もし君が消えたなら2

先生:リエル…最近ドライブの量が増えてませんか?服用し過ぎは体に負担をかけるんですから控えなさい。


リエル:これくらい…平気だもん。


先生:こらこら…勝手にとっちゃダメですよ。


(薬棚に手を伸ばすリエルを羽交い締めにする)


リエル:…(うう…動けない…)あのね、飲むとね、寂しくないの。なんだろ…よく分からないけど…


先生:……だからといって飲みすぎはダメです。(何故でしょう?そもそもイドはドライブを服用した事はありませんし……そもそも使用意図が全く違いますね。)


(ドライブを貰えないと知ってリエルは目に見えて落ち込んでいる)


先生:そもそもドライブは…戦う意志が無いけど戦う必要に迫られたときに服用するものですよ?

最近リエルが闘っている所は見たことがないんですけどね。…ちなみに寂しくないって…一体、どんな感覚なんですか?


リエル:えっとね…頭がぼーっとして…何にも分からなくなるの。なーんにも…感じなくて…それがいいの…。

すっごく…楽なの。


先生:それ、完璧に乱用じゃないですか…

しかも…依存症、ですか。


リエル:いぞんしょ?


(険しい表情の先生を眺めながら首を傾げている)


先生:えっと…依存症とは、それがないと耐えられない状態のことですよ。現に今、ドライブを寂しさをまぎらわす為に飲んでいるでしょう?


リエル:うん。


先生:このまま続けてれば、ドライブ無しでは耐えられない状態になって……

もしかすると、もう耐えられないのでは?


(リエルは少し考え込んでいたが…何かに気づいて逃げ出そうとする。しかし羽交い締めにされていたため動けなかった)


先生:……!やっぱり、そうなんですね?

逃がしませんよ?


(何かの薬を投与されたリエルはそのまま寝てしまう)


先生:……迂闊でした。もう少しドライブの管理は厳しくしておくべき、ですね…

……すみません、イド。リエルを任された私がこれでは…貴方に顔向けできませんね。


(リエルは夢を見ている。添い寝してもらったあの日と、同じ夢を………)


(……見知らぬ人………が…でも…懐かしい?……待って……あのね…僕は………君に…)


先生:しかし…これから、どうしましょうか。イドと違ってエーテルガードで動きを止めることもできませんし。

(精神感応も…効いたり効かなかったり。寂しさのせいで弱まっているんでしょう、拒絶の力が)


(リエルの目が覚めたようだ…先生を見つめる目にはうっすら涙を浮かべている)


リエル:……ねぇ。先生?

僕は……ずっと…独り、だったのかな。


先生:(これは……どう返事するべき、でしょうか。根拠を聞いてから、ですかね?)

突然、どうしたんですか?……何か、気になる事でも?


リエル:…あのね?夢の中にね…一人の男の子が出てくるの…僕にそっくりだけど、赤い髪で……

初めて見たはずなのに……懐かしくって…よく知ってる感じ。でもね、いつもその子は手をふって消えちゃうの。話したいのに…


先生:(やはり…イドの存在を朧気に認識しているのでしょうか?しかし…消滅の際、イドが主導権を握っている間の全ての記憶は抹消された筈ですが…)


リエル:一人で眠れなくなったあの日から…ずっと僕はその子の夢を見るの。僕のそばから…遠くにいっちゃう。その瞬間に………目が覚めて。あの子、悲しい顔してた。どうして?


先生:そう…ですか。……分かり、ました。本人に止められていましたが…お話します。

リエル。あなたの中に宿っていた…もう一人の男の子について。


リエル:あのね、全部聞かせて。知りたい。


先生:その子の名前は…イド。

本名をイド・ウェパールと言います。あなたの中に宿っていた…第2人格です。

夢に出た赤い髪の姿は…イドが主導権を握っている間のあなたの姿です。


リエル:いど…うぇぱーる……

あのね、うぇぱーるって……僕の姓?


先生:ええ。まさしく、あなたの旧姓です。イドがあなたの改名を望み、ウェパールの姓はイドが引き継ぎました。


リエル:あのね?どうして……名前が変わったの?


先生:それは……ええと。それを話す前に、イドが生まれた経緯から知る必要がありますね。

何故、イドが生まれたか…分かりますか?


リエル:………?あのね、分からない…


先生:あ。そうでした…


(端末から何かのロックを解除する)


単刀直入に言うなら…あなたの"心"を守るため…です。


リエル:…………!?(こ……これは……僕の…過去?嫌だ…止めて………)

心を…守るため……?


先生:その記憶は…ずっとイドが握っていました。おそらく当時のあなたには…受け止めるには、重すぎた。

だから……イドが生まれたんです。あなたの代わりに……全て受け止める為に。


(リエルはショックでやや放心状態だ)


先生:改名の話に戻りましょう…何故、改名を望んだのか?

ウェパールという姓は…過去を紐づける枷のようなものでした。バケモノ呼ばわりされたのも、両親の存在とウェパールの姓に秘められた、悪魔の意味合いからでしょう。

そんな汚れた名をイドは名乗らせることを良しとしなかった。


リエル:うぇぱーるが悪いのは分かった。じゃあ…りえるって……何?


先生:リエル…には確か、天使の意味が込められていたはずです。お母様と同じ。


リエル:お母さん……?ちある…。そう…なんだ……


先生:いくらイドが記憶を握っていたとはいえ、過去を紐づける名前を名乗っていれば、フラッシュバックであなたが思い出してしまう恐れがあった。だから……改名したんです。


リエル:そう…だったんだ…何にも、知らなかった…ねぇ…どうして……きえちゃったの?なんで…僕に伏せてたの?


先生:伏せてた理由は……あなたの暴走事件があったから、ですね。

イドは…エーテルを使いこなす存在でした。初めてイドが主導権を握った日からずっと、あなたを守るためだけに力を使っていたんですが…


リエル:……!?も…もしかして……

僕の…せいなの?

僕が……エーテルを使った自分をバケモノだって言っちゃったから……?


先生:……そうです。ですから…イドは絶対にあなたに悟らせまいと。消えた理由も半分はそれです。


リエル:………半分は…?あのね、どういうこと?


先生:もう半分は…エーテルの副作用、でしょうか。

エーテルは強力すぎて、身体への負担が大きかった。それに…その強い力に惹かれ…喧嘩も絶えなかった。

だから……イドはその状況を打破するためにも、消滅を選びました。


リエル:でも…先生言ってた。技は封じる術があるって…消える必要…無かったんじゃ……


先生:……私もそう考えました。しかし………"自分はリエルを守るために生まれた。必要が無いのに存在し続けるのは苦痛だ…"と言われてしまいまして。

イドは本当に…この世界と、人間を…忌み嫌っていましたから。


リエル:……イドのばか。自分勝手。

知らなかったとはいっても…僕が生み出したのに…僕の許可なく死んじゃうなんて。

必要がない?なんでそんな事、わかるのさ……

守ってくれるなら……最後まで……

側に居てよ……

それが守護者ってもんだよ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る