逃げる理由
リエル:へっ……くしゅん!
暑いし寒い…………
(派手にくしゃみをするリエル。寒気から身体が震えているようだ)
先生:おや…廊下のほうで誰かくしゃみしたんですかね?(風邪が流行ってますからね……無茶はしないで頂きたいのですが)
リエル:ひゃっ…バレた……!
(先生が廊下を覗き込んで、リエルと目があう。リエルはそのまま一目散に逃げていった)
先生:……あの背中は…リエル?
どうも医師だとわかってから、調子が悪いときに避けられているような…
リエル:はぁ…はぁ…だ…だめだ……理由はよく分からないけど…身体が勝手に……
(リエルは立ち止まると、胸元を押さえてしゃがみこんだ。我慢していた咳が出て、マトモに呼吸ができないのだ)
先生:………見失ってしまいました…か。
何か対策を考えないと、具合が悪いまま放置も出来ませんし、下手をすればまた、行き倒れかねませんからね…
(先生は険しい表情になると考え込んだ)
リエル:あ……………動けない……
(壁にもたれ掛かろうとして、そのまま倒れてしまうリエル。主導権を手放してしまった)
先生:そういえばイドの時なら接触しやすいのでは?あ、でも逃げるのは一緒でしたね…
イド:………………?ああ…そうだ、無様に行き倒れてたんだっけ…
(熱の暑さを誤魔化そうと、イドは頭を振りながら立ち上がった。咳は気力で抑えつけているが……)
先生:………あ。あの手がありましたね
(何かの端末を操作している…)
おや、以外と近くに居るようで。
イド:……っと、そろそろ移動すっか…部屋で寝よう…(出歩いて見付かったら、言い逃れ出来ねぇ……)
(ふらつく身体を引き摺って移動しようとするイドの前に、端末を持った先生が立ち塞がった)
先生:ちょっと待ちなさい、イド君。何処に行くつもりで?
イド:………!(やべぇ…見つかった。)
これから部屋に戻るけど。…どうしたんだ、先生…?(下手に逃げたら不審がられるか…)
先生:おや、髪の毛にゴミが。
(先生はさりげなく間合いを詰めるとイドの腹部に一発入れた。油断していたせいで耐えられず気絶してしまう)
……起きたら色々聞かせてもらいますよ。しかし、酷い熱ですね。毎度思いますが、よくこれで動き回って…
<一時間後>
イド:(ここは…何処だ…?身体が動かねぇ…そもそも身体が動かねぇなんて…)
(先生は端末を操作している。イドが目覚めた事を確認すると彼の元に向かう)
先生:(よし、これで…イドは動けない筈。)お目覚めですか、イド。
イド:(声、出してねえのに…なんで気付かれたんだ?)あ、ああ……
先生:色々言いたい事はありますが…熱以外で具合の悪い所はありますか?
イド:(………観念、するか。)
倒れる前は…咳と立ちくらみが酷かった…今は何故か、身体が動かねぇ…
先生:そりゃあんな高い熱が出てたらそうなるでしょうね…とはいえ他に風邪以外の症状がないなら結構。
身体が動かないのはこの首の機械のせいですよ。貴方が動けないレベルに設定したエーテルガードです。
イド:(動かねぇのは先生の仕業なのか…敵わねぇな。策士だ。)
先生:さて……良ければ聞かせてください。リエルとあなたが調子の悪いときに私を避ける理由を。
理由が分からなければこちらも対応出来ませんし。
イド:………分かった。まずリエルは…自分より年上の男性が基本的に苦手だ。
父親や兄、回りのバトラー…全部がリエルに虐待や暴行を加えていたから。
そして…その中で最も恐怖の対象になっているのが、医者という存在だ。"亜人"の実験台にリエルを利用しようとしやがった。
先生:"亜人"…まさか、まだ続けられていたんですか…あなたのエーテルの源って…もしかして?
イド:恐らくは。そん時身体を弄くられたんだろう…リエルの記憶にはあまりハッキリと残ってねえから推察レベルだが。
リエルの間はずっとモノになら無かったな。拒絶し続けたか…才能が無かったか。
先生:そう、でしたか…無理もないですねぇ。しかし…あなたが逃げる理由は何ですか?
イド:俺は………リエルの記憶に影響されている。元々人間は信用に値しないと断じているし現にリエルの回りに居た野郎共は糞野郎ばっかだった。
先生には悪いが正直…リエルを預けるべきか、未だに悩んでいる。"そんな簡単に人間を信用するべきなのか?"俺自身に人間を判断する経験が無さすぎる…。
ましてや、こんなマトモに動けない状況なら尚更。前に言ったろ、弱みを見せたくないって……
(先生はそっとエーテルガードを外した)
先生:……他人を信用するのは、非常に難しい事です。たったひとつのトラブルで全てが崩れるくらい。
裏切り、傷つけられたあなた達なら…初期値はマイナスだと言っても過言ではありません。
急がなくて構いません。もし本当に信頼し得ると思えたら、私を頼って下さい。
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