解放

「あいつの声……!」

「驚いた?」

 私は痙攣するように首をかくかくと縦に振った。


『何。あっちになんか思い残した事でもあるのかい』

『まあ、ね。実は喧嘩したまま仲直り出来てない子がいてさ』

『付き合ってたのか?』

『……まあ』

『ひゅーひゅー!』

『うわわっ、ちょっと静かに!』

『アハハ! それで? どうして喧嘩しちゃったんだ?』

『分かんない。俺はいつも通り接してたはずなのにいつからだか変な勘違いをし始めてさ……』


「噓つき」

 私は小さな声で言う。


『それで俺が外国行くって言おうと思ったら浮気みたいな勘違いされて……そのまんま』


 胸がくしゃんと音を立てた。


『そりゃ、その子も悪いかもしれないけどお前も悪いだろ』

『やっぱり……?』


「え……?」

 やっぱり?


『ああ。勘違いした方も悪い、勘違いさせたお前も悪い。唯の喧嘩じゃないか。ずるずる引きずることは無い。……折を見て仲直りすれば良い』

『……』

『一生に一度の出会いを無駄にするのは一番の愚策だ。死ぬ前に一度は面と向かって話した方が良い』

『そうだな。……でもゆりがどう思っているか』

『心配なら焦らなくても良い。そういう問題は案外時間が治してくれたりするもんだぜ』

 目の前の外国人がニッと笑う。

『ありがとう、ジャック』

『そうだ、これ持ってけよ』

 不意にジャックは何か思い出したように懐から黄緑の宝石を取り出した。

 この映写機に置かれているものと同じ宝石だ。

『これは?』

『シトリン』

『シトリン?』

『あんたの母国では黄水晶とか言われてるんだぜ。知らなかったのか?』

『いや……でも、何故これを?』

 晶太にそう問われたジャックは立ち上がりながら言った。


『それ、石言葉「友情・初恋・甘い思い出」って言うんだよ』


『……!』

『彼女との出会いを大事にな』

 去りながらそう言い、手をあげた彼の背中がぼやけた。直後手に握られた小さなシトリンが映った。それもぼやけていたけれど。

 映像はそこで終わった。


「中々素敵な事を言う人だったね」

 私は頷いた。

「どう? 心は決まった?」

 私は彼を見上げた。また頬を熱い涙が流れていった。


「私――。」


(つづく)

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