因縁

先生:イド?地上での監視の任が命令として来たんですけど…


イド:お、おう…ちなみに何処に行くんだ?(あんまり変なとこ行くと遭遇しそうだよな…連中に。)


先生:ええと…今回は教会の発掘に協力する、タムズと呼ばれる海上都市です。


イド:へー…海上…都市……?

(キスレブのような砂漠じゃねーなら…まあいいか。)で?具体的に何すりゃいいんだ?


先生:監視ですよ。色々な人が協力するので…数名の管理者が付き添うことに。イドは…経験を積む意味合いだと思いますよ?


イド:先生も行くのか?誰も知り合いが居ねーのはさすがに気まずいんだが。


先生:ええ。無論1人で行かせるつもりはありませんよ。不測の事態が起きないとも言えませんし…


イド:まあ…確かに。(久しぶりに地上での行動…か。願わくば遭遇したくねえな。)


先生:明日に出ますから…今日は早めに休んでくださいね。向こうでゆっくり休めるかどうか…分かりませんし。


イド:ああ、了解。飯食って寝るわ。

また、明日に。


先生:…ええ。おやすみなさい。

(大丈夫…だと思いますが。随分…心配してますね。関係者は大方一掃された、と報告にはあったんですが。)


<次の日>


イド:……結局あんまり寝れなかった…。

やな予感しかしねえ…

(前からこんなやな予感って…当たってたんだよな。)おはよう、先生。


先生:……大丈夫…ですか?相変わらず表情が硬いですけど。


イド:あ、ああ。行ったことない所に行くんだ…緊張もするさ。行こうぜ、先生。


<一時間後>


先生:つきましたよ。ここが…海上都市タムズです。


イド:で……でっけぇ…

こんな鉄の塊が…浮いてんのか…

………う。揺れるな……


先生:そういえば、イドは船を初めて見たんですかね?


(揺れに翻弄されるイドを見て笑っている)


イド:なるほど…船って言うのか。リエルも知らねえな。……?(頭が痛いな…緊張?それともやな予感が的中したのか…?)


先生:…そういえば、気分は悪く無いですか?初めて船に乗ったんでしょう?


船酔いしてないですか?


イド:………なあ…先生……。この頭痛と吐き気って……船…酔い…?


(踞ってしまう)


先生:あらら…それは確かに船酔い、ですね…薬で押さえるくらいしかできないですけど…


イド:……さすがに…飲むのはやべえ…

なにか飲んだら…戻しそうだ…


先生:………動いちゃダメですよ。


(先生にそっと頭部を押さえられて、首筋に何かを刺されたようだ。身体は楽になったがイドはそのまま意識を手放してしまう)


リエル:…ん…ここどこ…?


先生:あ。おはようございます…

ここは…タムズと呼ばれる大きな船の上ですよ。


リエル:船の上…?あのね、すっごい大きいね?


(珍しい物見たさか、落ち着きなく辺りを見渡している)


先生:確かに。船でありながら…1つの都市として機能しています。相当大きいでしょうね。


リエル:あのね、面白そう!回りたい!


先生:(薬が効いたのか…はたまた酔いに強いのか。元気ですね。)

ええ。しばらく見てらっしゃいな。そこのエレベーターから甲板に上がれますよ。


(リエルは話を聞くと一目散に走っていった。)


先生:さて…私はビアホールに行かないと。先輩の呼び出しがあったんでした。


リエル:すっごく広い!水がいっぱい…

人もいっぱい…。あっちはお店かな?

…………?(なんだろ…この感じ。

やな感じがする。しかも……これは…)


(目の前で女の子がバトラーに絡まれている。しかもまだ幼い。)


イド:………!しまった…あれは…

"奴ら"か…


(リエルが怯えている様子から察したイドが主導権を奪う)


バトラーA:ねえ、良いじゃん?お兄ちゃんと遊ぼうよ?


