源流9

イド:まっこと、蚤の金玉四つ割りにするような事言うの……(忘れとった。わしにとっては一月も前じゃけ当たり前やったが…知られとらんのじゃった…)


ヌル:あのね、おじさん…例えが痛い。


(何故か股間を抑えてもぞもぞしている)


日向:ヌル?喩えを真に受けないでください。彼は細かいと言いたいだけですよ。


エル:ちなみに、その台詞はいつ聞いたんですか?


日向:私が腹部を撃たれた時ですね。さっき話してた根拠の一つでもありますけど。


エル:あ、話の途中だったの忘れてた………。どこまで話してたっけな………


(そっぽ向くと一人で考え込んでいる)


日向:なら私から質問を。イド、何故あの時……事情を話すことを拒んだのですか?素直に話してくれたら……


イド:おまんが"どっち"やわからなんだけの。組織ぐるみのへごもんか…あいたぁだけかがへごもんなんか……?


仮におまんがへごじゃったら…口封じに村の者をがいにしたやもしれん。それだけは避けなあかなんだ。


…結局、村に担がれたんは想定外じゃった。接触を許さんために伏せとったんじゃが。


日向:そうですか。私の事を警戒されてただけでしたか……仕方ないですね。


エル:あ、思い出しました。殺意がなかった根拠を聞こうと思ってたんでした。


日向ああ、そうでしたね。彼は二振りの刀剣を所持していますが………彼が手にしたのは剣でした。研がれた刀ではなく……


エル:それは、どういう意味で…?剣であろうと研がれていて当然ですよね。


日向:イド。良ければ見せてくださいな。


イド:……ん。


(酣を腰から外すとぶっきらぼうにエルに押し付けた。受け取ったエルは静かに引き抜いた)


エル:こ、これって…"刃が、研がれていない"?


日向:恐らくその剣は…武器ではなく、舞や宴会に使用される飾りでしょうね。もっとも斬れずとも、鈍器としては使えるでしょうが。


イド:よぅ知っちょるの。確かにこりゃ……"人を斬る"為の獲物やない。そこらの棒きれ振りくるんと何や変わらん。


エル:じゃ、じゃあこれで日向様を気絶させて刀で斬れば……


日向:エルならどうします?そんな面倒な手順を踏みますか?


エル:俺はそんな事しませんよ。いっそそのまま撲殺しますかね……


イド:けったいな兄やんじゃの。こいたぁ程の手練れが大人しゅう張回される訳無かろうて。梃子に合わんじゃろ。

ほれに………酣の軽さは撲殺にゃむかん。突きの方がまだ痛いんちゃうか。


……兄やん、貸してみ。


(酣を鞘に収めると右手の親指で勢いよく鍔を弾く。抜けて飛んだ酣を空中で掴んだ)


………普通の獲物やとこうはいかん。重たぁて飛べへんけ。


エル:なっ…剣が………飛んだ…!?それも…指一本で……


日向:剣舞用のこの剣だからこそ、なし得るものです。極限まで軽くされている。


イド:あん時のわしに殺意が有ったか否か………そう問うたな?この長の決め手は間違うちょる。いきなり手の内見きられたらめんどいき、"でこい"じゃがな。


エル:"でこい"………つまり、様子を窺う為の策だった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る