イドと日向(残酷な定め)

日向:仕方がない事だと……何度己に言い聞かせたのでしょう。例え本人に恃まれたからといっても…


(足元に横たわるイドを悲しそうに見つめる)


どうして…私に託したのですか?

これが運命<さだめ>だと言うのなら私は……


<数時間前>


日向:………くっ……つ、強い…。目を覚まして………ください、イド!


イド(?):……怖じ気づいたか?俺は全ての悪を斬る為に全てを棄てた……。


……記憶も、友も。

永劫とも思える長き月日を戦い、俺は悟った。人が居る限り悪が無くならないと。


ならば全てを無に還し…罪を背負って消えようと。


……それに比べ貴様はなんだ。この俺を止めると豪語しながら、何を躊躇い手を抜いている?


そんな生半可な覚悟では……何も護れぬ。己の甘さで全てを失うだけだ。


日向:………確かに私は……貴方を倒さずに済ませようとしています。


貴方が大切な人であるからこそ……


イド(?):………日向。貴様は本質を分かっていないな。だから全てを失うと何故分からぬ?何処までも甘ったれた男だ……


日向:どういう………意味です?徒に命を奪うことが何を救えると言うのですか…!それこそ全て終いじゃないですか!!


イド(?):ふっ。ならば貴様はそこで見ていろ……いずれ解る、"人が死ぬ"とは……どういう意味なのかを。


<精神世界にて>


人斬りイド:………止めんか!わしゃ…凶斬りちゃうんや…そげな事思っとらん!


凶斬りイド:いい加減うんざりしていたんだろう?俺は貴様の闇。手に取るように分かる……人に絶望したのも全ては人の子に嵌められたから。違うか?


人斬りイド:………はっ。わしゃ人に絶望しようがおまんと違うて逃れようとは思わん。やけ、わしゃ日向に……


凶斬りイド:ははは……!その男は貴様の期待すら応えられぬ雑魚のようだが?何故にあの腑抜けに恃んだのか知らないが…期待はずれだな。


さあ、話は終わりだ…永久に眠れ、偽善にまみれた人斬りよ。いずれ日向もそちらに送ってやろう…。


人斬りイド:(日向……恃む、これ以上わしが堕ちる前に…助けてくれ……。もうわしにゃ…止められんねや………)


<現実世界>


凶斬りイド:人の子よ…逃げ惑い、無様な死に様を俺の前に晒せ………。原罪をその血で浄化してやらぁ!


(見境なく兵士を斬り捨てていく。その表情はどこか愉しげで…"彼"の面影は見受けられない)


日向:(イド……無益な殺生はしないと、あれほど険しい表情で言っていたのに…。今の彼は………殺しを"楽しんで"いる…………?本当にもう、私の存じ上げているイドでは…………っ)


(気が付くと日向は涙を流していた)


(…………そういう、事ですか。ならばこれ以上彼が誇りを失う前に…私が!)


(涙を拭うと日向はイドに斬りかかる。もうその動きに迷いはない……自分の恩師を救うべく、刀を振るった)


凶斬りイド:………ちぃっ!急に強くなりやがった。だが…それでこそ"斬り甲斐"がある。


その思い………踏みにじってやろう!偽善者が俺に敵うと思うなよ。


日向:………はぁ……はぁ…っ。かつてこれ程までに辛い戦いが……あったでしょうか。


(ほぼ相討ちに近い状況だったが、日向の一撃がイドの命を奪った)


<現在>


日向:"人の死"……それは一概に、"生の断絶"だけにあらず。"人格の腐敗"もまた然り……。貴方が申し上げたかったのは、この事ですよね?


(私は……貴方の肉体が死亡する事を、何より恐れていた。死者は蘇らない……それは、医師である私が一番良く分かっています。


でも……今回感じたこの感じは………


例え生きていても、人格が変わってしまい別人になってしまった。その事実を認識した瞬間、過去の貴方との思い出すら…


少しずつ…壊れていく。そんな感覚に襲われました。)


……どうして、私なのですか。結局貴方という人は…言葉を濁すだけで、理由を教えてはくれませんでしたね?もう…二度と聞けなくなっちゃったじゃないですか……。


……また、会えますようにと願うのは………

私のわがまま、ですか?


<午前2時>


(日向は寝床で目を覚ました)


日向:………?私……どうして眠って…?


(寝床から出ると人斬りイドが壁にもたれ掛かってうたた寝している。)


……イド!起きてください!


イド:………んじゃ、騒々しい……。


(大あくびをしながら日向を見つめる)


日向おまん、何で泣いとんじゃ?目ぇ腫れとるど。


日向:(………どういう、事でしょう?私がよく知っている……彼ですよね、信じても………)


(日向は無言でしがみついて、イドの胸元で泣きじゃくってしまう)


イド:………妙なやっちゃ。さながら童じゃの……


(イドは呆れながらそっと日向の頭を撫でる)


酣:(………日向様…ある意味最悪な夢を見てしまいましたね。あまりに酷な…………。

昨日、主様があんなお願いをするからですよ?相当悩んでたんですから…)


"のぅ、日向よ……おまんはわしが介錯を恃んだら……斬ってくれるか?


………はい?突然何を…


もし何ぞ狂う事があったら……わしゃおまんに介錯を恃もうと…思っただけじゃ。


願わくば…そうならぬように尽力致します。それでも最終、方法がないのであれば……恃まれた者として、責任をもって手を下します。"


酣:(………どうか………この夢が、正夢になりませぬよう、祈るばかりです…。日向様と、主様を哀しませないように…………)

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