二人の時間

<反逆の数日前>


先生:…イド、ちょっと良いですか?話があります。


イド:…?どうしたんだ、先生。改めて話って…


先生:最近、寝てますか?


イド:お…おう…そのつもりだけど…?


先生:ふむ、自覚は無し、ですか…


イド:…どうしたってんだ…?(別に身体の調子は悪くないんだが…)


先生:そもそもここ数日、リエルに戻ってないでしょうに。何か理由でも?


イド:ん?ああ……守護天使になってから喧嘩が多くてさ…リエルに吹っ掛ける奴も少なくない。入れ替わるの大変でな……。


(リエルに喧嘩を振られたときを思い出しため息をつく)


先生:ああ…そういえば、ここのところいつも体力が減ってるのはそういうことですか。度を過ぎた喧嘩なら反逆で軍法会議にかけられますけど…


イド:度を過ぎた……か。そんな事、起こるんだろうか?(いや、起きても困るが…)


先生:起きないことが前提ですよ。そう度々起きたら組織としては成り立ってませんって…


イド:そもそも限度はどこにあるんだろうな。4対1でフクロ位は多々あるけどな…


先生:……1つの目安として、殺意の有無でしょうか。武器を使用する・多勢に無勢でやりあうだけではそこまで問えませんが…言動に殺意を認めたら、限度を超したと判断しますね…私は。


イド:…難しいな…。武器の使用は合法か。目安は殺意の有無……ねぇ。(そもそも俺が負けることがないから殺意の有無なんか分からんな。)


先生:ええと…難しいですね。"未必の故意"もありますし…

とりあえずは過剰防衛に注目することが近道でしょうか。明らかに強すぎる武器の使用などがそれにあたるでしょう。


イド:過剰防衛は…なんとなく分かった。ただ、未必の故意……ってなんだ……?


先生:未必の故意とは、その状況を放置すれば…人が亡くなる可能性がある(必ずとは言えないが)状況を、あえて(故意に)放置する事を指します。

例えば…酷い出血を起こさせるような怪我をさせ、そのまま放置すれば…亡くなるかもしれませんよね?


イド:ふむ…確かに。確実ではないが…可能性はあるか…。

しかし……そんな事、証明可能なのか?不確か過ぎるような…


先生:難しいですが…逆に証明できれば、殺意の有無ははっきりします。直接止めを刺さず…人を死に追いやる卑劣な手段ですからね。


イド:(殺しに卑劣もクソも無い気がするんだが…)確かに相当思慮深く、執念深い野郎であるのは確か…か。


<軍法会議の次の日>


先生:ええと…どうでした?"反逆"の実例を図らずも見ることになりましたけど。


イド:あれは……過剰防衛…でいいんだろうか?地竜ランカーの召喚、か。


先生:そうですね。イドでなければ…死んでたでしょう。過剰防衛に加え、未必の故意も多少。いくらイドが素手でギアを撃退したとはいえ…まかり間違うと死ぬかもしれない状況だったと考えて良いでしょうね。


イド:え。そ…そうなるのか…(難しいな、未必の故意。俺相手の反逆ほど判断の難しい事ってないよな…自分で言うのも何だが。)


先生:現に万が一イドが倒せなかった場合…あの場の全員、殺られてたでしょう。彼らも止める術はなかった。


イド:……マジかよ。土下座したら考えてやるってのは…?ハッタリかまされたのか。


先生:ええ…ムキになって言っただけでしょうね。もしくは…イドが襲われている間に逃げるつもりだった…か。出口は真後ろでしたし、可能性はあるかと。


イド:…どこまでも下衆が。

あっ…そういや話はずれるが…最期に俺を刺した…えーっと…どれだっけ?


先生:ん?フランツの事ですかね?彼が…何か?


イド:あーそれだ。アイツ……やたら突っ掛かって来たけど…何でだろうな。ご丁寧に脱走してまで俺を殺ろうとした…理由が気になってな。


先生:確かに…彼だけは別格でしたもんね。ちょっと待ってください。


(端末で何かを調べている)


イド:アイツは俺がこの手で仕留めたかったな……別に構わんが。


先生:……っと、出ましたね…

なるほど。彼、生まれはキスレブだったようですね…。一応第三級市民層に籍を置いてましたが元は地上人だったようで。


イド:ふーん。つまりあれか、僻みだな。俺が知らないってことは…リエルにも会ってないんだろうな。


先生:彼が来たのはリエルが生まれる前ですよ。子供の頃ここに来たようですし。


イド:…なら、しゃーねーか。(どこまでもキスレブってのは…柵を追わせに来るのな。忌まわしい…)


先生:……そうだ、これをどうぞ。


(先生は部屋の奥にあった何かの缶詰を渡す)


イド:………?んだこれ…"ソイレントシステム"…?えーっと…食っていいのか?


先生:ええ。せっかくですし…先入観抜きでどうぞ。


イド:………?おっ?…これは…なかなか…いや…かなり……旨い。(食堂の飯より良いぞこれ…)


先生:(すごい食べっぷりですね…そんなに美味しかったんでしょうか。)

それ、何の肉だと思います?


イド:ごっそーさん。さあ…食ったこと無い味だったな。


先生:…ちょっと意地悪かもしれませんが、それ…人間の肉です。あなたが仕留めたいと言ってた…フランツの。


イド:……!?マジで?(こんな旨いのかよ…)


先生:私刑は規則上できないので…せめてもの報いに、と。


イド:す…スゲーな。そりゃ旨いわな…


(素材を知った上で満面の笑みだ。珍しく。)


この缶詰…ハマるな……せ、先生……作ってるとこ見たいぜ。


先生:え。別に構いませんけど…(怒るどころかかなり喜ばれましたね…)なかなか生々しいけど大丈夫ですかね?


イド:ん?別にグロいのは好きだぜ。リエルはダメだが。


(リエルと違い、滅多に楽しそうな表情にならないイドだが、心の底から楽しんでいたようだ)


先生:あんなに嬉々として巡る人、初めて見ました…担当ですら嫌がってるというのに…


イド:面白かったぜ…暇潰しと人避けで時々来ようかと思うな。ありがとよ。


先生:来るのは結構ですけどくれぐれも職権濫用はしないでくださいね…?


イド:はは…当然さ。それとこれとは話が別だ。それに…聞く限り、俺がわざわざ連れてくる必要はない。だろ?


先生:確かにそうなんですがね。(無用の心配でしたかね…)脅し文句としてもなるべく使わないでくださいよ?一般兵は知らないんですから。


イド:だろうな、承知。

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