源流10
日向:ふむ、買いかぶり過ぎましたかね。ならついでに聞かせてくれませんか?"離反者らしく、逃げるとするか"……と、仰いましたが…直接、仕留めると断言しても良かったのでは?
イド:……たわけが。実力も知れん手練れ相手に断言なぞせんがな、敗けたら恥やろうて。ほれにわしゃ…諜報と近衛の確執にゃ興味あらへんけ、おまんを仕留めるんは二の次やった。撒いたらほれで上等やってん。
エル:何故だ。暗殺部隊の序列一位に君臨しながら、確執に興味がないだと?もう少しマトモな言い訳をしたらどうだ。
イド:……ふん…"確執"の理由すら知らん童は黙っとれ。
日向:逆に貴方はその理由をご存知なのですか?(実は正確な理由は未だに判明していませんから…)
イド:わがで調べぃや。諜報の権限がありゃ易いやろ。とんかく…"組織に居る"けんって"組織の考えに心酔"しとるたぁ限らんっちゅーこっちゃ。
………一つ忠告しちゃる。わしをこんまま捕らえとくつもりやったら…"何ぞ起きてももがるな"や。
ヌル:あのね、もがるってなに?
イド:……文句言うな、って所や。やんがて嫌でも分かるじゃろ…"どないなるか"は。
エル:ふん、日向様も言っただろうがあまり諜報を舐めるな。貴様ごときに心配されるほど落ちぶれていない!
イド:別におまん等を徒にやしべちょう訳ちゃうがな。その反応やったらぞうもむ必要はあらへんじゃろうが。
ヌル:あのね、おじさん…気付いてる?さっきから辛そうなの。
イド:わしか?別にうるさーないんじゃけどの……
日向:ふむ、今宵は此処までにしますか。夜も更けましたし、これ以上は身体に障ります。
エル:日向様が、そう仰るなら……行こうか、ヌル。
ヌルあのね、おじさんまたね!
(挨拶がわりに左手をあげた)
イド:おまんは、いなんのか。まだ手負いじゃろうが。
日向:どうしても、聞きたくて。先ほどの殺意の有無について……言葉を濁されたので、きちんと断言してもらいたかったんです。
イド:わしゃおまんに私怨も確執もあらへん。あたぼうじゃが殺意は無い…"今は"の。へごもんか否か…分からんけ。
もしおまんがへごじゃったら…刺し違おても斬る。それだけよの。
日向:(そのまま言葉を次ごうと思ったら、彼は突然…意識不明に陥りました。当然ですよね、私以上に深い傷を負いながら…長時間の尋問を受けていた…起きているのがやっとだったはず。
意識不明に陥ってから、いくつか気になる事が増えました。一つ目は髪の色…深紅から白銀に変化しました。そして二つ目、エルの態度です。まるであれは……深い憎しみや怒り…?
氷のように鋭く冷めた表情…彼の服を乱雑に脱がせ、太腿に刻まれた焼き印を見て何かを確信したようです。あれほど感情を隠そうともしないエルを、私は初めて見ました。
正直、私はエルに事情を伺う事は出来ませんでした。太腿の焼き印を調べてみたところ…近衛のシンボルであることは分かりましたが……彼が近衛序列一位ならおかしくないのでは?
とりあえず、エルは担当を外しました。彼は私一人で診ています……もしかしたら、このまま目覚めないかも知れないという恐怖に駈られながら…。もっとも、私がついていながらみすみす死なせるつもりはありませんけども…
それでも、早くも一月が経とうとしています。容態は一応安定しましたけど…)
ヌル:あのね、おじさん起きないね?ねぼすけ?
日向:正直、原因不明なのです。ただ眠っているのかそれとも、まだ身体の不調からきているのか……?
……そういえば、彼が倒れる前ですけど…ヌルが言っていた、辛そう……とは?
ヌル:えっとね…?エルとせんせーが来たときね、おじさんの顔が………一瞬強ばって………それからずっと…悩んでた…
日向:な………悩んでいた?(私が気づけなかったとは…別段表情に変化は無かったような。)
ヌル:うん。僕と喋ってたとき、もっと優しい顔してたもん。
日向:ちなみに何を話してたんですか?差し支えなければ教えてくれませんか?
ヌル:……うん。えっとね…おじさんが起きたときはここがどこかって聞かれたのと……なぜ戻ってきたのか、あと僕がおじさんに対して"わるもの"なのか聞いてみたの。
日向:ふむ、"わるもの"の件は興味深い。彼は何と?
ヌル:"おまんはどう思うぞ?や、どう見えるか…やの"
僕はね、わかんないって答えたの。おじさんの事知らないしそもそも怖くなかったもん。そしたらおじさんはね……
"何をもって"わるもの"と思うかじゃ"
………だって。どういう意味なのかな?
日向:"何をもってわるものと思うか"……つまり断言はしなかった、と。
ヌル:せんせーはおじさんの事、どう思ってるの?エルと一緒で"わるもの"扱い?
日向:私は………彼が"わるもの"だとは思っていません。
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