明かされた零の過去(学生時代)

キモナシ:一年前の話だけどね、零……自殺を謀ったの。飛び降り未遂だったんだけどさ。


卯月:…………!?な…何ですって…司は、知っていたのですか?


キモナシ:いいや、知らないよ。僕と、当時自殺を阻止してくれた人しかね。


本人からの強い頼みでね……父にも母にも、絶対知られたくないって。


卯月:どうして……零君は自殺を?


キモナシ:親の言いなりになって、自らの意思で生きる事すら赦されない。そんな状況から逃げたいと、抗いたいと言ってたよ。


卯月:抗う……?逃げると形容するのは何となく分かりますが、抗うとは……


キモナシ:自分の死で、親の考えを改めさせたかったんだって。それはさすがに見当違いだって言ったけどね。


しかし……やっぱり僕には相談してくれないんだ。困ったなぁ。


(キモナシは肩をすくめると、やや悲しそうな表情になった)


卯月:何が……ですか?


キモナシ:………ここまでの話を聞いて、卯月君は気にならなかった?"どうして僕が、零の体調不良を知らなかったのか"。


卯月:……………あ。(そ、そう言われれば…)


キモナシ:僕ね、零と約束してたの。自殺について司たちに明かさない代わりに……定期的な経過観察を受けること、勿論具合が良くないならその時点で直ぐ申告することって。


…………一人で抱え込むのがどんなに危険なことか……まだ分かってないのかな。それとも、僕が……司の側に居るからなのかな。近すぎるが故に…頼れなかったってこと?


卯月:そうですね、状況から察するにその可能性が一番高いと思います。副院長であるキモナシさんに頼るのは、やはり司の目に触れる機会に繋がりかねません。


司に知られたくない、と言う心理に従えば分かっていても避けてしまうでしょうね。


(一つだけ、二人の話で決定的に食い違う箇所がありました。キモナシさんの話を聞くまで、何とも思わなかったのですが。


………まさか、"嘘"……なのでしょうか。もう一度、その点については詳しく話す必要がありますね…)


キモナシさん。やっぱり……とは、どういう意味で言ったのですか?


キモナシ:零、誰にも知られたくないって言ってたでしょ?調子が悪くても、病院に行けないともね。


卯月:はい、確かに。(私が気になった点と同じ……ですね)


キモナシ:少なくともその二点に関しては、僕の経過観察でバックアップしようと思ってたわけ。でもね、一番最近の経過観察でさ…体調不良の話は一切出てこなかった。


あれぐらい調子が悪そうだったら、一朝一夕の話じゃ無いはず。なのに……


卯月:ちなみに、いつだったんですか?その……最近の経過観察は。


キモナシ:つい昨日の話なんだよ。だから僕、ちょっと怒ってるんだ。零の異変を見抜けなかった僕自身にね…


卯月:キモナシ………さん……


キモナシ:さすがは医者の息子と言うべきなのかなぁ。悟られまいと隠すのが上手だ。

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