(少女は無言で首を振って拒絶。)


バトラーB:おら、来いって!


(少女がイドに気付いて足元にしがみついた)


イド:ちっ…面倒だな…

(ギャラリーが居る以上…殺るのは不味いか?しかし……いずれ仕留めねえと。奴らは…顔に覚えがある。あのとき仕留め損なった…リエルの敵!)


(イドは少女を足から離す。)


ちょっと離れてな。すぐに済ませる。


(少女は言いつけを守り、背を向けて後ろで震えている)


バトラーB:あん?てめえ…やる気か。


バトラーA:…おい、アイツ。懐かしい面、してんじゃねえか。なあ?"バケモノの子"。


バトラーB:何?本当か?まさか…あれが完全体の…?


バトラーA:そういうこった。仕留めたら…良い稼ぎだぜ?


イド:………黙ってりゃ…好き勝手言いやがって。そんなに逝きてぇか?


バトラーA:"バケモノ"が…人間様に逆らう気か?


バトラーB:"バケモノ"退治は俺らの十八番だって知ってて言ってんのか?


(バトラー二名が笑う。相手を見下した下卑た笑いだ)


イド:……下衆が。(俺が目覚めたのは……!

てめえらの…せいだってのに…!)


(地面に手をつき、エーテルの槍を放つ。怯んだ連中に打撃を叩き込み退けた。)


バトラーB:"バケモノ"め…!いつか…殺してやる…


(バトラーBはAを担ぐと逃げていった。気付くといつの間にか少女が足元に来てしがみついていた。)


イド:……もう、大丈夫…だ…家族のもとに…帰んな。


(薬で押さえていた船酔いが悪化し、そのまま倒れてしまった。少女はイドの身体を揺さぶるも、目を覚ます気配はない)


少女:…………!(どうしよう…お兄ちゃん、起きない…!)


(懐をまさぐると何かに触れた少女。そのまま気絶したイドに寄り添い動こうとはしなかった)


先生:………?イドが…(いつの間に主導権を?しかも……救援要請とは…)

先輩、連れの具合が悪くなったみたいで…


ジェサイア:ん?そうか…何処だ?甲板ならビリーが居るが…


先生:奇しくも、甲板ですね…ちょっと行ってきますが…先輩は?


ジェサイア:なら俺も行くかな…プリメーラも来てるから預かる。


(イドは未だに目が覚めない。少女は手を握ったまま付き添っている)


少女の兄:プリメーラ!?何やってるのさ?(そもそも彼は誰だ?何故プリムの側で……)は、離れなよ…


(プリメーラは首を振り拒絶している)


兄:……とりあえず医務室に連れていくべきかな。父さん…は、居ないか…


先生:イド?どうしたんですか?


(ジェサイアと共に駆けつけた先生。イドと幼い兄妹の姿を見付けた)


あっ…あなたは…ビリー君?


ビリー:……?父さん!どこ行ってたのさ!

あ、ええと…ヒュウガさん…?もしかして…彼の……


先生:すみません。私の連れです。

……ちなみに、この子は?

何故、イドにしがみついて居るんですか?


ジェサイア:ほぅ…あのプリムがなついてんのか?


ビリー:しがみついて離れないんだけど…どうしよう?


ジェサイア:んじゃそのまま医務室連れてこうぜ。心配なんだろ。


先生:…(倒れた原因は…船酔い、ですか。しかし……何故、わざわざイドが?あれほど船酔いがすごくて主導権を手放すほどなのに…)


イド:う……ん……?

(ど…こだ………ここは……?

そうだ……あの子供は…無事か……?)


先生:(子供…?プリメーラの事、でしょうか?妙ですね…イドが誰かを…"助けた"と?)


