侵入者
【ゲブラー専用ギアドック内】
イド:……ゲブラーってさ、キスレブのギアより細身の駆体が多いよな…
(物珍しいのかきょろきょろと辺りを見渡している)
正直、柔そうなんだが問題ねーのか?
先生:その分出力や素材によってある程度は補われているので性能はあまり変わらないものですよ。むしろ、軽いぶん機動力が上がっているので……適当な操縦者が扱えば有利かもしれませんね。
イド:……ふーん。俺は戦闘しないから別に気にする必要はないんだろうけど。(願わくば乗りたくないな…多分、素の方が動き良い。)
先生:確かにそうですが…もし戦闘になったらギア相手に生身でやりあうのは不可能ですからね?万が一ということもありますし。
イド:(素手でギアも竜も殺れるって言ったら面倒だな…これ。)そもそもゲブラーに襲いかかる奴居るのかよ…?
(その時侵入者を知らせる旨のアナウンスが流れた。)
…!?言ってる側から…か。
(先生の端末にはシェバトのギアゼプツェンと搭乗者マリアの名前が出ている)
先生:敵は一機ですか。なら大丈夫だと思いますよ?エリィが相手になるようなので。
イド:エリィ……?ああ、アイツか。(そういやあいつは戦闘部隊だっけな…お手並み拝見といこうか。)
エリィ:……くっ……何で女の子があんな所に乗ってるの?
(必殺技を繰り出すがゼプツェンに弾かれあまり効いていない)
エーテルは…駄目、当たっちゃう…
(考え込んでいる間にカウンターのロボパンチをモロに食らって倒れてしまう)
イド:…相手のギア、ゴツいな……。(つか肩に子供が乗ってるな、なにやってんだ?)
え。パンチ一発で吹っ飛んだ…避けろよ。
(エリィは躊躇いながら技を繰り出すが全て反撃されている。)
エリィ:……出来ない…生身の女の子が居るのに。私には………
(ロボビームを打たれ中破状態に。)
イド:………なにやってんだ、あの野郎。
まさかガキが乗ってるから躊躇ってんのか?
先生:…だから、ドライブが必要なんですよ。おそらくあのままではエリィに勝ち目はありません。
イド:な…なんだと?そんな事あるのかよ。(戦闘部隊?これでか?)
エリィ:…………こうなったら、エアッドで……?どうして!?起動、しない………!
先生:あちゃー…エアッドシステムにロックが…。あの精神状態ではエーテルもマトモに撃てないでしょうね…
イド:……はぁ。なさけねー野郎だ…
(イドは立ち上がるとギアの足元に歩み寄る)
エリィ:……!?ちょ、ちょっと……どうして彼が?お願い逃げて!生身では…
先生:そ、そうですよ!?どうするつもりですかイド!退きなさい!
(イドはエリィを一瞥した)
イド:………へっ。戦えない奴は…黙ってろ。
(そのまま高くジャンプするとゼプツェンの頭部まで飛び上がった)
マリア:…に……人間!?
(飛び上がったイドを見て驚いている)
……!駄目!ゼプツェン…人間を殺しちゃ……!
(ゼプツェンのロボパンチが繰り出されたがイドはあっさり避けた)
イド:(妙な事を言うな…?まるで今までの攻撃は全て制御していたみたいな…。
図体だけはデカいが…よし、行けそうだ)
殺り合うつもりがないなら…とっとと家に帰んなガキんちょ!目障りだ!
(エーテルで攻撃力を強化しゼプツェンの身体に打撃を叩き込む。)
マリア:…きゃあああっ!ゼプツェン!避けて……!
(たった一撃で、分厚いゼプツェンの胸部装甲にヒビが入っている。)
先生:なっ……!?素手でギア装甲にヒビが……。そんな事…可能なんですか?
イド:これで仕上げだ………!失せな!
(普段打つ指弾の数倍の大きさにした対ギア用指弾を胸部に叩き込む。そのままイドは地面に着地した)
マリア:…だ…ダメ!ゼプツェン!て…撤退よ…!(何故…私を狙わないで…?)
エリィ:…………す、すごい……素手とエーテルだけで……!
イド:"覚悟"の無い野郎共が…戦場に立ってんじゃねえよ…!
