管理者と逃亡者3
男の子:ねーみて、ママ!あのお兄ちゃんドローン飼ってるよ!
母親:何言ってるの。動物じゃないんだからあり得ないわよ。
男の子:だってほら、ドローンにリード繋いでるよ?へんなのー。
母親:もう、あんな変な人と目を合わせちゃダメよ!ほら行きましょう!
(親子は奇異の目で彼らを見ると足早に立ち去った)
Si_r:乙梨さん。リード、とは何ですか。
乙梨:飼い犬に着ける手綱かな……ちょうどこんな感じの。首輪と繋いで逃げないようにするんだ。
まあ、僕らの場合意味合いが逆なんだけど……逃げないように見張られてるの、一応僕だし。
Si_r:それは誤解ですよ、乙梨さん。そもそも監視の一環で着用を始めた訳ではないですから。監視の妨げにならないので許可しているだけに過ぎません、努々お忘れ無きよう。
乙梨:………ああ、感謝してるよサー。ある意味今じゃ、命綱みたいな感じになったから……
Si_r:まだ、眠れないですか。
乙梨:うん。昔は起こされても寝るタイプだったのに…この街に来てから、かな。一人で眠るのがこんなに怖いと思うようになったの。
あの時、病室で一人になりそうになって………僕は…
Si_r:A_103もその点については気になっているようです。直前迄冷静だった患者の、あれほどの豹変ぶりはなかなか類をみないと言っていました。
乙梨:……………今も怖い。もしこれが外れて、サーが居なくなったらと思うと……!
(不安に駆られた乙梨は、激しく咳き込んだ)
Si_r:現在の私に与えられた任務は、貴方の監視及び同行です。仮に貴方が離別を望もうとも、A_103の指示あるかぎりは続行し続けます。
話は変わりますけど調子は大丈夫なのですか、乙梨さん。A_103から体調の急激な悪化について確認を求める要請を受けましたが。
(乙梨は答えることができず、無言で座り込んだ。その様子を見たSi_rはA_103へ緊急通報すると、搬送の手筈を整えた)
乙梨:(息が……できない…。ごめんね、サー…こんな僕で………)
<一時間後>
A_103:具合はどうですか、乙梨さん。容態は安定したようですが。
乙梨:………もう、大丈夫。ありがと、オゾン。
A_103:乙梨さん、Si_rから聞いているでしょうが、もう少し貴方について知りたい事があります。
可能な限りで構いませんので、答えて頂けませんか。
乙梨:知りたい、事……?
A_103:乙梨さんは何故、Si_rにここまで深く依存しているのですか?
Si_r:私も知りたいです。避けられる事例は数多あれど、こういう形で頼られた事例はありませんから。
乙梨:……………………。うまくは言えない、けど……久し振りに信じられると思ったから。
(乙梨はそう言うと、掛けていた眼鏡を外した)
あのね、僕……昔は人の本性を見抜く事ができたの。
Si_r:それは、読心術の類いでしょうか?
乙梨:………ううん。考えてる事が分かる訳じゃない。何となく嫌な感じがするとか…そんな感じ。
A_103:ずいぶん曖昧な判断基準ですね、信用に値する精度はあったのですか?
乙梨:うん、嫌な感じの人に撲殺されかけた事もあるし……外れたことは、あんまりなかったかな。
A_103:ちなみにその力の話は、何故過去形なのでしょうか。まるで今は失ってしまったかのような物言いですね。
乙梨:去年、右目が見えなくなったんだ。左もちょっと……悪くなっちゃった。
Si_r:それを聞いて、やっと納得がいきました。どうして一番最初、認証に失敗したのかが……
A_103:………Si_r?
Si_r:義眼ですよね、その右目は。私の個人識別システムである虹彩認証が反応しませんでした。
それ故に私は、市民IDの提示と氏名照合で身元を確認しましたから。
乙梨:……………………そうだよ。他の人を驚かせないために着けてるんだ。
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