二十一曲目『戦士の資格』

「ど、どうして!?」

「軟弱種族を助ける義理はない」


 やよいの問いかけに、ケンさんは吐き捨てるように言い放つ。

 そんな態度のケンさんに、ウォレスが噛みついた。


「じゃあ、どうしてあの時助けてくれたんだよ!? なんでだホワイ!?」

「あれはお前たちだから助けたのだ。エルフ族を助けようとした訳ではない」


 ケンさんの代わりにタウさんが答えた。つまり、これはケンさんだけじゃなく、ケンタウロス族全員の総意ってことなのかよ。


「……ふざけんなよ」


 ケンタウロス族の態度に、怒りがこみ上げてくる。

 俺はケンさんを睨みつけ、口を開いた。


「同じ森に住んでんだろ!? なのに、どうして!?」

「だからどうした? それと我らがエルフ族を助けることは関係ないだろう?」

「もしかしたら、クリムフォーレルがケンタウロス族を襲うかもしれないよ?」

「その時は我ら同族のために戦うまで」


 真紅郎が言ってもケンさんの考えは変わらなかった。頭が固いにもほどがあるだろ。

 そこで、やよいは今にも泣きそうな顔でケンさんを見上げる。


「どうしても、ダメなの?」

「……お前たちの頼みは、大抵のことは聞き入れる。だが、これは話が別だ」

「我らはお前たちのためなら戦おう。しかし、エルフ族となると聞き入れられぬ」

「我らとエルフ族は相容れぬのだ」


 ケンタウロス族とエルフ族の確執。数百年前からの根が深い問題だ。

 だけど、仲違いした切っ掛けはかなりしょうもないもの。それなのに今もなお、両種族は仲が悪いままだ。

 だけどーー。


「……それが、なんだって言うんだよ」


 怒りで体が震える。震える声で呟き、ケンさんを睨みつけた。


「今、誰かが困ってる! 助けを求めてる! それでも、お前たちは仲が悪いなんてくだらない理由で、無視するのかよ!?」


 くだらない。本当に、くだらない。

 昔からの確執がなんだ。相容れないからってなんだ。

 そんな理由で、助けを求める人を無視するって言うのか!?

 

「……エルフ族のために戦う理由は、我らにはない」


 俺の想いは伝わることはなく、ケンさんの考えは変わらなかった。

 その瞬間、俺の怒りは一気に爆発した。


「ーー誰かのために戦わない奴に、戦士を名乗る資格はない!」


 ビリビリと空気を震わせた俺の叫びに、ケンさんたちは少し仰け反っていた。

 戦士とは、誰かのために戦う勇敢な人たちのことだ。少なくとも、俺はそう思ってる。

 誇りのため、矜持のため、色んな想いがあるだろう。

 それでも根っこの部分は誰かを……何かを守るために戦ってるんだ。


「何が相容れないだ、何が昔からの確執だ! そんなカビの生えた古い問題に、いつまで囚われてんだよ!」


 それなのに、何百年も前のくだらないことで、助けを求めてる人を無視するなんて、ふざけてる。

 それのどこが、誇り高い勇敢な戦士と言うのか。

 俺は、認めない。絶対にーー!


「もういい! お前たちにはもう頼まない!」


 言いたいこと全部言い、俺はケンタウロス族に背を向ける。

 ここまで頭が固い奴らに、頼ることはない。俺たちと、エルフ族でどうにかしよう。

 集落から去ろうとする俺にやよいたちは続く。そこでやよいが俺に小声で声をかけてきた。


「ねぇ、いいの?」

「いい! あんな奴らなんかいても役に立たないだろ!」


 まるで子供の癇癪みたいな物言いに、自分でも情けなくなる。

 だけど、あれだけ言ってもケンタウロス族は考えを改めようとしなかったんだ。なら、あれ以上言っても無駄だ。

 いつまたクリムフォーレルが襲ってくるか分からない。急いでエルフ族と話し合いをして、作戦を練らないとな。

 エルフ族の集落に戻ってみると、そこには皮の鎧を装着したエルフ族の男性数名が集まっていた。

 その手には頑丈そうな木の杖を持ち、覚悟を決めた表情をしている。


「タケルさん!」


 リフが俺たちに気付くと、走り寄ってきた。リフも杖を持ち、鎧を着込んでいた。


「リフ、お前も戦うのか?」

「はい! 僕は成人してないし、まだ弱いですけど……一人でも多く戦力がいた方がいいと思うので! ユグド様に頼み込みました!」


 リフは笑みを浮かべてるけど、無理矢理笑っているのかひきつっている。足も震え、恐怖を感じてるようだった。

 でも、リフは戦おうとしている。その決意に、俺はリフの頭をポンッと撫でる。


「俺たちも戦うから大丈夫だ」

「え!? た、タケルさんも一緒に戦ってくれるんですか!?」


 リフの驚いた声に他のエルフ族も目を丸くしていた。

 するとユグドさんが口を開く。


「タケル殿、本当に戦うつもりかのう?」

「はい。俺たちも戦います」

「よいのか? これは我らエルフ族の問題じゃ。お主たちはこの森から離れてもよいのじゃよ?」


 ユグドさんは俺たちに逃げろと言う。エルフ族の問題だから、俺たちはここから逃げてもいいんだと。

 そんなこと、俺が……俺たちが受け入れると思ってるのか?


「言わなくても、分かりますよね?」

「……はぁ。まったく、愚か者め」


 呆れつつも、嬉しそうにユグドさんは笑みを浮かべる。

 そして、すぐに顔を引き締めると集まっていたエルフ族、そして俺たちに向き直った。


「敵はクリムフォーレル! 我らエルフ族の歴史上、最大にして最強のモンスターじゃ! 皆の者、心して挑むのじゃ!」


 エルフ族と俺たちは一斉に「おぉぉぉ!」と叫ぶ。

 絶対に、誰も死なせない。死なせてたまるか。


「ーー全員、聞いて欲しい!」


 俺は全員に向けて叫び、視線を集める。


「最初は俺たちに任せてくれないか?」

「何か手があるんですか?」

「もしかしたら、ってぐらいだけどな」


 首を傾げるリフに、俺はニヤリと笑みを深めた。


「遠距離攻撃で、一番威力のある魔法……ライブ魔法を使う。エルフ族は魔法で牽制と援護をお願いしたいんだ」


 俺の提案を話すと、エルフ族が話し合いを始めた。

 俺が考えたのは、ライブ魔法ーー<壁の中の世界>を演奏すること。あの曲の効果はビームを放つもので、威力も申し分ないはず。

 どうにかして空を飛び回るクリムフォーレルに直撃させれば、地面に落とせるかもしれない。

 そうなったら、俺たちの距離だ。


「どうかな?」


 そう説明すると、エルフ族たちは頷いて賛成してくれた。

 現状、それぐらいしか手がない。それが分かってるのか、すんなりと俺の提案が通った。

 ざっくりとだけど、作戦は決まったな。


「ーーよし、じゃあ行くか」


 俺たちはクリムフォーレルを迎え撃つため、戦場となる森に向かった。

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