運命<さだめ>に抗え人の子よ

黒之主:ヒトは皆、何かと闘っている。我もそうだ……この力を得た後も、闘いから身を引くことはかなわない………

いや、語弊があるな。死して明け渡せば永遠に身を引くことになる。


日向:明け渡すつもりは……無いのでしょうね、その言い方では。


黒之主:我は先代と契りを交わした。生半可な覚悟の者にこの力を託すまい、と。


この力は……ヒトを狂わせ、徒に争いを産む力。そう易々と手放すわけにはいかないのだ。


日向:先代さんは…一体どんな方だったのですか?


黒之主:………男勝りな娘だったな。だが、無駄な争いを嫌い…最期まで我を気遣う奴だった。


日向:娘さん……?つまり女性だったのですか。ちょっと意外ですね…


黒之主:確か…傭兵を生業としていたそうだがな。腕は確かだったと記憶している。


日向:そうですか……別に偏見を持つつもりは無いのですが、勝手に男性かと思ってました。


黒之主:ふん。我は気に留める必要も無いと思うがな。


日向:"候補者"の共通点を知りたかったもので。どうして私とヌルが…選ばれたのか、ね。


黒之主:………それを知って、何とする?(我とて興味がないと言えば嘘になろう。だが今更知ってどうする訳でもない…"我の企み"を成し得る手助けにはならぬからな。)


日向:正直なところ、この力を引き継ぐ条件はあまりに酷なもの。もし仮に私が継ぐにせよ、ヌルに継がせるにせよ……貴方の死に立ち会わなければならない。


なのに、エルは"候補者"足り得ない…少なくともヌルと違い、躊躇いは無いはずなのですが。


黒之主:ヒトを殺める行為に躊躇いが無い……か。だからだろう。先程我が言った言葉を思い返してみよ。この力は……"ヒトを狂わせ、徒に争いを産む力"、だぞ。


日向:………そうですね。確かにそう伺いましたが…


黒之主:そんな輩が力を継いで…正気を保てると思うか?


日向:人には理性があります。殺める行為に躊躇いが無くとも、道を踏み外す事はそうないと思うのですが…


黒之主:ふっ………ははは!笑わせてくれるな…。あまりに強大な力、そして終わりなき孤独は……いとも容易くヒトを蝕む。"理性"なんてものは…脆く崩れ去るもの。奴が力を継ごうが…己の利益の為に悪用するだけだろうな。


日向:………!利益の…為に……ですって?エルはそんな………


黒之主:………冗談だ。少なくとも先代はそんな輩に絡まれることが多々あったのだ。そう思いたくなるのも致し方あるまい。

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