再会

先生:………行きましょうか、イド。とはいっても船酔いが酷いのでリエルに身を委ねることになりそうですが。


イド:…ああ。願わくば俺が出張る必要が無いことを祈りたい。今は…別段無いんだろ?


先生:ええと…今は居ないですね。早めに済ませたいものですね…色々な意味で。


イド:…じゃあ、俺はこれで。リエルを頼む。


(挨拶もそこそこに、イドは主導権を手放した)


リエル:……あのね、おはよう!お出かけ、嬉しい!


先生:ふふ…元気ですね。今回も前回と同じです。好きに見てらっしゃいな。


リエル:あのね、行ってくる!


先生:私は…どうしましょうか。今日は約束もありませんし見回りますかね…?


<2時間後>


リエル:……海の上、気持ちいいな…

(広い広い…どこまでも。

ずっと憧れた…自由な世界…夢みたい)


(先生は端末を眺めている。関係者の現在地のようだが…)


先生:…………ん?これは…


このタイミングで、起こす必要が…

捜しに、行きますか。(薬を打たないとそろそろ切れる頃でしょうし)


行商人:おい…聞いたか?甲板の外れで人拐いが出たってよ。


客:あら、物騒なのね……またでしょう?


賭博師:そうだな…何でも子供を狙うって噂だぜ。


リエル:(……嫌な感じ。戻ろうかな…。)


先生:………!良かった、無事ですか。そろそろ呼びにいこうかと思ってたんですよ。薬も切れそうでしょうし。


リエル:…!先生…あのね、人拐い?が居るって…怖い。


先生:…そうでしたか。(おそらくその人拐い…イドの獲物ですね…)念のため、私も同行します。時間まではしばらくあるので…


リエル:……うん。


(恐怖からか心配そうに辺りを見渡す。先生はそっとイドへと呼び掛けた)


先生:(イド…聞こえますか?"彼ら"が現れました。場所は甲板外れで二名です。)


イド:………!今度は手は抜かねえ…葬ってやる。


バトラーA:へへっ…お嬢ちゃん、一人かい?お兄ちゃんとデートしない?


マリア:…お断りします!誰があなたたちなんかと…!


バトラーB:堅いこと言うなよ、おら…来いって!


(抵抗するマリアの腕をつかむバトラー。力が強く振りほどくこともできない)


マリア:離して!…誰か……助けて……!


イド:……また、てめえらか………。性懲りもなく出張りやがって。(またギャラリーが居やがるが…もういいな。殺るか。)


(舌打ちをすると構える。かつて戦ったマリアが側にいても、気にも留めない)


バトラーA:おい…アイツ……?よくもノコノコ現れたな……


バトラーB:今度こそ借りを返してやろうじゃねーの。へへへ……!


マリア:…あの人…?(ゼプツェンとやりあった……!何故ここに?恩を売る気?)


イド:死にたくなかったら…動くなよ、クソガキ。


(マリアを一瞥するとエーテルの槍でバトラーの身体を貫いた)


これで…止めだ!


(動けなくなった彼らを、我流の拳法で叩きのめし彼らはそのまま死亡した)


マリア:………!(何故…私を避けて……?)ど……どういうつもり?


イド:……………?質問の意図がわからん。何が言いたい?


マリア:…私は…敵よ?何故…助けたのよ?恩を売るため?

いっそ見捨ててくれれば良かったのに……!


イド:……ああ、なるほどな。勘違いしないでもらおうか。俺が奴らを殺ったのは…私怨を晴らす為だ。何もクソガキの為じゃねえ。


マリア:…じゃあ…何故私に手を出さなかったのよ。そのまま殺れたでしょう?


イド:……ふん。くだらねえ。クソガキの癖に…頭でっかちの狂戦士なのかよ。


(突然頭を抱えて崩れ落ちた。酔い止めが完全に切れてしまったのだ)


先生:………イド、もう薬切れでしょう?とりあえず医務室行きましょうよ。


(力なくぐったりしている彼を抱え上げる先生。イドも素直に同意した)


イド:ああ…頼む、先生……。


マリア:…ちょ、ちょっと待って…まだ、話は終わってない…!


イド:……来いよ。お前の気がすむまで付き合ってやらあ。


先生:………いいんですか?休まなくて…


イド:構わん。どうせ止めたってついてくるだろ。蹴るだけ無駄だ。


(医務室で寝かされて、漸く調子が安定したイド。マリアはすぐに話を切り出す)


マリア:…もう一度聞くわ。何故私に手を出さなかったのよ?


イド:……その質問に答える前に、1つ聞かせろ。お前は何故俺に突っかかる?組織としてか、それとも私怨か?


マリア:…当然、組織としてよ。あんたに私怨なんか無いわよ。


イド:……ふーん。それでも俺と一緒か。

俺も組織としてお前と対峙している。が…それだけだ。私怨もねえ。

任務外で殺り合う価値はねえよ。


マリア:…どうしてそんな余裕なの?私は敵なのよ?いつ襲ってくるかわからないのにどうしてそんな………


イド:……確かに、襲ってきたなら、返り討ちにするが…俺は私怨が無い奴に組織としての立場は極力持ち込まない。関係の無いことだ。


マリア:…あなた変よ…。あの時だって、何故私に手を出さなかったのよ?ゼプツェンを壊すより私を殺った方が早いのに。


イド:(どうでもいいが何でこのクソガキは死にたがってんだ?)

さっきも言ったが…"任務外"ではむやみに敵と言えど殺しはしない。俺の主義に反する。


どうしても俺と殺り合いたいなら…(短剣を投げる)これで俺を刺せよ。やり合う覚悟がありゃ、さっきの奴らのように殺してやる。


(マリアは短剣を手に取るが悩んでいる…)


イド:……組織としての立場を…関係ないタイミングで引き継ぐのはお前の勝手だが……無闇に敵対することが…必ずしも得策とは限らねぇ…それとこれとは話が別だ。


(薬が効いたのか、話の途中で眠ってしまう)


マリア:…私は…あなたと違って、そんな余裕はないわ。けど……私には………刺せない。


助けてくれたことは…感謝、するわ。


(短剣を枕元に置くとそのまま出ていった)


<数時間後>


イド:………あのクソガキは…行ったのか。


先生:長らく悩んで刺しませんでしたよ。後は…助けてくれたことは感謝する、だそうで。


イド:ふん。死にたがってた割には…殺り合うつもりは無いのか。分からんな…


先生:…なかなかイドのような考えが珍しいだけだと思いますよ。先に殺らなければ…自分が殺られる世界ですから…


イド:そうか。しかし……何でアイツは戦ってんだろうな。ゲブラーに突っかかるなんて…クソガキの癖に命知らずのアホか?


先生:…確か父親がこちらに居るんですよ。研究者として。それでかと思われます。


イド:…………ふーん。俺には一生、縁の無い理由だな。


(懐に短剣をしまう)


先生:…ちなみにその剣は……?


イド:これか?刺しても刃が引っ込むただの玩具だよ。良くできてたから前回買っておいた。どっちにしろ殺り合うつもりは無かったからな、からかってやったのさ。


先生:…イド…あなたって本当に人が悪いですね。彼女、本気で悩んでたのに。


イド:この程度を見抜けない野郎に人は殺れない。所詮ただのクソガキどまりだ。

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