(イドはそう吐き捨てると、そのまま力尽き倒れた。慌てて先生が駆け寄ると助け起こす)
先生:し…しっかりしてください!
(驚くべき事に…体力が尽きた以外、目立った外傷もない…?)
とりあえず連れて帰らないと…
<一時間後>
(片付けを済ませたエリィは医務室を訪れた)
エリィ:……すみません、あの人は…?
先生:あ、いらっしゃい。驚くべき事に…無傷です。体力が尽きた以外元気なもんです。
エリィ:……ごめんなさい…私のせいで、戦わせてしまって。
(眠っているイドの手をそっと握る)
私には………倒せなかった…
先生:操縦者があんなとこにいたら誰だって躊躇うでしょう…仕方ないと思いますよ。
エリィ:……でも………"覚悟"の無い野郎が…戦場に立ってんじゃねえって…言われたとき、その通りだと思ったし…ドライブが無ければ私は…
先生:あまり、思い詰め過ぎないでくださいね。確かに正論かもしれませんが…彼は別格ですから。思考も…行動も。
エリィ:はい…私はこれで失礼します。お邪魔しました…
(暗い表情のまま、エリィは医務室を後にした)
先生:……とりあえず起きたら尋問ですね。ギア相手に生身で飛び出すなんて…何を考えてるんですか!貴方一人の身体じゃないんですから……
<数時間後>
イド:………う……ん…?
ここは……先生の部屋か……
先生:おはようございます、イド。具合はどうですか?
イド:………悪くない。まだ疲れてるが…許容範囲だろう。
(身体を起こすと軽く首や肩を動かしている)
先生:ちょっと……まだ寝てないとダメですよ。色々聞きたいこともありますし…
イド:……聞きたいこと?(勝手に出て怒ってるのか?)
先生:当たり前でしょう。なぜギア相手に生身で飛び出したんです?
イド:あー…そ、そうだっけ。
俺、ギア相手に殺り合うの、実は2度目なんだ。1度目は…キスレブとアヴェの国境で。連中、本気で俺を潰す気だったからな…
先生:え。じゃ…じゃあ、初めて会ったときって?追手も居たような…
イド:無論、ドンパチやらかした後だ。あの追手は国境を越えた後、本国から別個に派遣された奴だろ。見つかったのは森を移動してたときだ。
疲れてたからアヴェに逃げて撒きたかったけど失敗したんだよ。
先生:なるほど…なぜあの時そんなに疲弊していたのか、合点がいきました。不眠不休だけでなかったんですね…
イド:まあな。節制してたとはいえ2回も殺り合ってちゃーな…
今回は図体がデカいから強めに打ったらこうなったけど。
先生:に…2回も?あの…ギアと殺り合ったのは1回だけだったのでは?
イド:……ん…ああ、森ででっかい竜?に出会ってさ…俺の事、餌と勘違いして追い掛けて来やがったからな。仕留めてやったよ。奴らに見つかったのもそこでドンパチやったせいだ。
先生:ああ…地竜ランカーですか。あれこそ並のギアでも苦戦する生き物ですよ……(今にして思えば、よく生きてましたね…)
イド:そうか?エーテルで貫いたらあっさり逝ったぜ?(動きがトロい分、ギア相手より殺りやすかったような……)
先生:(あれをあっさり倒すとは…この体力とエーテルの数値、機器の故障じゃないんですね。)
と…とにかく、身体に負担を強いるのでなるべくあんな無茶は控えてくださいよ?言わなくても分かってるとは思いますけど。
イド:ああ…分かっているさ。願わくば戦いたくねーよ。
先生:(願わくば…ですか。初対面の時からなんとなく感じていましたが…)
戦いは、嫌いですか?
イド:好きか…嫌いか…で言うなら嫌いではない。だが自ら進んで戦うほど好きって訳でもねえ。先生の言うとおり、この力(エーテル)はめちゃくちゃ身体に負担がかかる。
正直…リエルの生命維持には反するもんだと思ってる。だから可能な限り、この力を使って戦いたくはないな。
先生:そう…ですよね。(やはり狂戦士ではなかった…と。)あ、後で総司令官があなたに会いたいと。
イド:総……司令官?一体、何用だ?
