夢と現の狭間で4
医師:えーっと……その夢を見た日がまさか、卯月君が君を訪ねてきた?
烏丸:……………ああ。本当ならあの日、その夢を確かめるつもりだったんだ。熱が下がってなかったこと、あのオッサンがしつこく食い下がってきたことが重なって…行けなかったけどな。
医師:………ね、ちなみにそんな不穏な夢を、過去に見たことはあるの?
烏丸:あるわけねぇだろ。元々そんな夢も見ねぇし、ましてやあんな夢か現実かも区別がつかないようなもん…
医師:じゃ、あれは夢じゃなく現実だったとしたら?眠ったまま行動を起こす夢遊病の一種だとすれば…
烏丸:ねーな。あれが現実に出向いて起きた結果なら、あの場所にたどり着く前に行き倒れだろう。記憶と食い違う理由も説明にならない。
医師:ああそっか、烏丸君でも詳しい場所が分かんなくて右往左往して漸く見つけたもんね。自らの足で出向いたのなら、迷うはずがない。でもさ、卯月君に聞いたけどこの事件には……目撃者が居たらしいよ。
烏丸:………な、何だと!?
医師:現場から走り去る姿をバッチリ見られてた。そして袋小路には遺体があった……んだって。
烏丸:俺の記憶は……何処まで現実と食い違えば気が済むんだ……?
医師:まあまあ、今は君の知ってる事実を全部洗いだそうよ。それが事実とは異なるものであったとしても。
烏丸:あ、ああ……(こんな支離滅裂な俺の話を、真剣に聞いている…のか。俺自身でも信じられないのに…)
医師:ちなみにさ、夢の時間って分かる?大雑把でいいんだ……昼か夜かだけ。
烏丸:うーん……………夜ほど暗くは、なかったな。だが日が照ってたような明るさでもねぇ。
医師:そっか。目撃時刻ともずれてるんだね…(夜の8時だと、あの袋小路は真っ暗になる。明かりがなければ何も…)
ね、絞めてるときに被害者と目は合った?
烏丸:いいや、見向きもしなかったさ。だから妙だとは思ってた。焦点が合わないうちにあの女は死んで……
医師:じゃあさ、その被害者って…君の事が"見えなかった"とか。そう仮定すれば、彼女が抵抗できなかった点についても説明がつく。
襲撃者の姿が見えなかったせいで…パニックに陥って、抵抗しようとした時にはもう………
烏丸:そもそも、あんな短時間で動けなくなるか?俺の体感が狂ってたにしろ痙攣が始まるまで2分足らず………
医師:動きを封じる点にだけ絞って言えば、頸動脈を押さえればいいんだよ。頭部に向かう血流を巧く阻害すれば、数十秒で事足りる。
確かに窒息の症状が出るにはちょっと早いから興奮状態で体感がずれてたと判断していいと思う。集中してたらよくあることだし。
烏丸:見えない……なら俺は、あの女の姿がどうしてハッキリと見えていたんだ?(あれは…夜目が利くってレベルじゃねぇ。本当に昼間かと錯覚していた)
医師:夢と犯行時刻が同時だと考えるからおかしいのかな。やはり、夢は夢の範疇を越えなかった。
烏丸:は?それじゃ最初のむ……なんとかって話に戻るんじゃねーか?
医師:ま、これは実際赴いた前提の仮定になっちゃうけど……
実際に経験した印象深い出来事を、夢として見返す事がある。寝ている間に記憶の整理をする脳の働きに由来するけど、そんな夢は感覚を伴う現実的な内容だったりするんだ。ただし時系列は滅茶苦茶になるけどね。
夢遊病と決定的に異なる点は、寝てる間に実際行動に移さないことかなぁ。あくまで思い出すだけ。
烏丸:………知らない記憶を、思い出す。自分の事なのに、こんな歯痒い事なのか。
医師:そうだね。こればっかりは体験した本人じゃなきゃ、その辛さは分かんないだろうな。
しかし……この仮定が正解だとすれば、とんでもない事実が出てくるかも。
烏丸:とんでもない…事実………?
医師:今の時点では断定できないけど…記憶障害、多重人格……幽体離脱とか。
烏丸:訳わかんねぇよ……!
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