三日目 六月十日

0-4 人間になりたがった神の童δ

 

 十四歳になった時の私は、魔術の基礎がしっかりと身に付き始めていた頃だった。

 そして魔術以外にも、神話について調べて一つ分かったことがあった。

 恵子は私が『神の童』だと言った。

 しかし本当なのだろか?

 私は確かにあの震災を生き延びた――私だけが。

 でも今、こうして魔術は使えるようになったものの、神の力なるものは使えない。というか使い方も分からない。

 そこでもう一つ『人間様』という言葉を思い出した。

 皇家の術斎には、その歴代の当主にしか知られない場所がある。皇家では恵子と響子しか本来、その場所は知らない。

 だけど私は何度か響子の後を付け、術斎の場所を特定してみせた。

 それは皇邸の地下に存在した。

 バレたらきっと怒られるだけじゃ済まない。下手すれば破門されるかもしれない。

 だが当時の私は、知りたいという知的好奇心を抑えることが出来なかった。

 その二人が任務で長期間いない隙に、魔力マギアロックを四日掛けて解除し、地下の術斎に侵入した。

 七畳くらいの狭い個室だった。

 壁一面に分厚い書物が敷き詰められており、そのせいで部屋の圧迫感が凄い。

 四方の机には、実験道具の類が綺麗に整頓されていた。

 私はすぐさま魔術で明かりを照らし、書物のタイトルを見ていく。

 そしてすぐに気になるタイトルを見つけた。



 厚さ二十センチほどあるその書物を引っ張り出して、パラパラと頁を捲っていく。

 そこに絵画のような挿絵が見えた。二人が争っているような絵だった。

 一人はまさに神話の本に出てくるような見た目が厳つい神様が、槍みたいなものを持っている。

 そしてもう一人は、何も持っていない。

 白色の髪を足元まで長く伸ばし、よく見るとその人の

 そして厳つい槍を持った人に対して、ただ両手を前に伸ばしているだけ。

 ぱらりともう一度頁を捲ってみた。

 そこには太文字でこう書かれている。


『人間術ハ――純粋故ニ、神ヲ滅ボス者ナリ。

 原初ノ人間ニシテ世界ヲ創造、消エサル存在。

 時代ノ転換。

 神代ノ力。

 破滅ノ狭間。

 来タルベキ時代ニ、原初ノ人間アリ』


 私はどれくらいそこでボーっとしていたのだろうか。

 私は恵子の言う通り神になれるかもしれないが、人間様には決してなれない。

 だって私は皇家の者ではあって、そうでないのだから。そう子供ながらに思ってしまった。


 それから私は、もしかしたらと微かな希望を胸に、時折術斎に忍び込みんで『人間術師全集』を読んで試行錯誤を試みたりもした。

 だが結果が実ることもなかった。

 そうして私はいつか真の人間にはなれなかったが、いつしか『人間様』が現れた時、その役に立てるように頑張ろうと魔術の道に集中した。


 そもそも私は、本当に『神の童』なのだろうか――?

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