ジェサイア:ヒュウガ。分かった。どうやら人さらいに絡まれたプリムをこの兄ちゃんが助けてくれたってよ。


先生:そ…そうだったんですか。


(端末を調べると交戦の履歴が出る。キスレブのバトラー2名だった。)


なるほど…(イドの予感は…悪い意味で的中、したんですね。)


ビリー:な、なんだ…プリムの命の恩人、だったんですか…


ジェサイア:馬鹿野郎…お前は何やってんだよ。しっかり見ててやれよ…


(安堵からため息を吐いたビリー。ジェサイアはそんな息子の頭を小突いた)


ビリー:ううん…気が付いたら居なかったんだよ。やっと見つけた時には、イドさんが…倒れてて。どこ行ってたのさ…プリム…


先生:とりあえず…イドが目覚めるまでしばらく掛かると思いますよ?一休みしてきては…


ジェサイア:そうだな。俺は一杯引っかけてくらぁ。


ビリー:まだ飲むの?とはいえお腹空いたし…プリムは?


(プリメーラは相変わらずしがみついて動かない)


先生:プリムは…付き添いたいようですね。私が見てますからあなたも休んできては?ビリー。


ビリー:……じゃあ、お願いします。起きたら呼んでください。行こっか、父さん。


イド:………(気持ち……悪い……

苛立ったから……余計…か…)


(プリムがイドのIDカードで遊んでいる)


先生:そういえば…もしかして。救援要請を入れてくれたのはプリム、あなたですか?

ありがとうございます。お陰で気付けました。


(先生は微笑むとそっと頭を撫でる。プリメーラが心なしか嬉しそうな表情になった)


イド:……うっ。ここは……?

………(そうか、無事か……しかし……何故まだ引っ付いてんだ?)


先生:目が覚めましたか?災難でしたね…彼女が救援要請をしてくれたんですよ。


イド:……そうか…助かった。


(恩人であるプリムの頭をそっと撫でる)


先生:ちなみに家族は別室で休憩してますから。安心してください。


プリメーラ:(あのね、ありがとう!)


イド:……?(今…声が…?気のせいか…)


先生:(ほう。プリムも…ですか。確かに先輩やビリー君とは使ってますもんね。)私は先輩たちを呼んできますね。


イド:あ…ああ…(読めるのか、参ったな…子供は苦手なんだが…。まあ、読ませなきゃ一緒か。)


ジェサイア:おーっ、目が覚めたか?


ビリー:もう…父さん声がデカいって…!相手は病み上がりだよ?


ジェサイア:悪い悪い!とりあえず礼を言うぜ、バカ息子の代わりにプリムを助けてくれてありがとよ!


イド:ああ…ついでだから気にするな。


ビリー:ちょっと父さん!?バカ息子って酷くない?確かにその…気付いたらプリメーラ、居なくなってたけど…


ジェサイア:だーかーらー、目を離すなって散々言ったろ?


ビリー:……そうだね。イドさん、妹の危ない所を助けてくれてありがとうございました。


イド:…ああ。気を付けな。


(気分がすぐれない為、イドはまたうたた寝してしまう)


ビリー:あ…寝ちゃった。そろそろ行こっか?プリム。


(プリメーラは頷くとイドから離れた)


ジェサイア:じゃあ、邪魔したな。よろしく言っといてくれ。


先生:ええ、分かりました。お気をつけて。


イド:……うっ…


(イドは魘されているようだ…先程バトラーに言われた言葉が反芻している。


そんな様子を見ながら、先生は端末の履歴を確認している)


【キスレブ バトラーメンバー表】


【絞り込み1:配属2年前以上】


【絞り込み2:一般バトラー】


【該当者:362名】


【絞り込み3:サイ・ウェパール】


【生存者:5名】


イド:…(先生?何を……調べてんだ…?ダメだ…これ以上…は…気絶してしまう)


先生:残りのバトラーの現在地は…帝都ですか。またいつ出てくるか…分かりませんね。


でも。事前把握は可能なので…

もう起こり得ないと思いますが。


今回は迂闊でした。すみません。

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