全ての始まり
?:はぁ……はぁ…畜生っ…!しつけえ…アヴェなら大丈夫かと…思ったんだが……
なんなんだ…このイベントは………!
くそっ、どこか隠れる場所は無いか……?
(あまり人目につく所にいるとヤバい。一応敵…だからな………)
追っ手A:ちっ…何処だ?よりにもよってイベント中のアヴェに逃げやがって…!
追っ手B:まったくだ。俺らの身も危ねえ…とっとと仕留めて出ようぜ。奴だって長くは潜めまい。
(追っ手は路地を奥に行ったようだ)
?:……うっ…目眩がする。暴れすぎたな…早いとこ潜まねえと奴らの前で倒れかねん。
ん…?あれは……地下水路の入り口…か?あるいは…使えるか。
(彼は鍵を破壊すると中に潜る)
ちょっと…休憩だ………。
追っ手B:……?なんだ、今の音…?
追っ手A:おい、どうした?
追っ手B:……いや、そっちの広場から音が。
(追っ手は顔を見合せて頷いた)
追っ手A&B:……行くか。
(広場を訪れると地下水路の蓋が開いていた。中には獲物の姿があるが、肩で息をしておりやや苦しそうだ。)
追っ手A:ずいぶん逃げやがって…。ここがお前の墓場だな!
追っ手B:"バケモノ"め。死ねぇ!
(剣を構え、二人同時に間合いを詰めてくる。)
?:………はっ。雑魚がほざいてんじゃねぇ!
(彼が地面に手をつくと槍状のエーテルが放たれ、二人を貫く。)
追っ手A:が……はっ……!?
追っ手B:くそっ…!こんな"バケモノ"ごときに後れを取るとは…
(追っ手Aは急所を貫かれ倒れた。Bはすんでの所で避けたが足に傷を受け屈んでしまう)
アヴェの武人:……?(地下水路から声がすると報告があったんですが……ここ、でしょうか。蓋が…壊されている……)
(武人が入口に近寄ると、中で人が倒れる音がした。)
武人:……!(中に人が!全員…キスレブの民ですか。倒れたのは彼ら二名…明らかにあの服装は兵士…。無事な彼の追っ手、でしょうか?)
…そこで、何をしているんです?
(武人は地下水路に入ると、お互いの間に立ち塞がるように歩み寄った)
?:……!しまった…アヴェの奴か!
(逃げようにも…入り口に立たれては…!力も切れかけてヤバいって時に……)
追っ手B:……畜生…まとめて…殺してやる!
(体制を建て直すと剣を構え、背後から突っ込んできた)
武人:し、しまった……!
(武人が振り返ると追っ手に間合いを詰められていた。)
?:しゃらくせえ!死に損ないが!
(舌打ちをした彼が地面を一発踏みつける。最後の力を振り絞った槍が放たれ、今度こそ追っ手は倒れ動かなくなった。)
武人:!?い…今の技は………エーテル?
(何故…私を狙わなかったんでしょう……?)
