眠い理由
(リエルが紛失したIDカードを届けに来た先生。彼はぐったりしているせいか、身体に触れられても気づいていないようだ)
先生:流石にまだ、完全に信頼されたわけではないのでしょうか?逃げなくなったとはいえ……
(容態を確かめるように頭を撫でる)
個人的にイドの方が時間がかかると思ってたんですけどね…わからないものです。
リエル:………?あれ…寝てた…?
(先生は一足早く外に出てしまったようだ。部屋には誰もいない。)
…だるくて動けない……でも、もう少しだけ……
(突っ伏して動かなくなった。)
イド:………やれやれ。(確かに身体が重い。が…ああ。妙な感覚はないから大丈夫そうだ、寝不足だろうな。)
(イドが見かねて出てきたが、そのまま主導権を手放したようだ)
先生:さて…どうしましょうか。ほったらかしはまずいですよね…
や、干渉しすぎも良くないですしもう少し様子を見ましょうか。(異常表示が消えないのが少し気になりますけど)
リエル:しまっ…た……また寝ちゃってた……(やっぱり…一人で行くには勇気が…
でも…このままはまずい。
まともに起きてられない……なんて……。でも…行き倒れたらその方が楽かな?)
とりあえず移動しよ…
(意を決してリエルは、ふらつく足取りで外に出ていった)
先生:そういえば…イドが一度目覚めていたようですが、何もしなかったんですね。真意を聞きたいものですね…
(なんとか医務室にたどり着いたリエルだが、そのまま卒倒してしまう。半ば無意識だったようだ)
先生:うわっ…り、リエル……?
しっかりしてください!
(声を掛けるが応答はない。端から見るとただ眠っているようにみえた)
夢遊…病…ですか?
(次の日になったが相変わらずリエルは目覚めない)
調べる限り異常は見受けられないんですよねぇ。起きてくれれば話から導くことも可能なのですが…
(リエルは静かに目を覚ますも頭が回らないようだ。)
リエル:つい…た……?
先生:よ…良かった。分かりますか?医務室に着いたとたんに倒れちゃって。
リエル:そう……あのね、僕…ずっと眠いの…お昼も夜も…ずっと…
おかしい…から来たかった…
先生:眠い…ですか…(妙、ですね。昨日からずっと眠っていたのは確認しています。なのに…眠気が取れない?)
ちなみにいつからですか?
リエル:んと…おとといの夕方かな…?
眠くて転んじゃって…
お部屋で寝てたから……
先生:(IDカードを拾ったのはその日の夜でしたっけ。落として気付かなかった理由が分かりましたね。)
ええと…突然、眠く?
何か食べたり飲んだりは……
リエル:…?多分、無いかな…
先生:(それはそうでしょうね。血液検査で薬の反応は無し。完全に抜けるには早すぎます。)
…寝ちゃいましたね。イドなら何か知ってるんでしょうか。
イド:(心当たり、か。無いっちゃ無いんだが。
しかし…短く寝て起きるを繰り返してたときはあったが…今は長いから確認も厳しい、か。)
先生:逆に薬とことん眠ったら、どうなるんでしょう?寝不足とかなら改善される可能性はありますけど…(ただ、身体の異常から来るものなら意識不明に陥る可能性があるので却下ですが。)
イド:(真の寝不足なら俺が掌握したとたんに眠るだろうが…むやみに試すったって…しかし。リエルの身体だからつべこべ言ってられねえか。)
………眠気は感じない?
先生:あの。いきなりどうしたんです?
寝てるときにお出ましとは…珍しい。
イド:ああ…すまん。リエルが耐えられないこの眠気…俺は感じないんだ。身体が睡眠不足って訳でも無さそうでさ。
現に此処に来るまで短い間隔で寝て起きてを繰り返してたからな…
先生:もう少し詳しく教えてくれますか?
あなたが知りうる限り、リエルの言動と体調について。
イド:ちょっと待て…
顕著になったのはリエルの言うとおり、おととい夕方。あん時もいきなりぶっ倒れて…
ああ、そういや昼飯食わなかったっけな…朝も殆ど食えないって。
リエルのことだ…体重管理なんざ興味ねえだろうし…
先生:前日は普通だったんですか?突然食欲不振というのも…
イド:そうだな…食堂の飯だ、気にせず食ってたし。
(夜中も…何も無かったと思うが…)
先生:そうですか…当日、他に何かありますか?手掛かりが全然無いので…
イド:身体はともかく…未だに希死感を引き摺ってる感はあるな…
俺が掌握できない唯一の記憶だ。
いや……正確には、リエルが"自分の意思で忘れまいとしている"だろうか。
先生:そんな…可能なんですか?あなたの掌握を振り切るなど。リエルの権限は弱かったような。
イド:現にチアルが亡くなった瞬間の記憶は今リエルも握ってる。さすがに俺が主導権を握ってる間の記憶は俺しか知らねえけど…リエルが起きてる間の記憶はほぼ自分で認識した。
先生:じゃあ記憶を封じることは出来なくなった…と。まさか……不調の原因は精神的な負担が?
イド:…多分そうだろう。リエルにとっちゃ…重すぎるんだろうよ。俺を生み出してまで目をそらした記憶だ。
先生:じゃあ何故今になって…?わざわざ自分で自分を追い詰めるような…
あの暴走以来…リエルの力が強まった、とでも?
