管理者と逃亡者

(一人の青年が、追手二名に追われて逃げている。いつの間にか知らない街に迷い込んでいたようだ)


?:まずい………早く逃げ、ないと…!(ここ、何処だ…?)


Si_r:そこの貴方、止まりなさい。この付近は立ち入り禁止エリアです、これ以上の侵入は───


(彼は声の主に一瞬目線を飛ばすも、姿を見つけられぬまま走り去った。まさか相手が機械だとは思いもよらなかったのだ)


?:ちくしょう、幻聴…だったのか……。誰か目撃者が居てくれれば、助かるかもしれないのに……っ!


(破裂音の後に、突如足へ走った鋭い激痛。彼はなすすべなく転倒してしまった)


ぐぅうう……!あの遠距離で、う…撃たれた………のか…?(足が焼けそうだ…痛くて、立てない…)


追手1:こんな所迄逃げやがって、乙梨。俺らを撒けると思ったか?


追手2:無駄口を叩くな。警備ドローンに見つかった以上…俺等の身元が割れて追われるのも時間の問題だ、さっさと仕留めてずらかるぞ。


(追手が銃を彼に向けた瞬間、ドローンがそれを阻むように割って入った)


Si_r:暴力行為及び、立ち入り禁止エリアへの不法侵入を検知。逮捕します。


追手1:ええい、邪魔だロボット風情が!てめぇごと撃ち抜いてやらぁ!


(ドローン目掛けて放たれた銃弾は全弾命中しなかった。逆に避けた隙に撃ち返されて動揺してしまう)


Si_r:反撃を確認。応戦します──


追手2:何やってる馬鹿!もういいからずらかれ!完全に失敗だ………!


追手1:おい、次会ったら最後だからな……震えて待ってろよ!


(ドローンは逃げた追手の情報を転送すると、倒れている彼に近寄る)


Si_r:顔を上げなさい。貴方の身元を確認します。


乙梨:この、声……そうか。あんた、機械だったのか……(だからあの時、見付けられなかったんだな…人を探してたから)


Si_r:登録された顔画像データと一致しません。貴方の市民IDを提示してください。


乙梨:市民……ID?俺、この街の人じゃないから………無くて当たり前…


Si_r:では認証方法を変更します、氏名を名乗りなさい。近隣の市街地に登録された住民票で貴方のデータを確認します。


乙梨:………乙梨、悠仁です。


Si_r:結構です、乙梨悠仁さん。身元の確認が取れましたので貴方を医療機関へ搬送します。容態の悪化を防ぐためにも、そのまま動かないでください。


乙梨:……………うん、ありがとう。(助かった…………)


(安堵から彼は、そのまま意識を失ってしまったようだ。次に目を覚ましたときには既に建物の中だった)


?:………さん。乙梨悠仁さん、分かりますか?


乙梨:……………うっ…?(誰か……呼んでる………?)


Si_r:患者の意識覚醒を確認しました。監視の任務を現時点で終了し担当A_103へ引き継ぎします。


乙梨:………待って。君って…さっきの子なのか?


Si_r:私は周回型監視ドローン、型番はSi_r。確かに、貴方を助けたのは私ですが、それが何か?


乙梨:お願いだ……行かないで欲しい。そばにいて…………


Si_r:それはできません。医師の診療中に第三者が立ち会うことは許可されていないためです。


規則ですから、どうかご了承を。


(引き継ぎの為にドローンが外へ出ようとすると、背後で何かが落ちる音がした。


不審に思ったドローンが引き返すと、彼がベッドから落ちて倒れていた)


乙梨さん、大丈夫ですか?どうして動いたのですか。


(近寄ってきたドローンを、彼はそっと抱き抱えた)


どういうつもりですか、乙梨さん。公務執行妨害になりますよ。今すぐに拘束を解いてください。


(彼は返事をしなかった。相変わらず抱き抱えたままだ)


警告します、このまま拘束を解かない場合は逮捕することになります。なので───


乙梨:………いいよ。捕まってもいい、だから一人にしないで…!


?:Si_r、ここは我々が譲歩しましょう。立ち会いを許可しますので、Si_rの拘束を解いてください、乙梨さん。


乙梨:ほん、と………?一緒に居てくれるの?


Si_r:A_103、どういう了見ですか。明確な規則違反ですので、私は反対です。


A_103:規則違反にはなり得ません、Si_r。副則一章三項、患者の診断及び治療に著しい支障が生ずる場合、担当医と患者本人の同意を得た上で限定的にこれを認める、とあります。


Si_r:しかし、プライバシー保護の観点は?


A_103:本人の同意を得る、との条件で不問として良いでしょう。それに、Si_rなら記録抹消など手段はあるでしょう?


Si_r:全ての監視記録は保管するとの規則です、抹消などもっての他。


乙梨:………あのね。よく分からないけど聞かれて困ることなんか無い。

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