記憶の海

イド:(深い……光すら届かない程…暗く、息苦しい………記憶の、海。


俺でも…長く潜っては居られない。リエルが辛いと思う記憶は……濁って前も見えないほど…)


(ゆっくりと沈みながら、イドは苦しげに泡を吐き出した…沈む深度の記憶が重ければ重いほど潜る時の身体の、精神の負担も大きい。たとえ自分の記憶で無かったとて……圧倒されてしまう。


この記憶を持つ主人格は…自らの記憶でありながら、潜る事も出来ない。


かつて主人格はこの記憶の海で溺れ…意識不明に陥ってしまった。イドと名乗る人格が産まれたのも同じ時期だった。主人格を護るため、記憶の海の管理を引き受けた。


今では主人格に、昔の記憶はない。それを不思議に思うこともない…)


(………あった。ほぼ水底だな…"名前"……

…"ウェパール"……"悪魔"………)


ごほっ……!しまった…っ…く、苦し………い………!


(最低限の情報だけ確認するとイドは海から帰ってきた。そのとたんに酷い頭痛や目眩、冷や汗が襲う。時間にすると数刻程度なのだが、ある意味命懸けなのだ。)


………っ。名前………

俺の、名前は……………


ウェパール。俺の名はイド・ウェパール…だ。名前なんか…初めて訊かれた。



記憶の海の中……


今日も"管理者"は

主人格のかわりに、潜り続ける…


深い闇に立ち向かい、

光に導くために…

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