わんこ君2

?:(……う。俺は………何で急に……?

………しまった、力が抜けて…姿が…)

…………きゅーい。(どうしたものか…)


(人間は此方に背を向け、何かを読みふけっている…彼には気付いていない)


(…………くっ…油断している、今なら殺れるか……!)


?:ぐおおおおお!(覚悟しろ、人間!)


人間:……!(咄嗟に右手を噛ませガードする)……私を倒して、逃げるおつもりですか?幸い今の私は獲物も持ち合わせておりません。構いませんよ、それでも……


?:(……何故だ………何故反撃しない!例え素手でも………!)


人間:……私は……貴方に危害を加えるつもりはありません。例え己に危機が迫ろうとも…ね。


?:(……!人間………まさか俺の声が………聞こえて…)


院長:(……ほんと、不器用なのか言葉足らずなのかねー。わんこ君が人間じゃないとは確かに言ったけど、人間の思考も持ってるし言葉も通じるんだから……ちゃんと言ってあげないとそのまま噛み殺されちゃうよ?)


人間:それに…私の利き手は右です。貴方が咥えている……ね。仮に反撃したところで微々たるものでしょうが。


院長:(……バカ弟子の割には、分かってて出したね?回りくどいやり方をするね…)


人間:……どうしました?身体が震えてますよ。私が想定外の対応をするので怖じ気づきましたか。


?:ぐるる………!(……しまっ!………またあの"悪夢"が…)


(噛み付くのを止めた彼は明らかに怯えている…)


院長:……そこまで。わんこ君もバカ弟子も…落ち着きな。

……ふぅ。まずバカ弟子。言葉足らなすぎだよ?回りくどいのは伝わらないよ。


人間:……申し訳ありません。


院長:んで…わんこ君。僕らに敵意がないのは事実。だけど信じろとも言わないし本当に望むなら外に出る手伝いをするのもやぶさかじゃないよ。


?:ぐるる………?(……外に出る手伝い…だと?俺は自分の意思で此処に来た。手助け等なくとも…)


(院長は人間の怪我を手当てしながら)


院長:んー……じゃあ聞くけどさ、此処に来たときのこと覚えてる?


?:きゅーい?(……?もちろん、覚えて………いや………思い出せない……)


(言われてみれば、俺は気付けば此処に居た。追われ逃げているうちに…だが、過去の記憶すらあやふやなのだ。不自然とは思えないが…)


院長:その反応、やっぱり覚えてないんだろ?ま、無理ないか…"普通の生活をしている限り、絶対たどり着けない"からねぇ…ここ。


人間:私も覚えていませんからね…過去の記憶は保持していますが。


院長:……此処にたどり着ける条件はね、迫害されて居場所を追われた人。ただそれだけなんだ。

……もちろんこのバカ弟子もそう、生前の僕も。だから…此処にたどり着けた君の敵にはなりたくない。無論、無理強いもしない。


院長:んで…わんこ君はどうしたい?此処に居るなら追っ手の心配はない。そりゃバカ弟子がちょっかい出すかもしれないけど…君のこと、気に入ってるみたいだし。

外に出るなら案内しよう、また追われるかもしれないが…ね。


(彼は顔を背け何かを悩んでいるようだが…)


じゃ、こうしよう。出たくなったら僕に声を掛けるといい。バカ弟子じゃ外には出られないだろうし。それまで自由に過ごせばいい、僕とバカ弟子しか居ないからね。

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