二十二曲目『激闘の序曲』
真上に昇った太陽。爽やかな風に吹かれた木々が静かに揺れている。モンスターの声も気配もなく、静かな時が森に流れていた。
集落から離れた森で、俺たちRealizeは定位置に立つ。サクヤとキュウちゃんも一緒だ。
本当ならキュウちゃんも避難して欲しかったけど、頑なに俺の頭から離れようとしなかったから仕方なく連れてきた。今は俺の足下で耳をピクピクと動かし、鼻をスンスンと鳴らして敵を探っている。
「すぅぅ……はぁぁ……」
ゆっくりと深呼吸しながら目を閉じて集中する。
覚悟は決まってる。準備も完了だ。
「ーーきゅっ! きゅきゅきゅ!」
突然、キュウちゃんが鳴き出した。その声にゆっくりと目を開き、空を見上げる。
遠くの方から何かが近づいてきているのが見えた。
「ーーやるぞ!」
叫びながら右中指にはめた指輪ーー魔装を展開する。同時に魔装の収納機能で剣を取り出した。
俺の魔装であるダイナミックマイクを左手に持ち、右手にはロイドさんから託された剣を握る。
やよいは真っ赤なエレキギター型の斧を構え、真紅郎は木目調の四弦ジャズベース型の銃を構える。
ウォレスは両手にドラムスティックを握ると、目の前に紫色の魔法陣……ドラムセットが展開された。
サクヤはギュッと拳を握りしめ、キュウちゃんは毛を逆立たせて威嚇している。
「ーーグルォォォォォォォォッ!!」
徐々に近づいてきた敵の正体はーー真っ赤な外殻を纏った、前足と翼が一体化しているワイバーンと呼ばれるドラゴン。名を、クリムフォーレル。
クリムフォーレルは空中でホバリングすると、爬虫類のような縦長の瞳孔でギョロリと俺たちを睨みつけ、咆哮を響かせた。
俺もクリムフォーレルを睨み、剣の柄の先にマイクを取り付ける。そして、クルリと切っ先を地面に向け、突き刺した。
「ハロー、クリムフォーレル……今日がお前の命日だ」
マイクを口元に向け、クリムフォーレルに声をかける。
俺の言ってることが理解出来ているとは思わない。それでも、言わずにはいられなかった。
「ーー覚悟しろよクソトカゲ! 俺たちの音楽を、てめぇにお見舞いしてやる!」
クリムフォーレルに人差し指を向けて俺が叫ぶと、ウォレスが魔法陣をスティックで叩き、ビートを刻む。
「俺たちの音楽で狂わせてやるよ。行くぜーー<壁の中の世界>」
曲名を告げ、ライブ魔法を発動させる。
ディストーションをかけたやよいのギターソロから始まったイントロに、ウォレスのドラムと真紅郎のベースが合わさっていく。
すると、俺たちを取り囲むようにいくつもの紫色の魔法陣が展開された。この魔法陣は、砲台だ。
そして、目標はーー当然、クリムフォーレル。
「君に届いているだろうか あの日の地の温もりは 君に聞こえているだろうか あの日君に伝えたかった言葉は」
Aメロを歌うと、俺たちの魔力が魔法陣に集まっていき、紫色に光り始める。クリムフォーレルは魔力が集まっているのを察したのか、俺たちに向かって火を吐こうとしていた。
「<我射抜くは鬼神の長槍>ーー<フレイム・ランス!>」
「<我放つは軍神の一撃>ーー<ウィンド・スラッシュ!>」
「<我放つは龍神の一撃>ーー<アクア・スラッシュ!>」
俺たちの邪魔を、エルフ族がさせると思ってんのか?
