管理者と逃亡者5
乙梨:…………?誰も居ないや…
(新市街のとある病院にて、彼は立ち往生していた)
A_103に教えてもらったの、たぶんここなんだけどな……
Si_r:申し訳ありません、乙梨悠仁さん。私に登録されたデータベースには手順の記載がないので指示できません。
(担当AIによる来院の指示に従ったは良いが、手続きの仕方が分からず先に進めないようだ)
乙梨:どうしよ、全然わかんない………
?:おい、お前ら何やってんだ。さっきから見てりゃずっと端末の前でうろうろしやがって……不審者か?
(乙梨が振り返ると、赤い長髪の男性が立っていた。威圧するように腕組みをしているその様子は、かつての知り合いにそっくりだった)
乙梨:……!(樹みたいな人………でも、なんで…?)
Si_r:管理者(マスター)神是樹さん、担当AIより受診の要請を受けたのですが、端末の操作方法が不明なのです。指示をお願いできませんか。
神是:良いだろう。教えてやるからついてこい。
乙梨:あのね、僕……市民IDなんて、持ってないんだけど……どうすればいい?
神是:………ならその腕時計をかざしてみろ。新市街の手続きは顔認証とID認証がある。普通は自動顔認証されて済むんだが……
(腕時計をかざすと乙梨の情報が表示されたようだ)
ああ……なるほどな。お前は旧市街の人間だったのか。んで、次……やりたいことを選べ。
予約の登録、確認に……受診手続。今すぐ受けるんなら手続だ。
(乙梨が指示通りに手続きを済ませると、部屋番号が表示された)
後は廊下を進んで、"戸が開いている"部屋に進め。そうすれば目的は果たせるだろう。
乙梨:………うん、ありがとう。(僕の名前見たのに……樹、何も言わなかった…)
(乙梨が部屋に入るのを見届けた神是は、そのままシステム調整の仕事を続けていたが……)
Si_r:神是樹さん、私と共にご同行願います。
神是:……………ん?お前、確かさっき人間にくっついてたドローンか。わざわざオーナーから離れて何の用だ?
Si_r:オーナーである乙梨悠仁さんの指名です。診療の間、付き添って欲しい…と。
神是:医療AIの判断は?
Si_r:神是樹さんの付き添いは許可されています。ですからどうか、ご協力をお願いします。
神是:(俺が組んだプログラムじゃ、診療中に第三者が立ち会うのは原則禁止だった筈だが……。とにかく、初対面の俺を立ち会いに指示するなんてあのオーナー、妙な奴だな)
分かった。AIの許可があるなら何も言わん、オーナーの所へ案内しろ。
Si_r:ありがとうございます。
(神是が部屋に入ると、乙梨が駆け寄ってきた。受け止めたとき、身体が震えていることに気が付く)
乙梨:一人……怖い…。大きい機械ばっかり……
神是:新市街の病院は、基本的にどこも無人だ。患者以外は院内に居ない。
乙梨:でも、入院してたとき……お医者さん居たもん……
神是:それは医療AIが操縦するロボットだ。必要がなければ出て来ない。
部屋全体がAIの制御下にあるから、無人で機械が稼働していてもなんら問題はない。
分かったらさっさと済ませてしまえ。
乙梨:……………うん…
(乙梨が診療を受け始めた後、神是は後ろでSi_rの調整を始めた)
Si_r:管理者神是樹さん、セキュリティアップデートの予定はありませんが。
神是:お前には元々街の警備を専門としたプログラムしか入力していない。
当分あのオーナーの元で稼働するなら、それなりに必要となるだろう追加のプログラムを入力しといてやる。
Si_r:───27個の新規プログラム、インストール完了。
神是:………もう会うことは無いだろうな。悠人の事は、お前に任せたぞ。管理IDSi_r(えすあいあーる)。
Si_r:管理者神是樹さんからの命令を受け付けました。オーナー乙梨悠仁さんの監視、守護を継続します。
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