先生:さっきのあれですよ。大いに感銘を受けたようで…起きたら是非連れてこいと。
イド:(やはり面倒なことに……だから言いたくなかったんだが。)しゃーねーか。面くらいは拝んどくかな……はぁ。
(露骨にため息を吐いたイド。乗り気では無さそうだ)
先生:失礼します。カール、彼を連れて来ましたよ。
ラムサス:良く来てくれた。私はカーラン・ラムサス。ゲブラー総司令官だ。
イド:……イド・ウェパールだ。総司令官が…俺にどんな用があるんだ?
ラムサス:話はヒュウガから聞いている。敵ギア相手に生身でやり合って撃退したとか。
イド:あ、ああ…見てられなくてな。
ラムサス:その圧倒的な力、是非エレメンツの一員にならないか?
(聞き慣れない単語に思わず首を傾げた)
イド:エレ……メンツ?なあ、先生…エレメンツってなんだ?
先生:カール直属の近衛部隊です。色々難しい説明を省くなら…一緒に戦わないか、でしょうか…ね、カール?
ラムサス:うむ。聞けば戦闘部隊にも所属していないそうではないか。実に勿体ない。
イド:ああ…やっぱりそうなるのか。俺は……確かに戦闘能力は秀でている自覚はあるが……それ以上に身体への負担が大きすぎて…あんまり戦いたくないんだ。
現にさっきの戦いが終わった直後、気絶しちまったし…恒常的に戦うのは避けたい。
先生:…すみません、カール。戦闘部隊に所属しなかったのは、彼の意向を汲んだ上の事だったんです。戦い自体は嫌いでは無いそうですが、いかんせん身体への負担が大きすぎるので…
ラムサス:なんだ…それならば仕方ない。
(やや残念そうな表情のまま、少し考え込んでいる)
ならば…守護天使に就く気はないか?
イド:守護……天使……?ってなんだ、先生?
先生:ええと…難しい説明をすっ飛ばせば、ソラリスやゲブラーの運営を担う幹部にならないか、と言うことですね。
ラムサス:うむ。必ずしも戦う必要はない。作戦の指揮を取ったり監視の任を任せたいと思う。
イド:……ふーん。無理して戦う必要がないなら、俺は断る理由はない。
ラムサス:そうか、やってくれるか。
(快諾してもらえてやや嬉しそうだ)
エレメンツの件についても、気が変わったら言ってくれたまえ。
イド:ああ…考えとく。……じゃあさ、1つだけ…俺からお願いがあるんだけど。
先生:……?お願い…ですか、珍しい。
ラムサス:ふむ…可能な限り叶えよう。
イド:ええと…俺が多重人格だってことはあんたも知ってるよな?主人格のサイについてだけどさ…
改名させてやりたいと、常々思ってたんだ。勝手に改名するのは…色々まずいだろうから、許可を貰いたくてさ。
ラムサス:……ふむ。別に構わないのではないか?確かヒュウガが管理していたよな。手続きをしてやれ。
先生:ええ、分かりました。
イド:…感謝する。総司令官、先生。
ラムサス:うむ。話は以上だ。それと…同じ守護天使として、改めてよろしく頼む。
イド:…ええ、よろしくお願いします。失礼します。
先生:野暮なこと、聞きますけど…何故改名を?
イド:……サイ・ウェパールって名前はさ、ずっと迫害されてきた過去を、嫌でも紐づけてしまう。
それに…知ってるか、先生?ウェパールって悪魔が由来の名前なんだよ。そんな汚れた名前…あいつに名乗らせたくない。せめてウェパールだけでも…外してやりたい。
先生:ふむ…そうでしたか。フラッシュバックも避ける、合理的な手段…ですね。ちなみに名前は考えてあるんですか?
イド:そう……だな。リエル…
リエル・サイなんかどうだろう。
母親のチアルと同じ…天使の由来を持つ名前だ。(守護天使にあやかってなのは…秘密だが)
先生:…いい名前、だと思いますよ。登録、し直しておきますね。(本当にサイ…いえ、リエルの事を想っているんですね…)
イド:(悪魔の意味のあるウェパールという名は…俺だけのものだ。サイ…いや、リエル。お前には背負わせない。全ての闇と共に、俺が引き受けよう。)
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