イド:……多分、逆だ。
俺が……俺が、弱ってるんだ。
リエルの権限が強くなったのも間違っちゃいねぇ。現にエーテルはリエルの方が上だった。
だがそれ以上に…俺の力は……
弱くなってる。
(身体が震えている…)
先生:どういう意味ですか?
そんな…弱気になるなんて。あなたらしくもない…
イド:先生は覚えてるか?リエルが暴走した後の台詞。エーテルを使ってしまった自分を…"忌むべきバケモノ"と形容したのを。
先生:ええ。負けた…とも言ってましたね。(泣いていたリエルの顔を、声を…忘れる事なんて出来ません…)
イド:リエルはよ…ずっと責めてたんだよ。時を越えて…場所すら超越したこの場所で、連中の計画が成功しちまったこの状態を。
耐え続けてきたけど…ついに"バケモノの力"を受け入れてしまった。
先生:暴走中自害しようとしていたのは…
無意識ではなかった。リエルの理性だった…と?
イド:そうだな。自ら命を絶ちたがるほど強く拒絶してたな。
で…ここで一つ問題がある。
俺自身の存在だ。
先生:まさか…エーテル使いの…
"バケモノ"が自分の中に潜んでいると知ったら……?
イド:…そういうこった。リエルが万が一俺自身の存在を認識したら…
リエルは今度こそ、先生に介錯を求めるだろう。
俺は……リエルを護るために生まれた。なのに…俺の存在がリエルを追い詰めてしまう…!
先生:ちなみに…あなたが覚醒した時…
リエルはずっとエーテルを拒絶していたんですよね?
全ての記憶を把握していたあなたが
知らないはずが無いのでは…?
イド:残念だが、俺が知ってた記憶の中には無かった。生半可な拒絶の仕方じゃなかったんだよ。記憶を完全に封印できるほどに…
俺だって知ってたら…使わなかったろう。リエルの思いを踏みにじるような真似…するわけねえ。
俺は……この結論にたどり着いてから、ずっと悩んでいる。前のように、無慈悲に迷わず突き進む事が出来なくなった。
力が弱くなってるのは…そのせいだろう。このまま弱り続ければ…
いずれリエルが、俺を認識しちまうだろうな。
先生:あなたの権限の強さは…絶対的な自信、確固たる正義…そういったもので、成り立っていた。
ですが…その自信も、正義も。
否定されてしまった。護るべきリエルに。
イド:俺は……全く、余計なことしか出来ねえのな。
闘えば身体の負担になり。
いとも簡単に血で手を染めて。
俺さぁ…何のために
生まれたんだろうな…
先生:それは…違うんじゃ無いでしょうか。確かに…リエルが今のあなたを見れば"忌むべきバケモノ"扱いしてしまうでしょうが…
前も言いましたけど、あなたは無差別に力を振るってはいませんでした。
あなたなりの正義…"リエルを護る"。シンプルに…それだけのために力を使ってきた。
"バケモノの力"は…使いこなせないからこそ、バケモノ呼ばわりされるんです。
過去の自分を…そんな簡単に卑下しないでください。お陰でリエルは…なんとか無事に生きてきた。
イド:命を削ってたとしてもか?
先生:だとしても。今まで幾度となく命を狙われたり死にかけたとき、あなたのお陰で救われたのは事実です。
…それに。もし今のタイミングであなたが消えても、どのみちリエルの具合は変わりませんよ。あなたの権限が弱まって今回の話になっているんですから。
イド:…リエル……。
お前を助けるために…
お前が忌み嫌う力が必要だなんて…
皮肉なものだ…
やっぱりこの世はクソだな。
上等じゃねえか。この俺に力を与えたこと…後悔させてやる。
演じきってやろうじゃねえか。
…二度とリエルがエーテルを使わなくて良いように。
全ての汚れも…罪も…力も…全部俺だけのものだ。
完璧に、護りきってやらぁ。
それが奴等への復讐だ。
(弱っていた記憶の掌握権が完全に復活したようだ)
先生:(やはり…イドは復讐者でありながら、リエルを傷付けまいと…悪に振り切った。優しさ、ですかね?)
イド:勘違いしないでもらえるか。
俺は……リエルに生み出された第2人格だ。本来の目的を果たすだけだ。
先生:…え。ま…まさか。精神感応ですか?
そうですか…道理で。(いつから読まれてたんでしょうか?)
目的を果たすだけなら、そもそも悩む必要はありませんよ。結果さえ善ければ過程は問いません。
過程で悩むのは…義務以上の何かだと思います。
イド:(し、しまった…ついムキになって反論しちまった。)
精神…感応……?よく分からねえが
リエルが刺される前、夜中の話からだな。実験の副産物かと思ってたが、違うのか?
先生:や、あながち間違ってませんよ。おいそれと使いこなせるものではないですし。
一応私も使えます。最近イドの本音が読めてたので不思議には思ってたんですけどね。
イド:は?どういう意味だよ。力があれば誰の本音でも筒抜けじゃねえのか?
先生:厳密に言えば違いますね。自分が相手に信頼されていなければ相手の本音は読めません。裏を返せば相手を信頼しているなら本音を読まれる可能性があります。
あくまで精神感応の素質があれば、の話ですが。
リエルは読めなかったので素質がないか、拒絶しているか…ですね。
イド:な………なんだと…?
(イドはショックで混乱し主導権を手放してしまった。リエルは気持ち良さそうに眠っているが……)
先生:あ。言い忘れてたんですけど…
リエルに戻っても精神感応使えますからねー?
ま、とりあえず寝かせてあげましょうか。違う意味で疲れたでしょうし。
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