夢と現の狭間で1

烏丸:………っ。なんだ………今の、夢は…?(酷い熱で魘されたには……あまりに、現実的な………)


(手元に握られた体温計は39度を示している。昨日の夜中に出た熱は、寝ている間にさらに上がってしまったようだ)


参ったな……出掛けたかったんだが。大人しく休むか………


(烏丸が二度寝を始めて暫くすると、部屋の呼び鈴が鳴った。居留守を決め込もうと無視したが、来訪者はしつこく鳴らし続けた)


…………誰だ、こんな時間に…?人が調子悪くて寝てるってのによ…


(玄関扉にもたれ掛かると、烏丸は気だるそうに返事を返す)


何の用だ?誰にも会いたくねぇから、今日は帰ってくれ……


?:……私は警察の者、です。烏丸柊冴さん……貴方にお伺いしたいことがあるのですが。


烏丸:(警察、だと……?さっきの夢といい、ちょっと引っ掛かるタイミングだな……)


………悪ぃが明日にしてくれ。此方も色々忙しいんだ…


刑事:……ほぅ。警察の出頭要請より大事な用とは。まさか証拠隠滅に勤しんでいるとでも?


(その一言でキレた烏丸は、乱暴にドアを開けた。失礼な刑事に面と向かって文句を言おうとするも……)


烏丸:てめっ…いい加減にしやが……!(しまった……!ち、力が抜ける……)


(バランスを崩して倒れそうになった所を、刑事に抱き抱えられた烏丸。諦めてそのまま身を委ねるしかなかった)


刑事:……どうしました?勢いよく飛び出してきたのに、軽く体当たりしてもう終わりですか?


(烏丸は返事をしなかった。その代わりずるずると制御を失った彼の身体がずり落ちていく。


その様子を見た刑事は初めて、彼の違和感に気が付く。手に握られた体温計が全ての答えを示していた)


刑事:烏丸さん……?しっかりしてください!(さすがにこのまま署に連行する訳にもいきませんよね…病院に搬送しておくとしますか。


念のため彼の目が覚めるまでに家宅捜索を済ませておきましょう、もちろん非公式にですが)


(一時間後、目覚めた烏丸は見慣れない天井を見上げていた)


烏丸:(怒鳴った後の記憶がない……俺は一体、どうなったんだ…?やっぱり捕まって…)


刑事:烏丸さん!目が覚めましたか!?


烏丸:あ、あん………たは……?さっきの…!


(烏丸は殴りかかろうと身体を起こすがそのまま突っ伏してしまう)


………ううっ…目が回る……


刑事:……どうか、落ち着いてください。先程の軽率な発言については謝罪します。医師を呼んで参りますので…私はこれで失礼しますね。


(烏丸を寝かせた彼は、一礼すると部屋を後にした)


烏丸:(なんなんだ……一体。早く"あれ"を確かめてぇのに………)


医師:や、具合はどう?卯月君から目が覚めたってのは聞いたけど。


(烏丸は一瞥すると何も答えず顔を背けた。あの男が呼んだ人間を信じることができないのだ)


ふふ…ご機嫌斜めだね?でも君をこの病院に搬送したのも…あの卯月君だから。礼を言ってもバチは当たらないと思うよ、僕は。


烏丸:………なぁ。俺は捕まったのか?


医師:ううん、今君は入院してるの。その間は逮捕や刑の執行が保留になるんだ。だからまだ一応、自由の身ではあるけど……


もし、この病院から出たいと思うのなら難しいと思う。下手な気は起こさずに寝てなきゃダメだよ?


(そこまで言い終わると、医師は烏丸の額に手を添えた)


うーん………まだ動けるまで時間が掛かりそう。もう2日は様子を見ないとね。僕も席を外すけど、何かあったら呼んでよ?


……じゃ、またね。烏丸柊冴君。


(軽く微笑んだ医師はそのまま立ち去った)

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