状況把握

<一時間後>


先生:……どうですか、そろそろ再開しますか?


イド:ん。準備は整った…何でも聞いてくれ。


先生:では…あなたが生まれた経緯を聞かせてください。


イド:俺が生まれたのは…ずっと暴行や虐待を受けていたサイを守るためだ。全ての苦痛を引き受け…そして、サイに害成す存在を物理的に排除してきた。


先生:ふむ。お世辞にもいい環境では無かったようで。


イド:サイの生まれはキスレブ帝都・D区画…通称、犯罪者収容区。父と兄が犯罪者で家がD区画にあったんだが、そのせいでサイはずっと迫害を受け続けた。犯罪者"バケモノ"の子…ってな。


先生:…なるほど。D区画、ですか…よく首輪をつけられませんでしたね。


イド:先生も知ってるのか。んなもん、つけられる前に殺ったさ。大量殺人犯になったのも…首輪をつけようとする奴らを逃げながら片してたからだ。


先生:え……あれ?ちょっと待ってくださいよ。それ以前に、何故首輪をつけられる事になったんですか?あれは確か犯罪者だけでは……。


イド:…っと、そうだ。俺が主導権を握ることになったきっかけの出来事が…

"サイの目の前で母親を殺られた"事だ。正確には殺られかけたのはサイの方だったが…母親が命懸けで庇ったんだ。


先生:母親の死亡…その報復ですか?


イド:半分当たってるが…もう半分はちょっと違う。チアルを殺っただけで飽き足らず…連中はまだサイを殺ろうとしてた。だから…身を守るために殺った。


先生:それが…正当防衛…ですか。


イド:そうだ。幸い戦う力は強かったから今どうにかなったわけだが。


先生:ちなみにその力"エーテル"はサイさんでは使えなかったんですか?


イド:……使えなかった…んじゃねーか?(これ、エーテルって言うのか。)憎しみの力がこのエーテルになったのかもしれん。記憶の中のサイは………ずっと防戦一方で抵抗できなかったようだ。


先生:過去は……これくらい、でしょうか。そういえば…今、サイさんを起こすことは可能ですか?


イド:起きるかどうか分からんがやってみる。………ちょっと…待っててくれ。

(イドは寝床に横になると深呼吸し目を閉じた。髪の色が…赤から緑色に変化していく…)


先生:……!(髪の…色が…。主導権がどちらにあるか、分かりやすいと言いますか。)


サイ:…………。


(身体を起こしたサイは辺りを見渡すが、何をするでもなくぼーっとしている)


ここは、どこ?あなたは……だあれ?


先生:(記憶が……イドが主導権を握っている間の事は理解できないようですね。)


初めまして。私の名前は………ヒュウガ・リクドウです。ここは…アヴェの首都です。


サイ:えと……ヒュウガ…さん?


(聞き慣れない単語が難しいのか、先生の名前を復唱するのが精一杯だったようだ)


先生:…(アヴェと聞いて、何の反応も示さない……?パニックを起こさないのはありがたいのですが…それに、イド君より精神年齢がやや幼い気がします)

ええと……色々説明を省けば、今日からここで過ごします。大丈夫ですか?


サイ:えと…"そーとーふ"…じゃないなら…何処でもいいや。


(サイはアヴェという場所も、それが何を意味するのかも理解出来なかったようだ)


先生:ここにいれば総統府の人には手出しはさせませんよ。どうか安心してください。


サイ:…………!ほんと、なの?


先生:ええ、何かあっても…私が貴方を守ります。だから……


サイ:あのね、分かった!


(生まれて初めて、面と向かって誰かに守ってくれると言われたサイ。ほんの少しだけ表情が明るくなった。


元々主導権を握ってから眠そうだったが、その言葉で安心したせいかそのまま寝てしまったらしい。寝床から落っこちてしまう。慌てて先生が抱き起こした)


先生:しっかり……して…!(眠って…いる?)

そういえば…逃げ出してから今まで寝る暇も無かったんでしょうね。ずっと逃げてきて…


必要な情報に関しては聞いたと思うのでしばらく眠ってくださいね。(私は………登録手続きを進めましょう。IDカードの準備を…)


(サイとイドはそのまま朝まで眠ってしまったようだ。)


イド:………う?ここは…そうだ、先生の部屋…か。


先生:おはようございます。やっと休めたようで何よりです。


イド:…ああ。よっぽど安心して眠ったらしいな。昨日よりずいぶん身体が軽い。


先生:そうだ、これをどうぞ。


(先生はイドにIDカードを手渡す)


イド:……?これは…カード?


先生:正式にゲブラーの一員となった証です。主導権が入れ替われば表示もあわせて変更されるのでそのままお持ちください。


イド:ふーん…わかった。


(イドは物珍しいのかカードに興味津々のようだ)


先生:そのカード、他の部屋へ入るときの鍵の役割も果たしてますので、可能な限り肌身離さず持っておいてくださいね。


イド:へー…これが…鍵、ねぇ。

ん?なぁ、先生。ソラリスって……なんだ?


(カードの裏を指し示しているようだ)


先生:おっと…私としたことが。大事なことを失念してました。軍事組織ゲブラーの本国の名前です。

追々戻るときにご案内しますよ。


イド:なるほど…国の名前なのか。(サイは聞いたこと………無かったな。敵の事なんざ知るよしも無かったからな)


先生:…そうだ、少しこの城を巡ってきては?散策ついでに気分転換にはなるかと。そのカードがあれば見咎められる事は無いですよ。


イド:…ああ、そうする。(これから根城にするんだ、方向音痴なサイの代わりに地理の把握をしておくのは重要か。)

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