過去の思い出と決意

わしは自死はせん。業を背負って生きちょる…わしが手に掛けた遺族はな………わしを恨む感情を拠り所にしとんや。だからな、わしは自ら逝ってはいかんのじゃ。


昔自死しようとして、言われたんじゃ。"おまんが逝っても、誰や喜ばん、むしろ…逃げおって、そう言われるだけや。辛くとも苦しくともおまんは生きろ。恨まれ狙われる覚悟を持て…それが人斬りじゃけん。"


職務としての人斬りは別に辛うない。わしが斬るんは法で裁けん悪どい奴ばっかじゃけ。

自死を思うたんはな…初めて狂た時じゃった。幼児のおる兄やんを……この手で殺ってしもうた……

たまたま獲物の近うおっただけで…何や悪うない兄やんを……


わしは泣いた。申し訳なさでいっぱいじゃった…今でも忘れへん。

絶望と憎しみに染まった幼児の目を……

実はあの後、幼児がどうなったんや知らんのじゃ。報告ついでに幼児の事は上のもんに任せたけぇ。


せやけど薄っすら気付いとる。あの時の幼児は生きとる。わしを殺るために。


家族を失うてたった一人遺された幼児じゃ。もはやわしを憎む以外……何も拠り所も無いじゃろう。

もし討つべきわしが既に逝ったと知れば……永久にわだかまりを抱えたまんまじゃろうな。

わしが逝くのは、狂た時の遺族に討たれる時と決めたんや。


ただな、無抵抗で殺られる訳やない。手合わせして正々堂々殺られるつもりや。何故かわかるか?


無抵抗の人間をなぶったってそれは復讐でも仇討ちでもあらへん。



……それはただの虐めじゃけん。


そんなひきょい事させてはならんのじゃ。ただでさえ…人を殺ると言う大それた事させようとしとんじゃ。


わしのせいと言うたってそれ以上、人の路を踏み外させたらあかんのじゃ。


………どうした、殺らんのか?

手が震えちょるの。そげにおとろしいか、わしを殺るのが。


悪いこた言わん。腹を決めて出直すんじゃ。覚悟無き者に人は殺れん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る