夢と現の狭間で3

烏丸:(まただ………。夢じゃ…鉄パイプで撲って、棄てたのに…決定的に、食い違う…)


うっ……俺は、そんなつもりじゃない……!何が、俺を狂わせる…っ…?


医師:(おかしい…卯月君とは昨日の夜、会っている。当然帰った後に烏丸君が外出してないのも確認してる。


なのに、どうして烏丸君は…卯月君が此処で倒れてるって知ってたのかな?夢……か、まさかね。)


烏丸君、僕たちも戻ろうか。卯月君も搬送したし…これ以上は君の身体が持たないでしょ?


(烏丸は無言で医師に身を委ねる。疑念、後悔…様々な感情が頭の中で渦巻き、体調の悪さをさらに加速させて動けなくなったのだ)


……ね、烏丸君。良ければ聞かせてくれないかな、今回の外出について。本当なら卯月君の取り調べに立ち会って聞こうとしてたんだけどね…


烏丸:俺にも…分からない事が多すぎる。自分を、信じることができない………。核心を掴むはずが、何も分からなくなった!


だが幸い、一つだけはっきりした事がある。俺はもう………眠ってはいけないって事がな。そうすりゃ、あんな夢なんか見なくて済む…


医師:………あのさ、夢を見たくないから寝ないってのはどうかと思う。寝てる間に絶対夢を見るかと言ったらそうじゃないし、白昼夢と言って起きてても見える夢もある。見ないように逃げるだけじゃ、根本的な解決にはならないんだよ。


……ましてや、実害を伴うようなものならなおのこと、ね。


烏丸:じゃあ、どうしろってんだ!?お前には分かるのかよ、人が死に行く様を見せ付けられて……身体の感覚はあるのに抵抗もできねぇ……!


挙げ句起きて知った現実は、最悪の形で的中する!俺の手にはよ、今もはっきり残ってる。


………刺殺されたはずの、あの女の首を締めた感触が。垂れてきた涎の冷ややかさも、徐々に弱っていった脈動も…何もかも!


これがただの夢だと言うんなら、何であの女は違う死に方で死んでんだよ!?

こんなとち狂った夢で誰かを見殺しにするのは……もう、嫌なんだよ。


医師:嫌なら、まずはこの状況について知らないとね。そして対処法を考えるんだ。もちろん一人じゃどうにもならないかも知れないけど……その為に僕がいる。


僕は君の話を、好奇心を満たすためだけに聞くつもりはないよ。側で君が苦しむ様をずっと見てきて、一人の医師として…ううん、一人の人間として助けてあげたい。


だから……ね?烏丸君が体験してきた一連の騒動について、順序だてて聞かせてくれないかな。


守秘義務があるから、許可なくこの話は口外しない。そしてどんな突拍子な話でも信じるよ。


烏丸:"どんな話でも信じる"だぁ?そんな大口叩いて………後悔、すんじゃねーぞ。


そもそも、事の発端はあの日、風邪で酷い熱が出たとこから始まった。薬が無かったせいで寝れなかった俺は……気付いたらあの路地にいた。


直前まで寝ていた記憶はなかった。目の前にはあの女が居て…俺は、その女の首を締めた。今となっちゃ何でそんな事をしたか分からねぇが……ただあの一瞬、"目の前にいる女を殺したい"と思ってた。


あの女、俺が締め上げている間……一切抵抗しなかった。うめき声をあげて俺を罵るでもなく、ただ為すがままで。


身体から力が抜けて、脈動も止まってる事を確認した俺は……女の身体を投げ棄てた………


多分、そこで"夢"が終わったんだ。酷い頭痛と吐き気に見舞われたから…あれは"現実"の感覚だったんだろう。


崩れ落ちた俺は、家の寝床に居た。寝返りも打てなかったか、夜に寝たそのままの体制だった。

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