一曲目『目覚め』
「__ケル、ねぇタケル! 起きて!」
俺の名前を必死に呼ぶ声と、肩を揺らされている感覚に目が覚めた。
ゆっくりと瞼を開くとぼんやりとした視界には天井と目に涙を浮かばせた、やよいの姿。
「や、よい?」
寝起きで掠れた声を出すと、やよいは安心したように深いため息を吐く。
「よかった……死んでるかと思った」
「……勝手に殺すなよ」
気だるさを感じる体に鞭を打って起き上がる。まだはっきりとしない頭を何度か振っていると、やよいは「ウォレス! 真紅郎! タケルが起きた!」と二人に呼び掛けていた。
歩み寄ってきた真紅郎は俺を見るなり胸を撫で下ろすと、柔和な笑みを浮かべる。
「おはようタケル。と言っても今が朝かどうかも分からないけどね」
「おいおい、真紅郎! 起きたんなら時間なんて関係なくグッドモーニングでいいだろ! ヘイ、タケル! グッドモーニング! いい朝だぜ?
起き抜けにウォレスの馬鹿笑いは頭に響くな。だけど、いつも通りの二人を見て少しホッとした。どうやらRealize全員無事だったようだ。
とりあえず無事なのは分かったけど……周囲を見渡して状況を確認してから、問いかける。
「……ここ、どこ?」
俺たちが今いるところは窓一つない薄暗い部屋だった。壁に取り付けられている松明だけが唯一の明かりで、ひどく埃っぽい。
埃を手で払いながら立ち上がると、真紅郎は顎に手を当てながら答えた。
「ここがどこなのかはボクも分からないよ。ボクたちもついさっき目を覚ましたばかりだからね」
「そうか。じゃあどうして……」
「ちなみにどうしてここにいるのか、っていう質問ならそれも分からないよ。ボクの最後の記憶はRealizeのライブ中に光に包まれたところで途切れてる。それにあの時の現象も普通じゃありえない……いきなり浮かび上がるなんて……」
途中から独り言のようになってしまっているけど、Realizeの中で一番頭がよくて冷静な真紅郎が色々と考えを張り巡らせている最中だ、邪魔をするわけにはいかないな。
だけど、そんな真紅郎でもあの時の……光に包まれて宙を浮かんだあの現象は理解の範疇を超えていたのか、今まで見たことがないほど狼狽えている。
それもそうだろう。あんなこと、普通ではありえない。まるで__。
「まるで
俺の思考を読むようにウォレスが脳天気に笑いながら言う。どうにもウォレスが絡むと緊迫感が薄れるというか、考えるのが馬鹿らしくなってくると言うか。
まぁ、ムードメーカーらしい働きのおかげで少し気が楽になった。
「とりあえず全員無事でよかった。やよいも大丈夫だよな? 怪我とかないか?」
「はぁ……タケル、心配しすぎ。あたしなら大丈夫だってば」
やよいはため息を吐きながら、やれやれと言わんばかりに額に手を当てて答える。いつも通りの姿に改めて安心しつつ、そろそろ本格的に今からどうするか考えていこう。
「さて、と。おーい真紅郎、戻ってこい」
「でもあの時のは……え? あぁ、ごめんごめん」
ブツブツと呟きながら物思いにふけていた真紅郎を現実に呼び戻し、話し合いを始める。
「ここから出ることはできないのか?」
俺から口火を切ると、やよいは首を横に振りながら答えた。
「扉はあるけど、鍵がかかってるみたいで開かなかったよ」
「オレも体当たりしたり蹴ったりしたが全然開かなかったぜ。あ! 扉の前で踊れば開いたかもしれねぇな! よし、レッツトライ!」
「天野岩戸じゃないんだから開くわけないでしょ。まったく、ウォレスはどうしてそんな変な知識に詳しいの? アタシも扉を叩いたり叫んだりしたけど、全然反応なし」
本気で扉の前で踊ろうとするウォレスを呆れながら止め、やよいは肩を竦める。
その扉を見ると、頑丈そうな鉄製の扉だった。あれを壊すのはどうやっても無理そうだし大声を上げても反応はなし、か。
「誰かスマホ持ってないか?」
そう聞くと全員が同時に首を横に振る。まぁ、ライブ中だったから持ってるはずがないか。俺もそうだし。
「……手詰まりだな」
脱出する方法も、連絡する手段もない。八方塞がりだ。
この部屋、埃っぽいから早く出たいんだよな。喉に悪いし、と考えていると顔を俯かせたやよいが「あのさ……」とポツリと呟いた。
「アタシたち、どうなっちゃうのかな?」
不安げに呟くやよいの目には、涙が浮かんでいた。
Realizeのまとめ役で、いつも強気でガンガン物を言うやよいだけど……実際はまだ高校生の女の子だ。いきなりこんな状況になって一番不安なのは、やよいのはず。
俺は今にも泣きそうになっているやよいに近づき、やよいの頭に手を乗せた。
「大丈夫だって! やよいのことは俺が守るからさ! そんな心配することないって!」
少しでも不安な気持ちがなくなるように、やよいの綺麗な黒髪を優しく撫でる。すると、俺に続くように真紅郎とウォレスがやよいの肩にポンッと手を置いた。
「タケルだけじゃないよ。ボクも、そしてウォレスもやよいのことを守るよ。まぁ、ボクじゃ頼りないかもしれないけどね」
「そうだぜ、やよい! オレたちRealizeが揃ってれば何が来ようともノープロブレムだ! ハッハッハ!」
俺たち三人に元気づけられたやよいはコクリと小さく頷き、腕で目元を拭うとプイッとそっぽを向いた。
「いっつもアタシに迷惑かけてるくせに、こういう時ばっかり年上ぶるのズルいって。ウォレスは空気読めないし、ウザいし」
「おぅ……これまた手厳しいぜ」
「真紅郎はアタシよりも女の子っぽいし」
「えっと、それって迷惑に入るの?」
「タケルは無鉄砲でお人好しで暑苦しくてバカでアホのくせに」
「俺だけ辛辣すぎないか!?」
しかもバカって……アホって……一人ショックを受けていると、やよいはクスッと小さく笑みをこぼした。
「三人とも__ありがと」
真っ直ぐにお礼を言われると少し照れるな。
照れ隠しに頬を掻いていると、いきなり扉の方からガチャリと鍵が開くが聞こえてきた。
突然のことに驚きながらも、やよいを守るように前に出る。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
ゴクリと唾を飲み込む。
重い鉄製の扉がゆっくりと開かれると、隙間から外の光が漏れ出した。
「ふむ。無事に召還できたようだな。ようこそ__
開かれた扉の前には、頭に王冠を乗せた煌びやかな衣装に身を包んだ壮年の男性と、綺麗なドレス姿の女の子が立っていた。
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