るサクヤの初ライブデビューに向けて、練習を始めた。

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