第38話 Sing to the Light


 その後にゲームで先に実装されている新曲をフルで初披露し、アンコールで二曲を歌った。瑠璃もすっかり調子を取り戻していた。ひとまず安心だ。


 ライブは大盛況に終わった。

 心地よい疲労が全身を支配している。明日は間違いなく筋肉痛だろう。


「最後に、みんなから一言ずつ。まずは友ちゃんから!」

 観客の拍手が静まったタイミングで、息を切らしながら私は叫んだ。


「はい。熊谷美亜役、城咲友です。今日はありがとうございました! すごく楽しかったです。また会いに来てください! あ、あと、ゲームの方もよろしくお願いします! 明日から始まるイベントは私たちMASKが主役で、エモエモなストーリーも用意されてますので、ぜひ楽しんでください!」


 友がクルシンのことについて話すと、客席からは楽しそうな反応が返ってくる。声優がゲームに言及してくれるのは、ファンとしては嬉しいのだろう。


「あ、そうだ! この前追加されたラナンキュラスの『HEAVENLY GARDEN』って、めちゃくちゃ難しくないですか? まだフルコンボどころかクリアもできてないんですけどー! って、ゲームの話ばっかになっちゃいましたけど、そんな感じで、これからもMASKをよろしくお願いします!」


 友は多忙な毎日の隙間を縫って、クルシンにのめり込んでいる。私たちの中でも一番上手い。楽しさをファンと共有できて、彼女も幸せそうだ。


 次に、瑠璃が一歩前に出る。

「はい。南白菖蒲役の唐澤瑠璃です。私も、とても楽しかったです。途中でちょっと失敗しちゃったところもあったんですけど、仲間が助けてくれて、皆さんからの応援もあって、また歌うことができました。本当にありがとうございます。それで、えーっとですね……重大発表があります」


 会場がざわつく。私も何も聞いていなくて、驚いて目を見開いた。

 さっきの涙と何か関係があるのだろうか。私はただ、上手くいかなかったための悔し涙だと思っていたのだけれど……。


 脱退。活動休止。……どうしても悪い想像ばかりしてしまう。

 客席にも不安の色が広がっていて、ざわめきがところどころで起きている。


 けれど瑠璃はそんな会場の反応などお構いなしに、不敵な笑みを浮かべて、声を張り上げた。

「私、唐澤瑠璃は、MASKを愛していまーす!」


 大胆な告白が響き渡って——。

 会場のボルテージが一気に上がる。


 相変わらず彼女は、観客をつかむのが上手い。はぁ、無駄にドキドキしてしまった……。先に言っておいてほしかったなぁ。


「そんなわけで、MASKはこれからもっともっとすごいグループになっていきます! 三年後くらいには世界を征服してると思いますので、よろしくお願いします! 今日はありがとうございました!」

 今日の失敗などなかったかのように、彼女は弾けるような笑顔を見せた。


 きっと、意外と生真面目な彼女はこのあと、私たちに頭を下げる。そうして、今まで通り一心不乱に練習を重ねて、私たちを引っ張っていくのだろう。


 次は小豆の番だった。意外にも大勢の前で話すことが苦手な彼女は、今回もガチガチになっているようだ。隣の私にまで緊張が伝染するような気がしてくる。


「えっと、まずは言わせてください。夢が叶いました!」

 固い声ながらも、小豆は堂々と宣言した。


「自分の夢は、シンガーになることでした。もっと具体的に言えば、たくさんの人を歌で感動させることでした。今日は私の歌声を、皆さんの心に響かせることができたと思います。なので今日、その夢は叶いました」


 おめでとう! 響いたよ! と客席から声援が飛ぶ。指笛を吹いているファンもいた。


「でも、夢が叶ったからといって、それで終わりというわけではありません。もっと大きなステージで、もっとたくさんの人に、もっともっと最高の歌を届けたい。これが今日、新しくできた夢です!」

 小豆は真剣な表情で、ファンに宣言するかのように言った。


「こうして喋るのとかはまだまだ苦手ですが、これから少しずつ頑張っていこうと思います。もちろん歌もダンスも、今日以上のパフォーマンスができるよう、全力でやっていきます! だから、みんなもついてきてください!」


 小豆らしい、真っ直ぐな言葉だった。きっと、ファンたちにも届いたことだろう。

 さて、次は私の番だ。

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