木に隠れていたエルフ族が、クリムフォーレルに向かって魔法を放った。
放たれた火の槍、風の刃、水の刃がクリムフォーレルに直撃し、攻撃を阻止する。その間に、俺はBメロを歌う。
「遠く離れた見知らぬ土地で 君は同じ空を見て何を思う?」
曲の盛り上がりに比例して魔力を帯びた魔法陣が激しく発光していく。それをなんとか止めようとクリムフォーレルが襲ってくるが、エルフ族の魔法で邪魔されていた。
鬱陶しそうに喉を鳴らすクリムフォーレルに、人差し指を向ける。
「金魚鉢を買った 部屋の小窓に置いた 水も砂も 魚も入れずに」
Cメロが終わり、ようやく魔力の充填が終わる。
そして、やよいの激しいギターに合わせてサビに入った。
「夜になると 君が見ているだろう星を入れるために 僕の声はこの小さな部屋でしか響かない 音は 広がる 世界を越えて 音は繋がる 君にどうか」
サビを引き金に、俺たちの周囲に展開していた魔法陣からいくつもの紫色の光線がクリムフォーレルに向かって撃ち出された。
クリムフォーレルは空を飛び回り、その巨体からは想像がつかないほどの俊敏な動きで光線を避けていく。
歌いながら魔法陣の位置を調節しても、クリムフォーレルには当たらなかった。
サビが終わり、次は二番に入る。当たらないなら、当たるまで撃ち続ける!
「君は忘れているだろうか あの日君に奏でた音を 君は繰り返しているのか 変わり映えのない夜を」
螺旋を描くバレルロール、後方に一回転とアクロバットな動きで避け続けるクリムフォーレル。途中でエルフ族の魔法が直撃しても関係なく、躱している。
多分、光線が当たる方があいつにとってヤバいことなんだろう。逆に言えば、当たればどうにかなるーー!
「季節は巡り 星は廻る 僕らはそのちっぽけなかけらの一つ」
光線を放ち続け、俺の魔力がどんどんと減っていくのを感じる。これは、俺だけじゃなくてやよいたちも同じだ。
だけど、俺の魔力量はそんな簡単には尽きたりしない。ドンドン持って行け。その代わりにクリムフォーレル、お前は絶対に落としてやる。
「金魚鉢を割った この退屈から抜け出したくて そこには 何も入っていない」
二番のサビに入る直前、クリムフォーレルがとうとう反撃してきた。
エルフ族の魔法が当たっても無視して、光線を避けながら俺たちに向かってきている。
「夜になると 君が見ているーーッ!?」
クリムフォーレルを掠めた光線がジュウッ、と外殻に焦げ跡を残す。顔をしかめたクリムフォーレルは、そのまま俺たちに向かって口から火球を放ってきた。
「ーー全員、回避ぃぃぃ!」
歌うのを途中で止め、全員に叫ぶ。急遽演奏を切り上げた俺たちは飛び込むように火球を避けた。
俺たちがいた場所に火球が着弾し、爆風と熱気が俺たちを襲う。演奏をやめてしまったから、展開していた魔法陣が霧散していった。
作戦、失敗だ。
「クソッ!」
悪態を吐きながら立ち上がり、剣を構える。
クリムフォーレルは悠々と空に舞い上がり、どことなく笑っているように見えた。
ライブ魔法が失敗した今、俺たちに残された作戦はない。そもそも、ライブ魔法の光線が当たらないことにはどうしようもなかったんだ。
「だけどーー!」
諦めるわけにはいかない。こうなったら出たとこ勝負だ。
「グルゥオォォォォォォォォォ!!」
空中でホバリングしたクリムフォーレルは、俺たちに向かって咆哮した。ビリビリと音の衝撃が俺たちを襲う。
「ーー俺、やよい、ウォレス、サクヤは前線で戦う! 真紅郎は中距離から魔力弾を撃ちながらサポート! エルフ族は後方から魔法で援護してくれ!」
負けじと俺も全員に向かって叫ぶ。
指示を聞いたやよいたちは俺の隣に立ち、真紅郎はその後ろでベースを構えて銃口をクリムフォーレルに向ける。さらに後ろに控えたエルフ族は、魔法の詠唱を始めた。
「絶対に、負けねぇ!」
ギリッと剣の柄を握りしめ、切っ先を空にいるクリムフォーレルに向ける。
「来いよ、トカゲ野郎……ッ!」
俺の言葉に、クリムフォーレルはギョロッと視線を向ける。そして、口から火球を放ってきた。
命を賭けた激闘は、始まったばかりだーー。
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