?:はぁ…はぁ………やった……のか…。
(体力が無くなってしまい、踞って動けないようだ)
しぶとい…野郎共め………。
武人:あ…ええと。助けてくれて、ありがとうございます。
(武人は彼の元に歩み寄ると手を差し伸べる。だが彼は顔を背けた。)
?:……別にあんたを助けたつもりはない。俺はただ……死に損ないを殺っただけだ、勘違いしないでくれ。
武人:じゃあ…何故。私を狙わなかったんですか?一人くらい狙う相手が増えたところで…問題無いくらい、彼と距離が近かったのに。
?:中途半端な力で2匹仕留め損なうより…残された力で確実に1匹仕留める方が……今の俺には重要だった。
それほど残された力はギリギリだったんだよ。
武人:ええと……それだけ、ですか?仮にも私はアヴェの手の者です。彼より私の方が後々面倒だと思いますけど。
?:(こいつ、意地が悪い奴だな。そんな事言わせんのかよ…。)
お前は………初見で襲いかかって来なかった。多分、俺らがキスレブの野郎だってのも分かってんだろ?なのに手を出さなかった。腰の剣に手を掛けることすらしてなかったじゃねえか。(無用心にも程がある……な。)
例え敵だとしても、俺は無差別に襲うことは…したくねえ。
武人:それは…私も同じ言葉を返すことになりそうですね。彼が襲いかかって来る前…私が降りてきたときに、あなたは襲ってこなかったでしょう。エーテルの節約ならば肉弾戦に持ち込めばいい。………迷っていましたね?どうするか。
?:……畜生。全てお見通しってか。
こん……な時に……限界…か………
(彼は踞ったまま意識が無くなったようだ。崩れ落ちそうになった身体を、武人は抱き抱えた)
武人:…力を、使い果たしてしまったようですね。まだ尋問すべき事があるので連れて戻りましょうか。
<数時間後>
?:………?(ここ…何処だ……?まだ目眩が…するから動けないが……)
武人:おや、意外と早いお目覚めで。ここは城の中にある私の部屋ですよ。
?:何の…つもりだ……?捕虜を捕まえるには……枷も柵も……
武人:今はまだ…捕虜ではありません。確かに尋問すべき事があるのは事実ですが…今のあなたに牢は似合いません。無差別に手を出す狂戦士ならともかく。
?:尋問……か…力尽きているとはいえ敵国の野郎相手に、随分悠長に構えてんだな。(舐められたもんだな…俺も。)
武人:そういうあなたこそ。あの時迷った結果、今こうして囚われている訳ですけどね。
?:(言葉で打ち負かすのは厳しいな…捕虜らしく付き合うしかねーか。力が回復してから隙をみてトンズラこいてもイケるだろう…)
ちなみに、あんたは俺に何を聞きたい?
武人:(自ら聞いてくれるとは、観念してくれたのでしょうか?それともやはり…まだ逃げるつもりなのでしょうか。)
何故彼らと地下水路に居たんです?わざわざ鍵を壊してまで。
?:元々あそこに入ったのは、奴らの追跡や回りの人間から隠れるためだ。一息ついて力を回復するつもりだったが…意外と近くに居やがったせいでバレた。
武人:(城への侵入目的ではなかった…ですか。確かにその事実を知っているのは我々だけですし。)
じゃあ…彼らに追われてた理由はなんですか?執拗に敵国まで追ってきたんです、相当の事情があるとお見受けしましたけど。
?:……俺は……大量殺人犯だからな。
仕留めておかないと……また殺られると踏んだんだろう。それだけだ。
武人:妙…ですねぇ。あなたの立ち居振舞いを見る限り、とても大量殺人犯には見えません。敵の人間一人倒すことを迷っているのに…。冤罪、ですか?
?:いいや。事実だ。確かに俺は十数人ぶっ殺した。
武人:…そうですか。では質問を変えましょう。仮にあの時私が現れなければ、ずっとあそこに潜んでいたんですか?
?:追っ手を始末して力が回復すればトンズラこくつもりだったさ。ダジル辺りでひっそり暮らそうかと思ってたがな。…信じねえだろうが。
武人:…確かに。キスレブの民が紛れていると割れれば非常に面倒な事態に発展しますし。いくら強力なエーテルが使えるとはいえゲブラーと手を組んだアヴェに一人で喧嘩を吹っ掛ける事はしないでしょう。
?:俺は……キスレブにもアヴェにも居場所が無いからな。だから国同士のいざこざにも興味がねえんだ…だからとっととフケたかったんだよ。
武人:ふむ。しかし………何処に逃げても、あなたがキスレブの民である事実はついて回ります。おまけにお尋ね者の肩書きも。
正直、手詰まりなのでは?
?:……はっきり言うのな。生憎、自首するくらいなら自害する。俺は……いや、俺が殺人犯になったのは奴らのせいだ。正当防衛、ってとこか。
(武人は何か考えているようだ)
武人:……あなた、名前は?
?:…は?名前………?おれの……なまえ……。(そもそも名前って、なんだ?)
(彼は虚空を見つめ固まってしまった)
武人:え……?色々聞きましたけど…そ、そこで詰まるんですか。(まさか…"名前が…無い"?)
