源流12

イド:ほうか。わしとは"違う"理由やの。わしゃ……洗脳がてら、反逆を防ぐために消されたんや。洗脳そのものは失敗しとるがの。


日向:洗脳…とは?


イド:正気を失わせ、ただの道具にする…卑劣な手段よの。


(エルはイドを殴り飛ばす)


エル:嘘をつけ!貴様が洗脳されていない…だと!?知っているぞ、貴様が兄さんを……"処刑"したと!

……いや、そうか。"洗脳"等なくとも同調したか……だから近衛にそのまま…


イド:ヘルム・アークか…確かに俺が処刑した。


日向:しょ…処刑?それに…エル。お兄様がいらっしゃったとは…


エル:ヘルム兄さんも、養成所に拐われていました。俺等も……実は一瞬だけ居たんです。逃げ出しましたけど。


イド:兄やんはの、脱走幇助の罪で処刑が決まった。


日向:幇助………つまり"手助け"ですか。処刑に価するような事では…


イド:処刑とは名ばかりでな、真の目的は……拷問して逃がした輩の手口や居場所を吐かせる為よ。

ほれに……いかな手助けが有ったとて、養成所から逃げ出して取っ捕まらなんだのは…この二人だけやど。


……さぞや連中は焦ったやろう。極秘の組織から脱走者が出た、おまけに居場所も知れず追っ手すら撒かれた…大失態やからの。何としても事実を吐かせるため、実の兄貴やったヘルムが選ばれた…

……ただ、わしかて事実かは知らん。冤罪なんかかはたまたホンマに上手く立ち回ったんか…?


……当時成績1位やったわしが、処刑人に振られるんが筋やった。ほなけん……前日の夜。直々に呼び出しを喰らったんや、ヘルムにの。


エル:兄さんが……?


イド:わしが洗脳されとらん事は知っとったからの。"どうかお願いだ、一思いに殺って欲しい…

……弟達が無事に済むのなら、この命は要らない。情けを掛けてくれるなら…吐いてしまう前に、自分を……"


エル:兄さん………!そんな…事って……


ヌル:エル……本当、なの?おじさんのお話……


エル:ヌル。少なくとも……俺たちに兄さんが居たこと、養成所に一瞬とはいえ所属していたことは事実、なんだ………。逃げ出せたのも、兄さんのお陰だった…

兄さんが逝ったと聞かされた時だ、ヌルの記憶が無くなってしまったのは…


ヌル:う………うそ…!でもヘルム兄ちゃん………?きいたことある…頭が痛い…………!


(ヌルは頭を抱えると座り込んでしまった…)


日向……ヌル、これ以上は貴方の心が耐えられないですよ!無理やり思い出してはいけません……!


(たしか記憶を失うのは、心が壊れる前。心が壊れてからでは…保護すべき人格が存在しない…)


エル:すまない…ヌル……俺だって、兄さんを置き去りになんかしたくなかった……!でも…兄さんは……俺たちの為に残るって……ちくしょう…


イド:一休みじゃの。気ぃ落ち着いて、それでも尚話を聞きたいなら…また来ればええ……。


(エルはヌルを連れて牢を後にした)


日向:一つ、宜しいでしょうか。何故髪の色が……?


イド:ああ、この髪か?養成所の鍛練は熾烈を極めた…正気で居るには剰りに耐え難いもんじゃった。気ぃついたら………色が抜けてしまっとった。寝とる間…ずっと過去の来歴を夢に見た。

……ただ夢に見ただけで、こないなるほど酷かったんや。……脱走を企てる気も分かる。

会得が遅いだけでも怠け者として処罰されよったけな…


日向:そう、ですか……。そういえば、ヌルやエルの事は……いつ気付いたのです?


イド:おまん等が牢に降りてきた時や。一目で分かる…や、さすがにヌルのこたわからなんだが。

……ほなけん、過去の来歴を夢に見たんやろうな。じゃが正直、話すべきかは悩んだ。徒に兄やん等の傷を抉るだけちゃうんかと……な。

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