(彼は長らく悩んでいたが、漸く名前を名乗った)
?:…………ウェパール。
俺の名前は、イド・ウェパールだ。
名前なんか…初めて聞かれた。
武人:…あの。今何歳ですか?(名前が無い年齢とは思えないんですが…)
イド:…突然なんだってんだ?
ええと……ひーふーみー……(年齢、確か生きた年数……だっけ?)
15歳。(……っても、俺は昨日生まれたばっかだが。)
武人:(自分の年齢を…数えている?)
…まさか…そんな。その身体には"あなたの他に誰か別の人が…宿っている"のですか?
イド:……!(初対面に、見抜かれた……?)
はぁ。バレちゃしゃーねーか。………俺の"真名"は…サイ・ウェパール。この身体の…真の持ち主な。
俺自身は…二人目だ。
武人:解離性…多重人格障害…。
まさか…今、返答に詰まったのは…
"名前が…無かった"?
イド:…ああ。考えている暇も、必要も無かった。今、あんたに聞かれるまで。
武人:では…もう一度、確認して構いませんか?大量殺人犯は………イド。あなたなのですか?
イド:…ああ。いかにも。二人目の俺が殺人犯だ。もっと言うなら奴らをぶっ殺すため…生まれた。
武人:正当防衛…殺すために生まれた…二人目…(あくまでも主人格を守るために、戦っていると言うことは……あるいは?)
イド:……(身体は………何とか動ける程度には回復したな。アイツが悩んでいる今なら…フケるチャンスだが…)
あんたは何故…捕虜に名を問う?
武人:……え、ああ…
さっきも言いましたが、まだあなたは捕虜じゃありません。
ゲブラーに、入りませんか?
イド:……は?俺が…ゲブラーに?
なんで俺がアヴェの肩を持たなきゃ…
武人:…ゲブラーに入って、自由に動こうと思いませんか?無論、無理に味方になれとは言いません。
少なくとも…アヴェの民からは狙われなくなりますし、キスレブの民も…迂闊に手出しはしにくくなると思うんですが。
イド:……妙なことを言うな。ゲブラーに入るのに味方になれとは言わないって……何を企んでいやがる。
武人:ええと……恥ずかしながら、あなたに興味が湧きました。医師として…多重人格障害を目の当たりにするとは…思いもよらず。側であなたを観察したい…ですね。
イド:(こいつ…医者だったのか。この部屋…どうりで。しかし………変な奴だな。)
武人:(やはり…冷静ですね。そう簡単には上手い話には釣られませんか……)
(二人は無言で考え込んでいる)
イド:(しかし…他にサイを護る合理的な方法が無い以上……しょうがねーのか…?)
…はぁ。分かった。
(イドは深いため息を吐くと諦めたようだ)
この俺を…仮初めの仲間に…入れて、くれるのか?
武人:ええ。英断…感謝します。私はあなたを歓迎しますよ、イド・ウェパール。
(武人の表情が緩んだ。もう戦わなくていいという安堵かあるいは……)
イド:(笑ってるぞコイツ……まったく妙なことになったな。とりあえず利用できるものは利用するしかないか…)
つーか…あんた、ただの医者なんだろ?勝手にこんなことして権限あんのかよ?
武人:ふふ…ご心配なく。こう見えても私、幹部ですから。医師は…オマケです。
イド:お…オマケ……?
(あっけらかんと断言した武人の様子を見たイドは呆れている)
確かに剣持ってる時点で医者っぽくはなかったけど。(だとしてもオマケで勤まる職業とは思えないんだが……)
武人:…それはそうでしょう。あの時は一人の武人として居ましたから。戦うか否かは別として、ですが。
っと、申し遅れました。
私の名前は………ヒュウガ・リクドウ。好きにお呼びください。
イド:……人の名前を呼ぶのは………勇気がいるな。とりあえず、先生と呼ばせてくれ。
先生:ええ、分かりました。少し休憩しましょうか?登録のためにもう少し過去の事やサイさんの事とか色々聞かせてくださいよ。
イド:…承知。(今のうちにもう一度、サイの記憶を…手繰るか………)
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